天使が恋を知ったとき

ハコニワ

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二章 白崎聖人の世界 

第14話 何度も

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 4月29日

 僕は朝霧を捕まえて、スマホを出した。昨日撮った写真を出す。不自然な感じで撮った感じが丸出しだけど、仕方ない。
「こいつら、全員分かるか?」
 遠くから撮った奴らの顔写真。
 朝霧は僕とスマホ画面を何度も、交互に見て、終始、僕を睨んだ。
「何これ? 盗撮したの?」
「してない」
「不自然な撮り方じゃん。それをわざわざあたしの前に見せるとか」
 朝霧は僕を盗撮犯だと完全に疑って、呆れている。まぁ、勘違いされるのは分かっていたことだけど。
 とりあえず、この三人の名前が知りたい。朝霧を人気もいない廊下に呼ばせて、尋問は僕もやりたくないんだ。

 何度も何度もお願いするから、流石に朝霧も堪えたのだろう。しぶしぶ答えた。
「その人たち知っているよ。眼鏡の人は鷹偽たかにせくん、家がお医者さんでほぼ将来が決まっているエリート。金髪の人は嘘月うそつきくん。親御さんが何処かの国の外務省で、ハーフでもう既に未来の外務省て決められてる。その、高身長の人は、すごいよ? だってあたしの……あれ? 市川いちかわくんは?」
「市川?」
「あたしのか、ううん、その高身長の人と同じくらい背が高くて、日焼けしてる人。サッカー選手で、色んな大学から声かけられてるんだよ」 
 唯一撮れなかった人物が市川 和也いちかわ かずや。他の三人と比べると、高校からの編入で一般生徒。

 朝霧は、特にこの四名のことは詳しくて、この学校では特に有名人らしい。確かに。勉強もできて将来性も既に決まってて、顔もそこそこ良い。
 こんな奴らが空き巣に入るなんて、誰もが思わないだろうなぁ。 

 敵の情報を知るなら、まず味方から、とか何やら言うけど味方の情報はこれ以上知りたくないので、さくっと敵の情報を知ることに。この日の授業もそっちのけで、僕は昼間から住宅街にいた。

 まずは、鷹偽くん。言われてた通り有名病院の息子さん。病院の跡取り息子て、流石に肩書すげぇな。金髪くんもお家がデカくて、ほんとにこの世の賜物だな。
 市川くんは、高校からの編入で唯一この二人に劣って、お家は一般家庭。僕ん家みたいに一軒家に住んでて、二人に比べると馴染みやすい。

 放課後になるまで、待ちきれずに学校に侵入した。どうせバレてもまた昨日に戻る。こんなのへっちゃらさ。
 有名人のセレブたちがいる学校にしては、警備が杜撰過ぎないか。テニス部のコートのフェンスを登って侵入した。
 警報も鳴らないし、賢そうな犬も飛び出てこない。もしかしたら、運がいいのかも。

 恐る恐る外から窓の外を伺った。流石に建物内に入るにはまずいな。授業している教師だっているし、防犯カメラがある。
 彼らは僕の一個上の先輩たちだ。二年の教室に行くには階段を登るしかない。階段を登ることは、目の前の教室を通らないといけない。
 難しいぞ。

 暫く様子を見ていると、あっけなく鐘がなった。休み時間だ。教室からわんさか出てくる生徒たち。セレブたちでも、僕と同じ高校生。はしゃぐときは年相応だ。
 僕は見つからないように、誰も来ないであろう、人気のないトイレに隠れていた。廊下がざわざわする。休み時間はだいだい10分間。10分間乗り越えれば、大丈夫。

 すると、こんな人気のないトイレに誰かが入ってきた。複数だ。こんな寂れた場所で複数で連れションかよ。
 僕は息を殺して、隙間から誰なのかを確認した。ひっと悲鳴をあげたくなった。だって、四人グループの奴らだったからだ。
 こんな真近で。
 
 僕はそっと閉めたいところだけど、まだ様子を伺わないと。奴らの情報を手に入れるために。なんと奴らは学生の身でありながら、煙草を吸っていた。
 ナイフ男が勧めると、他の二人も続々と。連れションじゃないのか。
「あのコバセン、あんな問題で時間使いすぎ」
「それそれ! しかもこの将来外務省になる俺様に問題突きつけてくんの。いい度胸してんじゃん、て思ってあの問題だしたら鐘なっても分からないまま終わっちまった、あはは」
「和也は吸わねぇの?」
「無理だ」
 それぞれ吸いながら、教師たちの愚痴や自らの勝ち組みルートに浸っていた。
 煙の臭いが充満する。僕の鼻にもツンときた。両親も周りも吸わない人が殆どだから、この臭いはきついな。
 く、クシャミ出そう。
 よりにもよってこんな時に爆発しそう。僕は口を抑えたけど、もう、喉のところに来てて堰きとめることはできない。そのまま爆発した。

 クシャミの音で、誰かがいることが分かった。ナイフ男が煙草を捨てて、こちらに向かってきた。
 あぁ、やばい。ナイフを握って追っかけられたときより遥かにやばい。心臓が口から出そう。そして、その戸が開けられ僕はひどい衝撃に体が跳ね、何が起きたのか意味がわからないまま息絶えた。鋭利な刃物でひとつきだった。

 4月28日

 これは死に戻りだな。
 あんなあっけない死に方初めてじゃないか。洗面台で顔を洗う前に思考も意識もはっきりしていた。
 母さんが作ってくれた朝ごはんは、何度味わっても美味しい。サラダと目玉焼きと、変わらない食卓だ。

 僕は急いで玄関を出た。天和お姉さんに愛姫を任せて僕は、有名学校にまた忍びこんだ。テニス部のフェンスは、杜撰なのか、全く人がいない。

 スポーツでも有名な人がこの学校を卒業している。いわば、輩出してきた学校だ。杜撰なところがあると、僕みたいに侵入されるぞ。

 学校に忍び込んで教室を伺うと、思いもよらない光景が目に止まった。まだ朝の八時にもなっていないのに、生徒たちが黙々と勉強していた。そういえば、登校している生徒が見当たらないと思ったら、既に授業が始まっているのか。

 朝早くて夜も遅い。感心を通り越して呆れたよ。みんな勉強好きなんだな。教師陣が廊下を張り込んでいた。
 遅刻してきた生徒を縛り上げるつもりなのか。または、不審人物を警戒してか。これじゃあ建物内に入るには難しいな。
 でもまたあのトイレは。
 あの煙草の臭い、周りの人や教師陣も知っているだろう。いや、知っていても尚止めない。彼らは将来国を支えるからとか。

 複雑だ。なんだかムカムカしてくるなぁ。
 恐怖よりも怒りが勝っている。彼らがきたら、ぎゃふんと言わすぞ。噂したせいで、彼らがやってきた。
 僕は再び清掃用具に入った。狭い。苦しい。暗い。設備は整えていても、生徒の悪には触れないんだな。

 清掃用具室に置いてあるバケツに、何本もの吸い殻が捨ててあることを見て、怒りがムカムカと膨らんだ。
  
 身長が高いからって、いい気なるなよ。女子がお前なんか目を眩ませてるのは、顔だけだ顔だけ、勘違いすんな。病院跡取り息子なら、不健康なことくらい知ってるだろう。外務省が素行悪かったら、即マスコミの餌になるぞ。市川くんは吸っていない。

 三人は気持ちよさそう吸っているのに、彼だけは隅の方で、誰か来ないか見張っている。そういえば、煙草無理て、言ってたもんな。

 隙間から覗いている。今飛び出して文句言う前にボコボコにされる。暴力浴びるだけは反対。でも今膨らんだ怒りをどこに吐き出せば。

 彼らは僕がいるとも知らずに楽しく吸っていた。よし、出るぞ。そう決めたら速い。僕は扉に手に力をこめて、押した。
 その時だった。奥にしまってあるブラシが傾いて扉にトンと当たった。三人は煙草を吸うのをぴた、とやめた。楽しく吸っていた空気が険悪な空気に。あぁ、デジャヴ感が。

 すると、扉が開いた気がした。隙間から溢れでる光の筋が大きくなったから。恐る恐る顔を上げると、市川くんと目が合った。日焼けした彼の顔は黒くって、目が異様にギラリと光っていた。
「和也、誰かいた?」
「いいや、何もブラシが傾いただけだ」
「はぁ、まじびびったー」
 あれ。彼はこの扉を無言で閉めた。そして彼らは再び楽園に戻る。助かった。市川くんのおかげだ。ありがとう、て言いたいところだけど声が出ない。怖くって、今出したら震えてる。

 彼らは出ていった。ぎゃふんと言わすこともできずに、この日は帰ることに。でも、彼に挨拶していない。
 あの機転は助かった。ほんとに。帰り際会えるだろうか。そもそも家知ってるし、待ち伏せとか。普通に変質者だと誤解されそう。 

 彼はほんとにあのグループの一員なのか。あいつらは普通に煙草は吸うし、人を何回も刺すし、空き巣に入るし、不良と変わらない。
 市川くんははっきり言って、優しい子だ。そんな子が、不良のグループにいる。もしかして、脅されているとか。

 放課後になるまで待ち、彼らが出てくるのを待った。五時ごろ、決まってこの時間帯で彼らが門を出た。和也くんが一人になるときを見図ろう。

 彼らは夜の街をぶらぶら歩き、やっと和也くんが一人になった。帰り際のころだ。
「和也くんありがとう。今日、トイレで」
「は!? あ、あぁ……トイレに入ってたやつか」  
 びっくりしてる。そりゃそうだけど。こうして目の前に来られちゃ、驚愕どころか恐怖だろ。 
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