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ブラック & ホワイト
8裏
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間久辺の作戦を聞いても、正直、半信半疑だった。オレは一度地下格闘技場に潜入しようとして失敗している。だから、こんなに簡単に入り込めるとは思ってもみなかった。
リングアナウンサーが熱のこもった声で叫ぶ。
「さあさあさあ、これは大番狂わせだっ! 飛び入り大歓迎のステゴロに、今日、ニューヒーローが現れた。四天王を次々に倒して次がいよいよ最終バトルっ! この男、いったい何者なんだー!
対して、このニューカマーを迎え撃つのは、この格闘技始まって以来常勝を貫く最強の男。トレードマークの顔のタトゥーを笑顔で歪ませながら、さっそく登場、青木洋二っ!」
ステージに立つオレは、青木の登場を待つ。ようやくサシでやり合えるぜ。
観客の声が一際大きくなり、人垣が割れると、そこから歓声に包まれながらヤツが現れた。青木洋二。トライバルのリーダーにして、この地下闘技場のチャンピオン。
リングに上がった青木は、少しの間観客の方を見渡しながら、腕を上げて歓声に酔っていた。あるいはファンサービスのつもりか知らないが、いつまでも調子に乗っていられると思うなよ。
ようやくオレの方を向いた青木は、口元に笑みをたたえながら、オレにだけ聞こえるくらいの声で言った。
「誰だか知らねえが、なかなかやるみたいじゃねえか。だが、四連戦じゃさぞ疲れたんじゃねえか?」
皮肉交じりの言葉からは、この男の余裕が感じられる。
そうか、そういうことか。
青木がこの格闘技で常勝というのは当たり前のことだったんだ。このリングにおいて、チャンピオンの青木と戦うためには前にいる四天王と呼ばれる選手全員を相手にしなければならない。しかも連続で。普通だったら、青木と戦う頃には体力のほとんどを使い果たしてしまっている。
結局、この穴倉のボスを気取っている青木という男は、外でも中でも、姑息な手段を使って自分が優位な位置でしか戦おうとしない。
「ーーーまあ、確かに疲れたな」
オレは青木の言葉にそう言って返した。額から流れる汗を拭いながら、その手で髪の毛をかき上げる。
その様子を見ていた青木は、オレの方を見て、急に固まった。さっきまでの余裕に満ちた表情が嘘のように顔を強張らせる。
青木は手を持ち上げると、震える手でオレを指差した。
「お、お前その髪……アカサビか!?」
言われて、オレは汗で塗れた手を見てみると、黒く変色していることがわかった。
汗で塗れた手でこすったことで、色が落ちたのだろう。まあ、ここまで来たらもう関係ないか。
そう思い、オレは着ていたシャツを脱いで髪を乱暴に拭うと、黒色の洗髪料が落ちて元の赤色の髪に戻る。すると、観客が再び大きな歓声をあげた。
半信半疑だった間久辺の作戦は、見事に成功した。
今日の昼過ぎに連絡してきた間久辺は、オレと青木が一対一で戦える状況を用意すると言った。だが、実際のところそんな場所はこの地下格闘技場を置いて他にないのだ。そう説明すると、間久辺はオレがこの場所に入り込めるように策を練った。
数日前、地下格闘技場に入り込もうとしたときに、オレは止められて入ることができなかった。理由は、オレが元喧嘩屋のアカサビだと気付かれていたからだ。
だったら、気付かれないように入り込めばいいというのが、間久辺の言葉だった。
そんなのは言うまでもない。だが、手荒な真似を使わずに入り込む方法などオレには考え付かなった。そんな状況で、間久辺が提案したのが、オレの髪を染料で黒く染めるというものだった。
そんな子供騙しでどうにかなるのか?
半信半疑のオレだったが、あいつの言葉を借りるなら、『赤い髪のアカサビはあまりにも有名』とのことだ。
裏を返せば、特徴的な赤い髪を染めてしまえば気付かれる可能性は低い。むしろ、アカサビは赤い髪という固定観念が根付いている分、気付かれないだろうというのが間久辺の考えだった。
結果としてその作戦は見事に成功した。受付の男はオレを見ても誰だかわからなかったようで、今日の地下格闘技に参加したいと言ったら、割とすぐに通された。
本当、間久辺には感謝しないとな。
なんせ、青木洋二とサシでやり合えるんだからな。
リングアナウンサーがオレの存在に気付いたのか、一際声を大きくする。
「おおーっと、これは驚きだっ。正体不明の挑戦者はアカサビ。あの有名な喧嘩屋アカサビだー! 対する青木も最強の名を欲しいままにする不敗のチャンピオン。この夢の対戦カード、果たしてどちらに勝利の女神は微笑むのかっ!」
「ま、待て。俺はそんなの聞いてない」
青木は狼狽した様子でそう言ったが、リングアナウンサーは聞く耳を持たない。この地下格闘技場を実務的に仕切っているのはトライバルの連中なのだろうが、当然、その背後にはスポンサーが付いているはずだ。そして、スポンサーがこれだけ盛り上がっている会場を白けさせるはずがない。
これで、青木はどうあってもオレとタイマン張るしかなくなった訳だ。
「おい、青木。お前、次に会ったときはオレを殺すって言ってたよな?」
「あ、ああ」
「そうか。それを聞いて安心した」
そしてオレは、固く拳を握り込み、青木に向けて突き出した。
顔寸前で止まった拳にみっともなく後ずさる青木に、笑みを向ける。
「これで、オレも全力でテメエを叩き潰せる」
有無を言わさず試合開始のゴングが鳴ると、青木はオレとの距離を取った。
こちらの出方を探るような間合いでけん制してくる。初めて街でやり合ったときとは動き方がまるで違う。オレへの警戒心を強く感じた。
「へへ、喧嘩屋アカサビっつっても大したことねえな」
口では大きいことを言っているが、青木だって決定打となるような攻撃を打ち込んでこない。
まあ、動きは悪くない。地下格闘技で鍛えられているのは確かだろう。急所への攻撃以外基本的になんでもありのステゴロは、路上の喧嘩の延長。青木洋二は、そういう意味では街をデカい面して歩いているヤンキー連中とは踏んできた場数が違う。
だけど、それを言ったらオレもそうだ。
「悪いな。お前がどれだけの場数を踏んできたか知らねえが、オレはそれ以上だ」
様子見はここまでだ。一気に空気を変える。
喧嘩に卑怯もクソもねえが、集団で一人を追い込むような真似や、部下を使って敵の体力を奪ってから止めをさすような姑息なやり方は、気に入らねえ。
相手のけん制は、あくまでこちらが攻撃のための踏み込みをできないようする意味しかない。踏み込めなければ、強い一撃も加えられず、負けることはないとでも思っているのだろう。
だとしたら、考えが甘え。喧嘩屋っつうのは、結局のところ殴られてなんぼだ。いかに攻撃を受けないように立ち回るかを考える格闘技とは、根本的に違う。いかに相手を倒すか。その一点のみが喧嘩屋のスタイル。殴られたら、数倍返しで殴り飛ばせばいいだけの話だ。
距離を詰める間、五発中三発、青木の軽いジャブのような攻撃が顔かすめる。鋭い攻撃。なるほどな、地下格闘技っていうのは、格闘技と路上の喧嘩の丁度中間って感じだ。それなりに喧嘩慣れした人間が、格闘技の戦い方を会得したら、そりゃやり辛いわな。
素直に青木の攻撃に感嘆しながらも、受けた分はきっちりと返す。やられたらやり返すって根性は、施設にいた頃から植え付けられてたからな。
「調子乗りやがって。いい加減痛えんだよ、このクソがっ」
まずは一歩踏み込みながら、青木のガードの上から右の拳を打ちこみ、ガードの位置を固定化させる。頭部への攻撃を警戒するあまり高い位置での守りに集中している青木に、次の一歩でボディブローを叩き込む。腹に力を入れていたようだが、まともに入ったことで息が乱れ、ガードも下がる。頭部、腹部、どちらへの攻撃にも対処しようとするあまり、その構えはどっちつかずで隙だらけだ。
続く攻撃がどこにくるのかわからない青木は、オレの動きを見ようとガードを少し下げた。
その隙を見逃さず、オレはフックを利かせた拳をヤツのこめかみに向けて打ち込む。
「これで、三発目だっ!」
慌ててガードの体勢に入ったが、もう遅い。オレの拳は青木の頭部を捉えた。受けた分の攻撃はきっちり返したぜ。
大きく体を揺らしながら、それでも距離を開こうとする青木。まだ立っていられるんだから、なかなか打たれ強い。だが、ダメージが足に出ているのがふらついた足取りから一目でわかる。
リングアナウンサーも、戦況を解説する。
「うわあっと、テンプルへの痛烈な一撃っ。これはダメージが大きい。だけど青木、耐えました。こここから盛り返すことができるのでしょうか!」
悪いが、オレはエンターテイナーじゃない。盛り上がりなんてどうだっていいんだ。
目の前の相手を叩き潰す。いまだけは、喧嘩屋としての戦い方を解放しよう。
畳みかけるように距離を詰めるオレに、青木は後ずさりながらなんとか逃げようとする。だが、リング場では逃げ場などあるはずもなく、すぐにコーナーに追い込みをかける。
「ぐ、あーっ!」
苦し紛れか、半ば強引にタックルを仕掛けてきた。距離を一気に詰めれば有効打はこないと考えての行動なのだろうが、甘い。腕を広げ、クリンチに入ろうとした一瞬を見逃さず、オレは無防備になった鼻っ面にゼロ距離で拳を打ち込む。距離を詰められ、腕を折り畳んだ状態では有効打と言えるほどの一撃は打ち込めないが、それでも「ぷあっ」と一瞬のけぞったのを確認すると、オレは体を捻り、その遠心力を利用して回し蹴りを首元に打ち込んだ。
さっきのこめかみへの一撃と、今回の強い衝撃により、脳が揺れた青木はほとんど棒立ちになった。それでも立っているのだから、なかなかのタフネスだ。
ほんの少し見直したが、これだけの腕がありながら、穴倉で姑息な戦いばかりするこの男に次はねえ。こいつを叩き潰し、地下格闘技をこの街から排除する。
そうすれば、ここに潜んでいるというアートマンの根城も消滅するはずだ。
「もう、眠れよ」
オレはふらつく青木に、最後の拳を打ち込む。容赦のない一撃は、最大限の敬意の証だ。
まともに顔面にくらった青木は、まるで一本の棒切れにでもなったように真っ直ぐにリングに倒れた。完全に意識はない。
驚いているのか、一瞬静まり返った会場だったが、すぐに堰を切ったように歓声がわき起こった。
リングアナウンサーが熱のこもった声で叫ぶ。
「さあさあさあ、これは大番狂わせだっ! 飛び入り大歓迎のステゴロに、今日、ニューヒーローが現れた。四天王を次々に倒して次がいよいよ最終バトルっ! この男、いったい何者なんだー!
対して、このニューカマーを迎え撃つのは、この格闘技始まって以来常勝を貫く最強の男。トレードマークの顔のタトゥーを笑顔で歪ませながら、さっそく登場、青木洋二っ!」
ステージに立つオレは、青木の登場を待つ。ようやくサシでやり合えるぜ。
観客の声が一際大きくなり、人垣が割れると、そこから歓声に包まれながらヤツが現れた。青木洋二。トライバルのリーダーにして、この地下闘技場のチャンピオン。
リングに上がった青木は、少しの間観客の方を見渡しながら、腕を上げて歓声に酔っていた。あるいはファンサービスのつもりか知らないが、いつまでも調子に乗っていられると思うなよ。
ようやくオレの方を向いた青木は、口元に笑みをたたえながら、オレにだけ聞こえるくらいの声で言った。
「誰だか知らねえが、なかなかやるみたいじゃねえか。だが、四連戦じゃさぞ疲れたんじゃねえか?」
皮肉交じりの言葉からは、この男の余裕が感じられる。
そうか、そういうことか。
青木がこの格闘技で常勝というのは当たり前のことだったんだ。このリングにおいて、チャンピオンの青木と戦うためには前にいる四天王と呼ばれる選手全員を相手にしなければならない。しかも連続で。普通だったら、青木と戦う頃には体力のほとんどを使い果たしてしまっている。
結局、この穴倉のボスを気取っている青木という男は、外でも中でも、姑息な手段を使って自分が優位な位置でしか戦おうとしない。
「ーーーまあ、確かに疲れたな」
オレは青木の言葉にそう言って返した。額から流れる汗を拭いながら、その手で髪の毛をかき上げる。
その様子を見ていた青木は、オレの方を見て、急に固まった。さっきまでの余裕に満ちた表情が嘘のように顔を強張らせる。
青木は手を持ち上げると、震える手でオレを指差した。
「お、お前その髪……アカサビか!?」
言われて、オレは汗で塗れた手を見てみると、黒く変色していることがわかった。
汗で塗れた手でこすったことで、色が落ちたのだろう。まあ、ここまで来たらもう関係ないか。
そう思い、オレは着ていたシャツを脱いで髪を乱暴に拭うと、黒色の洗髪料が落ちて元の赤色の髪に戻る。すると、観客が再び大きな歓声をあげた。
半信半疑だった間久辺の作戦は、見事に成功した。
今日の昼過ぎに連絡してきた間久辺は、オレと青木が一対一で戦える状況を用意すると言った。だが、実際のところそんな場所はこの地下格闘技場を置いて他にないのだ。そう説明すると、間久辺はオレがこの場所に入り込めるように策を練った。
数日前、地下格闘技場に入り込もうとしたときに、オレは止められて入ることができなかった。理由は、オレが元喧嘩屋のアカサビだと気付かれていたからだ。
だったら、気付かれないように入り込めばいいというのが、間久辺の言葉だった。
そんなのは言うまでもない。だが、手荒な真似を使わずに入り込む方法などオレには考え付かなった。そんな状況で、間久辺が提案したのが、オレの髪を染料で黒く染めるというものだった。
そんな子供騙しでどうにかなるのか?
半信半疑のオレだったが、あいつの言葉を借りるなら、『赤い髪のアカサビはあまりにも有名』とのことだ。
裏を返せば、特徴的な赤い髪を染めてしまえば気付かれる可能性は低い。むしろ、アカサビは赤い髪という固定観念が根付いている分、気付かれないだろうというのが間久辺の考えだった。
結果としてその作戦は見事に成功した。受付の男はオレを見ても誰だかわからなかったようで、今日の地下格闘技に参加したいと言ったら、割とすぐに通された。
本当、間久辺には感謝しないとな。
なんせ、青木洋二とサシでやり合えるんだからな。
リングアナウンサーがオレの存在に気付いたのか、一際声を大きくする。
「おおーっと、これは驚きだっ。正体不明の挑戦者はアカサビ。あの有名な喧嘩屋アカサビだー! 対する青木も最強の名を欲しいままにする不敗のチャンピオン。この夢の対戦カード、果たしてどちらに勝利の女神は微笑むのかっ!」
「ま、待て。俺はそんなの聞いてない」
青木は狼狽した様子でそう言ったが、リングアナウンサーは聞く耳を持たない。この地下格闘技場を実務的に仕切っているのはトライバルの連中なのだろうが、当然、その背後にはスポンサーが付いているはずだ。そして、スポンサーがこれだけ盛り上がっている会場を白けさせるはずがない。
これで、青木はどうあってもオレとタイマン張るしかなくなった訳だ。
「おい、青木。お前、次に会ったときはオレを殺すって言ってたよな?」
「あ、ああ」
「そうか。それを聞いて安心した」
そしてオレは、固く拳を握り込み、青木に向けて突き出した。
顔寸前で止まった拳にみっともなく後ずさる青木に、笑みを向ける。
「これで、オレも全力でテメエを叩き潰せる」
有無を言わさず試合開始のゴングが鳴ると、青木はオレとの距離を取った。
こちらの出方を探るような間合いでけん制してくる。初めて街でやり合ったときとは動き方がまるで違う。オレへの警戒心を強く感じた。
「へへ、喧嘩屋アカサビっつっても大したことねえな」
口では大きいことを言っているが、青木だって決定打となるような攻撃を打ち込んでこない。
まあ、動きは悪くない。地下格闘技で鍛えられているのは確かだろう。急所への攻撃以外基本的になんでもありのステゴロは、路上の喧嘩の延長。青木洋二は、そういう意味では街をデカい面して歩いているヤンキー連中とは踏んできた場数が違う。
だけど、それを言ったらオレもそうだ。
「悪いな。お前がどれだけの場数を踏んできたか知らねえが、オレはそれ以上だ」
様子見はここまでだ。一気に空気を変える。
喧嘩に卑怯もクソもねえが、集団で一人を追い込むような真似や、部下を使って敵の体力を奪ってから止めをさすような姑息なやり方は、気に入らねえ。
相手のけん制は、あくまでこちらが攻撃のための踏み込みをできないようする意味しかない。踏み込めなければ、強い一撃も加えられず、負けることはないとでも思っているのだろう。
だとしたら、考えが甘え。喧嘩屋っつうのは、結局のところ殴られてなんぼだ。いかに攻撃を受けないように立ち回るかを考える格闘技とは、根本的に違う。いかに相手を倒すか。その一点のみが喧嘩屋のスタイル。殴られたら、数倍返しで殴り飛ばせばいいだけの話だ。
距離を詰める間、五発中三発、青木の軽いジャブのような攻撃が顔かすめる。鋭い攻撃。なるほどな、地下格闘技っていうのは、格闘技と路上の喧嘩の丁度中間って感じだ。それなりに喧嘩慣れした人間が、格闘技の戦い方を会得したら、そりゃやり辛いわな。
素直に青木の攻撃に感嘆しながらも、受けた分はきっちりと返す。やられたらやり返すって根性は、施設にいた頃から植え付けられてたからな。
「調子乗りやがって。いい加減痛えんだよ、このクソがっ」
まずは一歩踏み込みながら、青木のガードの上から右の拳を打ちこみ、ガードの位置を固定化させる。頭部への攻撃を警戒するあまり高い位置での守りに集中している青木に、次の一歩でボディブローを叩き込む。腹に力を入れていたようだが、まともに入ったことで息が乱れ、ガードも下がる。頭部、腹部、どちらへの攻撃にも対処しようとするあまり、その構えはどっちつかずで隙だらけだ。
続く攻撃がどこにくるのかわからない青木は、オレの動きを見ようとガードを少し下げた。
その隙を見逃さず、オレはフックを利かせた拳をヤツのこめかみに向けて打ち込む。
「これで、三発目だっ!」
慌ててガードの体勢に入ったが、もう遅い。オレの拳は青木の頭部を捉えた。受けた分の攻撃はきっちり返したぜ。
大きく体を揺らしながら、それでも距離を開こうとする青木。まだ立っていられるんだから、なかなか打たれ強い。だが、ダメージが足に出ているのがふらついた足取りから一目でわかる。
リングアナウンサーも、戦況を解説する。
「うわあっと、テンプルへの痛烈な一撃っ。これはダメージが大きい。だけど青木、耐えました。こここから盛り返すことができるのでしょうか!」
悪いが、オレはエンターテイナーじゃない。盛り上がりなんてどうだっていいんだ。
目の前の相手を叩き潰す。いまだけは、喧嘩屋としての戦い方を解放しよう。
畳みかけるように距離を詰めるオレに、青木は後ずさりながらなんとか逃げようとする。だが、リング場では逃げ場などあるはずもなく、すぐにコーナーに追い込みをかける。
「ぐ、あーっ!」
苦し紛れか、半ば強引にタックルを仕掛けてきた。距離を一気に詰めれば有効打はこないと考えての行動なのだろうが、甘い。腕を広げ、クリンチに入ろうとした一瞬を見逃さず、オレは無防備になった鼻っ面にゼロ距離で拳を打ち込む。距離を詰められ、腕を折り畳んだ状態では有効打と言えるほどの一撃は打ち込めないが、それでも「ぷあっ」と一瞬のけぞったのを確認すると、オレは体を捻り、その遠心力を利用して回し蹴りを首元に打ち込んだ。
さっきのこめかみへの一撃と、今回の強い衝撃により、脳が揺れた青木はほとんど棒立ちになった。それでも立っているのだから、なかなかのタフネスだ。
ほんの少し見直したが、これだけの腕がありながら、穴倉で姑息な戦いばかりするこの男に次はねえ。こいつを叩き潰し、地下格闘技をこの街から排除する。
そうすれば、ここに潜んでいるというアートマンの根城も消滅するはずだ。
「もう、眠れよ」
オレはふらつく青木に、最後の拳を打ち込む。容赦のない一撃は、最大限の敬意の証だ。
まともに顔面にくらった青木は、まるで一本の棒切れにでもなったように真っ直ぐにリングに倒れた。完全に意識はない。
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