クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル

諏訪錦

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ブラック & ホワイト

7裏ー2

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 オレは悩んでいた。
 間久辺には任せろと言ったが、正直なにか策がある訳ではない。あのトライバルって連中は常に集団で動いているようだし、オレ一人ではあいつら全員を相手にすることは難しいだろう。
 昔のこととはいえ、最強の喧嘩屋なんて呼ばれ方をしていたオレが、この様とは情けないぜ。
 なんとか一対一に持ち込めれば勝機はあるんだが、トライバルの連中、街を仕切ってるチーム『マサムネ』を警戒しているのか、基本的に穴蔵にこもっていやがる。ライブハウスの地下で秘密裏に行われているという格闘技場なら、あるいは一対一でやり合える可能性もあるのだろうが、オレは顔バレしてるのか入ることができなかった。手荒な手段を行使すれば中に入ることは可能だろうが、そのあとは結局トライバルの連中に囲まれるだけだろう。なにより、あのライブハウスは地下格闘技のカムフラージュとはいえ、あそこでライブを行っているバンドや観客は本物だ。もしもオレが地下格闘技場に乗り込んだら、地下の連中が地上に逃げてきてライブ会場は滅茶苦茶にされ、無関係の人間が被害を受けるかもしれない。それは駄目だ。誰かを救うために、誰かを犠牲にしていい道理なんてない。
 難しいかもしれないが、やはり地下格闘技場から街に出て来たところを狙うしかないか。それだと、トライバルの連中全員を相手にしなければならなくなるが、関係の無い人間を巻き込むよりはずっといい。そう覚悟を決めたところで、電話が鳴った。
 着信相手を確認すると、オレは嘆息して電話に出た。
「おい、学生がこんな時間になに電話かけてきてるんだ。真面目に授業受けろよ」
 第一声、オレはそう言った。少しでも茶化して誤魔化そうと思ったのは、任せろと言った手前、妙案が浮かばなかった自分の不甲斐なさを言葉から悟られないようにするためだったのかもしれない。
 あるいは、無意識になにかを察知したからだろうか―――

「なにか言えよ、間久辺」

 ―――こいつが、行動を起こすってことを。
 オレの言葉を受け、電話の向こうで間久辺は言った。
『アカサビさんとの約束、やっぱり守れそうにありません』
 なんで、嫌な予感ってやつはこうも的中しちまうんだろうな。
 間久辺は、思った通り行動を起こそうとしているようだ。
「言ったはずだ。オレを信用しろって。お前はオレが信じられないのか?」
『そうじゃありません。ぼくはアカサビさんの強さを信じてる。だから、アカサビさんにも信じてほしいんです、ぼくのことを』
「信じていない訳じゃねえよ。ただ今回の一件は、トライバルっていう半グレ集団が絡んでる。暴力を行使することになって、お前になにができる? 実際、御堂がそうだったじゃねえか。戦えもしない人間が動いたって、無駄に怪我するだけなんだよ」
「確かに、そうかもしれない。だけど引き下がる訳にはいかないんです。御堂がやられたのもそうだけど、アートマンという人物は野放しにしておけない。もしも、大切な人がその被害に遭ったら、ぼくはきっと、アカサビさんに任せて動こうとしなかった自分を許せなくなる」
 そして間久辺は、電話の向こうで息を吸い込んだ。
『ずっと逃げてきたんです、ぼくは。これまでの人生、ずっと。怖いことから逃げて、辛いことから逃げて、結果として他人と関わることからも逃げてきました。人と関わることが、昔のぼくにとってはなによりも怖くて、辛いことだったから。だけど、もうそんな自分に戻りたくない。守りたい人たちができたんだ。ぼくにはアカサビさんみたいに腕っぷしの強さはないけれど、それでも戦う術なら持ってるっ』
 確固たる意志を持った言葉に、オレは最後の確認として問いを投げかける。
「間久辺、お前本気なのか?」
『はい。やらないで後悔するくらいなら、やって後悔した方がずっといい』
 他人と関わることが怖いと言った間久辺だったが、オレを含め多くの人間がこいつの手によって救われている。もう一度信じてみよう、そう思えた。
「ーーーわかった。お前の覚悟は痛いほどに伝わった。だから、もう黙って見ていろなんて言わない。それに、そう言うからには考えがあるんだろう? 聞かせてみろよ」
 オレの言葉に『はいっ』と声を明るくした間久辺。
『アカサビさん言っていましたよね。トライバルって連中はまとまってかかってくると厄介だって』
「ああ、丁度そのことを考えていたんだ」
 実際のところ、あいつらの連携には手を焼きそうだ。青木ってリーダー格の男は別格に強いが、それ以外の周りの連中もそれなりに戦い慣れしていた。恐らくは地下格闘技で磨いた腕なのだろう。そりゃ、街の不良レベルとは比較にならない腕を持っているのは当たり前だ。
 だが、間久辺はそんなことを確認してなにをするつもりなんだ。
『あらためて聞かせて下さい。もしも一対一で戦うことができたら、アカサビさんはトライバルを壊滅させられますか?』
 倒す、ではなく壊滅か。
 言葉一つだが、あの気弱そうな間久辺が裏社会に染まっているような気がしてなんだか暗い気持ちになる。
『アカサビさん?』
 なかなか答えないオレを不振に思ったのか、間久辺が催促してくる。オレはすぐに、ああ、と答えた。実際問題、それは土曜の深夜に間久辺と話をしてからずっと考えていたことだ。だが、それが一番難しいことでもある。警戒心の強いトライバルを穴倉から引きずり出しても、必ず多対一に持ち込まれるだろう。
 しかし、この深刻な状況で、間久辺は受話器の向こうで笑った。頭でも打ったのかと思って、なにがおかしいのか聞くと、あいつはこう答えた。
『良かった。それを聞いて安心しましたよ』
「安心って、お前……いったいなにをするつもりなんだ?」
『決まっています。アカサビさんが一対一でトライバルの連中と戦えるような、状況を作ります』
 サシで戦える状況って言うが、そんなことが可能だろうか。穴倉から出てきたところを複数人で襲撃すれば結果的に一対一にはなれるが、生憎とオレにそんな仲間はいない。間久辺だってそれは同じことだろう。
 わからねえ。
 わからねえけど、どうせオレには策らしい策なんてないんだ。だったら、何度も奇跡を起こしてきた間久辺に賭けてみるしかねえか。
「なあ、間久辺。お前がなにを考えているのかわからねえが、任せるぜ。だがその前に聞かせてくれ。本当にやれるのか?」
 信用していない訳ではない。これはあくまで儀式のようなもの。通過儀礼だ。
 案の定、間久辺は『はい』と即座に答えた。短いけれど、すぐに吐かれたその言葉は信用に足るものだと感じた。
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