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モロビトコゾリテ
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石神さんに殴られた左頬が痛い。ことなかれ主義こそぼくの処世術だったはずなのだが、最近やたらと殴られてばかりだ。
頬をさすりながら、そんなことを思いつつ席に戻ったぼくは、その場の混沌とした雰囲気に言葉を失った。ぼくら男組が陣取っている角の六人席。その隣に同じ作りの六人席があり、さっきまで飲み食いしていた主婦らしきおばさん軍団はいなくなって、その代わりにぼくと縁のある女性たちが座っていらした。
「は? なんで兄貴がここにいるわけ?」
第一声から刺々しい我が妹は、絶賛ツンデレとしての伏線を張り巡らせているところなのだろう。いつの日かその伏線を回収し、デレることを心待ちにしているよ……二年くらい前から。
「あ、間久辺君だ。奇遇だねー。妹ちゃん、借りてまーす」
にこやかにそう言った加須浦さんの笑顔に、思わずこっちまでほっこり笑顔になってしまう。
だが、次の瞬間、脇腹辺りに当たった硬い感触と、背後に立つ石神さんの冷笑によって、ぼくの笑顔は思わず引きつってしまう。
彼女、いつの間にかテーブルに置かれたナイフ持って、ぼくに突き付けてきたんだけど、これはなんの伏線だ? ヤンデレ化への伏線を張っているのだとしたら、回収だけはなんとしても阻止しないと。死人が出るよ。
それにしても、不思議だったのは男性陣の方が静まり返っていることだった。まあ、そもそも協調性のない人たちだし、お互いを気遣って話題を振ったりするようなことはしないと思うけど、それにしても静まり返っていた。
なぜこんなに空気がピリピリしているのか、考えるよりも先に、答えの方からやって来た。
「あんたら、男共で雁首揃えてなにやってんのよ?」
声の主、与儀さんは椅子にもたれかかり、こちらを睥睨していた。
なんで与儀さんがここに? という疑問は、側に寄って耳打ちしてきた御堂の言葉で判然とする。
「おい間久辺。お前、さっき与儀さんにも連絡したのか?」
言われて思い出す。
ファミレスに入る前、アカサビさんと侭さん、そして江津の三人が睨み合うのを見て、ぼくは助けを求めて御堂に連絡を入れた。だが、その前に与儀さんにも連絡を入れていたんだ。悶着を起こしていたアーティスト通りは与儀さんの店からも近かったし、彼女なら侭さんを大人しくさせることができるだろうと思って電話したのだが、繋がらなかったのでメッセージだけ送っておいたんだ。
与儀さんはぼくを見る目を妖艶に細め、言った。
「間久辺から『すぐ来て下さい』なんて熱烈なラブコール送ってこられたら、急いで来るに決まってるじゃない」
冗談でもそういうこと言うの止めて下さい与儀さん。
脇腹に食い込むナイフがさらに深くなってます。
ついでに言うと、侭さんの目も怖い。これ針のむしろだ。
ちなみに、話を聞いてみると、与儀さんはぼくからのメッセージに気付くと、店をあけてアーティスト通りまで来てくれたらしい。ただ、その頃には御堂が到着して事態は収束していたため、そこにぼくらの姿はなかった。それから、辺りを見て回っていると、ファミレスの中に目立つ赤い髪の男を発見し、その集団を見て中に入って来たということらしい。
「つか間久辺、この人と知り合いなの?」
首を傾げる石神さん。どうやら、石神さんがさっき言っていた、店に入ったときにすでに待たされていた客というのが、与儀さんのことだったらしい。与儀さんは、連れがいるからと言って店内に入ると、御堂たちが座る席の側に立つなり、こう言ったそうだ。
『そこにいるのは、恋人を差し置いてクリスマスイブに男友達と飲みに行く約束を入れてる、甲津侭じゃない』
……そりゃこの場の空気も凍りつくよ。
そうか。朝のバイトのときから与儀さん、やけに不機嫌だと思っていたら、やっぱり侭さんと喧嘩していたのか。侭さんも侭さんだ。クリスマスイブに彼女を蔑ろにするなんて、女心がまったくわかってないんだからこの人は、まったくもー。
いててて、相変わらずぼくの脇腹が責め立てられてて怖気が立つ。おかしいな、ぼく、石神さん怒らせるようなことしてるっけ?
それにしても、これはどうしたものだろう。改めて見ると、なんて厄介なメンバーが一堂に会しているんだろう。ぼく、なにか悪いことしたかな?
取り敢えず、やって来た店員が混乱していたようなので、ぼくら男性陣と女性陣でそれぞれのテーブルに別れることになった。初め同様、美果ちゃんをぼくの隣に座らせようとしたら、石神さんに激しく抗議された。
人を変態ロリペド野郎扱いしないでもらいたい。
女性陣側に連れて行かれた美果ちゃんを見届け、やれやれと首を振りながら元の席に戻ったぼくは、改めて思った。
男くさいなこの席っ!
隣が華やかな女性陣、しかも石神さんや加須浦さん、与儀さんといった美人が勢揃いときている。ベクトルは違うが、絵里加や美果ちゃんも可愛らしいという意味でテーブルに華を添えている。
それに引き換え、このテーブルの泥臭さったらないよね。
男五、女五に別れたテーブルだが、ここまで格差が生じるなんて嫌になるね。
しかも、ぼくがテーブルに戻ると、なんか感慨深そうに御堂が思い出話なんかを始める。
「そういえば間久辺。お前と熱い夜を過ごしてから、もう三ヶ月が経つんだな」
「御堂。いろいろ誤解されること言わないでくれる?」
「覚えてるか? 俺とお前と与儀さん。三人で一夜を過ごしたこと」
ぼくは頷く。
もちろん、忘れるはずなんてない。それがすべての始まりだったんだ。ぼくが線引屋としてスタートした。
「そんなこと言ったら、オレらも出会って同じくらい経つだろう?」
アカサビさんが言葉を継いだ。
確かにそうだ。公園で不良たちに絡まれているところを助けられたのを切っ掛けに、彼には何度も助けられた。そんなアカサビさんに少しでも恩返しできていたとしたら、やはり街で行ったリバースグラフィティだろう。あれがなければ、アカサビさんがこれほどぼくに心を開いてくれることもなかったに違いない。
「俺らも付き合いなら長いよな。なんて言ったって、クラスメイトだもんな」
江津の言葉に、「そうだね」とぼくは笑顔で答える。
まさか、こんな風に江津と一緒に笑顔で話す日が来るなんて、二ヶ月前のぼくは思いもしなかっただろう。人は関わり合えば変われるんだって、いまならそう思える。
「俺は付き合いは短い。だけど、人間関係ってのは付き合いの長さじゃねえだろう」
侭さんはそう言った。確かに、ぼくらが出会ったのはついこの間の話ですもんね。
……っていうか、ちょっと待って。なんでみんなして思い出話とかし始めるわけ? まるでぼく、この後死んじゃうみたいじゃん。やめてくれよ勝手に死亡フラグ乱立させるの。
むさ苦しい視界から現実逃避するみたいに、ぼくは隣のテーブルの話に耳を傾ける。与儀さんも、ちゃっかり向こうのテーブルに座っているけどうまくやっているかな? そんな心配をしていると、与儀さんは眉尻を下げ、困惑した表情になっていた。
その視線の先には、嬉々として目を輝かせる絵里加の姿がある。
「ーーーお姉さまって呼んでいいですか?」
相変わらず、ぼくの妹はすぐに他所様の妹になろうとする。おにーちゃんジェラっちゃうよ。
「ーーーじゃあウチ、先輩って呼んでいいですか?」
石神さん!?
絵里加の隣に座っていた石神さんは、どうやら与儀さんのファッションセンスとか立ち居振舞いが気に入ったようだ。
「ーーーそれじゃあ私は、師匠って呼ばせて下さい」
加須浦さんまで乗っかった!
いったいなにごとかと思って聞いていると、どうやら加須浦さん、与儀さんがプロのグラフィティライターであることを知っているらしい。そういえば加須浦さんはストリートジャーナルの熱狂的なファンらしいから、『GAGA丸』の特集記事も読んで知っているのだろう。今度グラフィティ教えて下さいとかお願いし始めたよ。
なんか見てると、与儀さんが女性陣の中心に君臨しつつあるな。さながら女帝のようだ。
だが、当の本人はこういう状況に意外にも慣れていないのか、戸惑っていた。
助けを求めるようにこちらに瞳を向けられ、目が合ってしまったため、ぼくは仕方なく行動を起こすことにした。席を立ち、さりげなくを装って言った。
「やーマイリトルシスター。おにーちゃんだよ。それにしても、こんな所で会うなんて奇遇だよね?」
「………」
シカトである。
女性陣の中に切り込むには最適の相手だと思ったのだが、どうやら人選ミスしてしまったらしい。
無駄に視線を集めてしまい、いきなり登場したぼくを一瞥してから、石神さんが思い出したように口を開く。
「ねえ、与儀先輩。さっきも聞いたけど、間久辺とはどういう関係なんですか?」
「ん? あたしと間久辺の関係?」
首を傾げた与儀さんは、一瞬だけ侭さんを見てから、不吉な笑みを浮かべ、こんなことを口にした。
「熱い夜を過ごした仲ね」
凍りつく現場。
張りつめた空気。
さっきの御堂の話を聞いていたのか、侭さんを嫉妬させるために被せてきたよ。
きゃーきゃーと騒ぎ立てるのは加須浦さんだけで、残りはずいぶんと冷めた視線をぼくに送ってくる。
お陰でほら、妹が、アニメを見ているときのぼくの姿を視界に入れたような顔してるよ。
その隣では、そっとステーキナイフに手を伸ばす石神さんの姿が。おかしいな。彼女のテーブルにはステーキなんて置かれていないはずなんだけど、あの尖った先端はなにに向かうんだろうか。恐ろしい。
そしてなにより怖いのは、
「おい、そこの間久辺君。ちぃとばかし、俺をトイレの場所まで案内してくれるか?」
そう言って立ち上がった侭さんは、「お前ら、三、四十分で戻る」と言い置いた。
うむ、ぼくを殺すには余りある時間だ。
なーんて冗談言ってくれちゃって、侭さんもずいぶんとこのメンバーに打ち解けてきたんじゃないかな?
そんな風に温かい目を送ったぼくは、端と首をひねる。あれ、おかしいな。侭さんの目、一つも笑ってないぞ?
頬をさすりながら、そんなことを思いつつ席に戻ったぼくは、その場の混沌とした雰囲気に言葉を失った。ぼくら男組が陣取っている角の六人席。その隣に同じ作りの六人席があり、さっきまで飲み食いしていた主婦らしきおばさん軍団はいなくなって、その代わりにぼくと縁のある女性たちが座っていらした。
「は? なんで兄貴がここにいるわけ?」
第一声から刺々しい我が妹は、絶賛ツンデレとしての伏線を張り巡らせているところなのだろう。いつの日かその伏線を回収し、デレることを心待ちにしているよ……二年くらい前から。
「あ、間久辺君だ。奇遇だねー。妹ちゃん、借りてまーす」
にこやかにそう言った加須浦さんの笑顔に、思わずこっちまでほっこり笑顔になってしまう。
だが、次の瞬間、脇腹辺りに当たった硬い感触と、背後に立つ石神さんの冷笑によって、ぼくの笑顔は思わず引きつってしまう。
彼女、いつの間にかテーブルに置かれたナイフ持って、ぼくに突き付けてきたんだけど、これはなんの伏線だ? ヤンデレ化への伏線を張っているのだとしたら、回収だけはなんとしても阻止しないと。死人が出るよ。
それにしても、不思議だったのは男性陣の方が静まり返っていることだった。まあ、そもそも協調性のない人たちだし、お互いを気遣って話題を振ったりするようなことはしないと思うけど、それにしても静まり返っていた。
なぜこんなに空気がピリピリしているのか、考えるよりも先に、答えの方からやって来た。
「あんたら、男共で雁首揃えてなにやってんのよ?」
声の主、与儀さんは椅子にもたれかかり、こちらを睥睨していた。
なんで与儀さんがここに? という疑問は、側に寄って耳打ちしてきた御堂の言葉で判然とする。
「おい間久辺。お前、さっき与儀さんにも連絡したのか?」
言われて思い出す。
ファミレスに入る前、アカサビさんと侭さん、そして江津の三人が睨み合うのを見て、ぼくは助けを求めて御堂に連絡を入れた。だが、その前に与儀さんにも連絡を入れていたんだ。悶着を起こしていたアーティスト通りは与儀さんの店からも近かったし、彼女なら侭さんを大人しくさせることができるだろうと思って電話したのだが、繋がらなかったのでメッセージだけ送っておいたんだ。
与儀さんはぼくを見る目を妖艶に細め、言った。
「間久辺から『すぐ来て下さい』なんて熱烈なラブコール送ってこられたら、急いで来るに決まってるじゃない」
冗談でもそういうこと言うの止めて下さい与儀さん。
脇腹に食い込むナイフがさらに深くなってます。
ついでに言うと、侭さんの目も怖い。これ針のむしろだ。
ちなみに、話を聞いてみると、与儀さんはぼくからのメッセージに気付くと、店をあけてアーティスト通りまで来てくれたらしい。ただ、その頃には御堂が到着して事態は収束していたため、そこにぼくらの姿はなかった。それから、辺りを見て回っていると、ファミレスの中に目立つ赤い髪の男を発見し、その集団を見て中に入って来たということらしい。
「つか間久辺、この人と知り合いなの?」
首を傾げる石神さん。どうやら、石神さんがさっき言っていた、店に入ったときにすでに待たされていた客というのが、与儀さんのことだったらしい。与儀さんは、連れがいるからと言って店内に入ると、御堂たちが座る席の側に立つなり、こう言ったそうだ。
『そこにいるのは、恋人を差し置いてクリスマスイブに男友達と飲みに行く約束を入れてる、甲津侭じゃない』
……そりゃこの場の空気も凍りつくよ。
そうか。朝のバイトのときから与儀さん、やけに不機嫌だと思っていたら、やっぱり侭さんと喧嘩していたのか。侭さんも侭さんだ。クリスマスイブに彼女を蔑ろにするなんて、女心がまったくわかってないんだからこの人は、まったくもー。
いててて、相変わらずぼくの脇腹が責め立てられてて怖気が立つ。おかしいな、ぼく、石神さん怒らせるようなことしてるっけ?
それにしても、これはどうしたものだろう。改めて見ると、なんて厄介なメンバーが一堂に会しているんだろう。ぼく、なにか悪いことしたかな?
取り敢えず、やって来た店員が混乱していたようなので、ぼくら男性陣と女性陣でそれぞれのテーブルに別れることになった。初め同様、美果ちゃんをぼくの隣に座らせようとしたら、石神さんに激しく抗議された。
人を変態ロリペド野郎扱いしないでもらいたい。
女性陣側に連れて行かれた美果ちゃんを見届け、やれやれと首を振りながら元の席に戻ったぼくは、改めて思った。
男くさいなこの席っ!
隣が華やかな女性陣、しかも石神さんや加須浦さん、与儀さんといった美人が勢揃いときている。ベクトルは違うが、絵里加や美果ちゃんも可愛らしいという意味でテーブルに華を添えている。
それに引き換え、このテーブルの泥臭さったらないよね。
男五、女五に別れたテーブルだが、ここまで格差が生じるなんて嫌になるね。
しかも、ぼくがテーブルに戻ると、なんか感慨深そうに御堂が思い出話なんかを始める。
「そういえば間久辺。お前と熱い夜を過ごしてから、もう三ヶ月が経つんだな」
「御堂。いろいろ誤解されること言わないでくれる?」
「覚えてるか? 俺とお前と与儀さん。三人で一夜を過ごしたこと」
ぼくは頷く。
もちろん、忘れるはずなんてない。それがすべての始まりだったんだ。ぼくが線引屋としてスタートした。
「そんなこと言ったら、オレらも出会って同じくらい経つだろう?」
アカサビさんが言葉を継いだ。
確かにそうだ。公園で不良たちに絡まれているところを助けられたのを切っ掛けに、彼には何度も助けられた。そんなアカサビさんに少しでも恩返しできていたとしたら、やはり街で行ったリバースグラフィティだろう。あれがなければ、アカサビさんがこれほどぼくに心を開いてくれることもなかったに違いない。
「俺らも付き合いなら長いよな。なんて言ったって、クラスメイトだもんな」
江津の言葉に、「そうだね」とぼくは笑顔で答える。
まさか、こんな風に江津と一緒に笑顔で話す日が来るなんて、二ヶ月前のぼくは思いもしなかっただろう。人は関わり合えば変われるんだって、いまならそう思える。
「俺は付き合いは短い。だけど、人間関係ってのは付き合いの長さじゃねえだろう」
侭さんはそう言った。確かに、ぼくらが出会ったのはついこの間の話ですもんね。
……っていうか、ちょっと待って。なんでみんなして思い出話とかし始めるわけ? まるでぼく、この後死んじゃうみたいじゃん。やめてくれよ勝手に死亡フラグ乱立させるの。
むさ苦しい視界から現実逃避するみたいに、ぼくは隣のテーブルの話に耳を傾ける。与儀さんも、ちゃっかり向こうのテーブルに座っているけどうまくやっているかな? そんな心配をしていると、与儀さんは眉尻を下げ、困惑した表情になっていた。
その視線の先には、嬉々として目を輝かせる絵里加の姿がある。
「ーーーお姉さまって呼んでいいですか?」
相変わらず、ぼくの妹はすぐに他所様の妹になろうとする。おにーちゃんジェラっちゃうよ。
「ーーーじゃあウチ、先輩って呼んでいいですか?」
石神さん!?
絵里加の隣に座っていた石神さんは、どうやら与儀さんのファッションセンスとか立ち居振舞いが気に入ったようだ。
「ーーーそれじゃあ私は、師匠って呼ばせて下さい」
加須浦さんまで乗っかった!
いったいなにごとかと思って聞いていると、どうやら加須浦さん、与儀さんがプロのグラフィティライターであることを知っているらしい。そういえば加須浦さんはストリートジャーナルの熱狂的なファンらしいから、『GAGA丸』の特集記事も読んで知っているのだろう。今度グラフィティ教えて下さいとかお願いし始めたよ。
なんか見てると、与儀さんが女性陣の中心に君臨しつつあるな。さながら女帝のようだ。
だが、当の本人はこういう状況に意外にも慣れていないのか、戸惑っていた。
助けを求めるようにこちらに瞳を向けられ、目が合ってしまったため、ぼくは仕方なく行動を起こすことにした。席を立ち、さりげなくを装って言った。
「やーマイリトルシスター。おにーちゃんだよ。それにしても、こんな所で会うなんて奇遇だよね?」
「………」
シカトである。
女性陣の中に切り込むには最適の相手だと思ったのだが、どうやら人選ミスしてしまったらしい。
無駄に視線を集めてしまい、いきなり登場したぼくを一瞥してから、石神さんが思い出したように口を開く。
「ねえ、与儀先輩。さっきも聞いたけど、間久辺とはどういう関係なんですか?」
「ん? あたしと間久辺の関係?」
首を傾げた与儀さんは、一瞬だけ侭さんを見てから、不吉な笑みを浮かべ、こんなことを口にした。
「熱い夜を過ごした仲ね」
凍りつく現場。
張りつめた空気。
さっきの御堂の話を聞いていたのか、侭さんを嫉妬させるために被せてきたよ。
きゃーきゃーと騒ぎ立てるのは加須浦さんだけで、残りはずいぶんと冷めた視線をぼくに送ってくる。
お陰でほら、妹が、アニメを見ているときのぼくの姿を視界に入れたような顔してるよ。
その隣では、そっとステーキナイフに手を伸ばす石神さんの姿が。おかしいな。彼女のテーブルにはステーキなんて置かれていないはずなんだけど、あの尖った先端はなにに向かうんだろうか。恐ろしい。
そしてなにより怖いのは、
「おい、そこの間久辺君。ちぃとばかし、俺をトイレの場所まで案内してくれるか?」
そう言って立ち上がった侭さんは、「お前ら、三、四十分で戻る」と言い置いた。
うむ、ぼくを殺すには余りある時間だ。
なーんて冗談言ってくれちゃって、侭さんもずいぶんとこのメンバーに打ち解けてきたんじゃないかな?
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