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Beautiful spirit
9裏
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この辺りの十二月の外気温は、一日を通して十五度を上回ることはあまりない。それでも、昼頃になると、冬晴れの陽の光が、体を暖めてくれる。
「つっても、やっぱさみぃな」
ガキの頃は本気で、熊とか蛇みたいに冬眠する生き物が羨ましいなんてバカなこと言ってたもんだが、いまでもそんなこと思っちまう俺は、なんも成長していないんじゃないかって思えてくる。本当、笑えねえよ。
それにしても、蛇か。懐かしい響きだ。
そう呼ばれなくなって、もう三年が経つ。
つまり俺がこの街を離れて、三年が経過したということになる。
当時、俺が率いていたチーム『Heavyz』は、俺がいなくなったことで解散となった。ダチや仲間の多くは俺を責めなかったが、一部、俺を裏切り者と呼ぶ者もいる。
だけど、そのことに関して腹は立たない。少し、寂しい気持ちはあったけれど、チームを率いていた俺には、やつらの憤りを受け止める責任があった。俺を信じてついてきてくれた連中を、結果的に裏切ったことに変わりはねえんだからな。
責任を取る意味で街を離れたことは、俺にとって生活を変える良い切っ掛けになったと、いまでは思っている。
不良なんていつまでもやっていられるもんじゃない。大人になったら、必ず卒業して真っ当な道に進まなくちゃならなくなるんだから、これでいい。どうせ引き際だったんだ。そう自分自身に言い聞かせ、仲間たちと袂を分かち、街を離れることにしたんだ。
ただ一つ、気がかりだったのは与儀のこと。あいつは泣き虫のくせに強がりで、隣街の不良の縄張りに女一人で突っ込んじまうような危なっかしいところがあった。俺が街にいられなくなったのは自分のせいだって思い込んで、また危ないことに首を突っ込むんじゃねえか。それだけが心配だった。
だから、俺は、チームとして築き上げてきた繋がりや縄張りを餌に、野心のある部下を焚き付け、与儀の身の安全を約束させた。それが鍛島だ。いまではこの街の顔役になってるみたいだが、そんなことはいまの俺にとってどうでもいいことだ。与儀さえ無事であるならば。
俺が街を離れることになり、与儀は自分を責めながら最後まで謝っていたが、本当に謝らなければならないのは俺の方だ。
当時、俺は多くの敵をつくり過ぎた。仲間たちと一緒に暴れまわること、それだけが生き甲斐で、俺は、仮に自分が殺されたとしても、いまが楽しければそれでいいくらいに考えていたんだ。
本来なら、そんな人間は、誰かを側に置いてはいけなかった。いつか巻き込んでしまうとわかっていたはずなのに、遠ざけることができなかったんだ。
あいつと過ごす時間が、かけ替えのないものだったから。
あいつのことが、心の底から好きだったから。
結果として、与儀は黒煙団に捕まり、乱暴を受けた。
全部、俺の責任なんだ。それなのにあいつは、自分のことを責めて、ついには大好きだったはずのグラフィティまで、憎もうとした。
だから俺は、街を離れる直前、言ったんだ。描き続けろって。お前の描くグラフィティを見ていると、心が安らぐからって。
そして、俺が街を離れてから少し経った頃、一人のライターの作品を目にする機会があった。
ライターの名前は『GAGA丸』。
そのグラフィティを目にした瞬間、一目でそれが与儀の作品だとわかった。それほど長い期間ではなかったが、側であいつのグラフィティを何度も見てきたんだ。見間違うはずかねえ。
そのグラフィティを見て、俺は、思わず笑みがこぼれた。
『男ばかりの縦社会で、女が生きていくためには、ハッタリも大切だ』
いつか俺が言ったアドバイスを、あいつは律儀に守って、『GAGA丸』なんていう男みたいな名前にしたんだろう。そう思うと、あいつのいじらしさが頭に浮かんできて、笑いまで込み上げてくる。街を出てから、楽しいことなんて一つもなかったが、あいつのグラフィティがーーー与儀が頑張っているって事実が、俺の心に安らぎをくれた。
……そうなんだ。街を離れたばかりの頃は、慣れない仕事に苦労したもんだ。
仕事っつっても、やってることは肉体労働のアルバイトで、頭を使うような仕事よりはずっと俺向きだったけど、それでも職場の親方からガミガミ言われる度に、何度殴り飛ばしてやろうと思ったかわからねえ。生活だって、決して楽じゃなかった。ただ、家事に関しては、ガキの頃からやってたから苦にはならなかった。母子家庭で育った俺は、夜の仕事をやっていた母親の代わりに家事をやることが多かったからな。まあ、それでも街を離れたばかりの頃は、知らない環境で生き抜くのに必死だった。
毎日毎日、同じことを繰り返す仕事。
体がくたくたになるまで働いて、親方に怒鳴られて、家に帰るのは明け方近く。それでも、生きるために必死で働いている内に、職場の先輩たちが少しずつ話しかけてくれるようになった。気が付くと、辛いだけだった仕事にやり甲斐が生まれてきて、俺は、あらためて仲間の存在の大きさを知った。街にいた頃と同じだ。気が付くと俺は、育った街から離れた土地で、独りきりではなくなっていた。あんなにうざったかった親方も、実は面倒見が良いことを知った。
『最近、真面目に働いているな』
ある日、そう言って俺を事務所に呼んだ親方は、そこで、正社員登用の話を俺に持ちかけてきた。俺がやってきたことを、親方はずっと見ていて、会社に、俺のことを推薦してくれていたんだ。嬉しかったよ。だってさ、腕っぷしだけしか取り柄のなかった俺が、初めて真っ当なことで認めてもらえたんだ。そりゃ喜ぶって。
だけど、正社員になるためには、最低限の条件というものがあった。
それは、高校を卒業していること。
そのときばかりは、俺は過去の自分を恨んだね。最初の一週間で停学をくらった俺は、それきり高校には一度も行かなかった。だから当然、高校卒業の証明だってない。
それからというもの、夜はいつも通り働きながら、昼間の間だけ定時制の高校に通うようになった。唯一の趣味だったパチンコもほとんど打たなくなり、二十五歳になって、初めてまともに学校に行くようになった。
それからは夜間は肉体労働をして、朝方帰ってきて、眠り、起きたら学校に行くという日々をほぼ毎日繰り返した。苦労したが、その甲斐あって四年で卒業予定だったのが、三年、つまり今年の春で卒業できることになったんだ。
正直言って、大変だったよ。
働きながらなにかをするって、こんなにも難しいことだったんだな。
俺は、初めて知ったんだよ。それが、どれだけ大変なことか。
自分一人生きていくのも大変なのに、ましてやガキを育てながら働くなんて、考えられねえよ。
それなのに、俺、生意気ばっかり言ってたよな。ごめんな。
だけどさ、そんな俺でも、四月に卒業したら、いま働いている職場で晴れて正社員になれるんだよ。なあ、笑えるだろう?
この暴力バカが、高校を卒業して社会人になるんだぜ?
ずっと、言ってたもんな。
俺には、高校くらい出てもらいたいって。
「なあーーー母さん」
俺は車椅子を押す手に、力を込める。長く続く坂道のせいで、いつの間にか背中にじっとりと汗を感じていた。だが、めっきり痩せちまった母さんはきっと寒いだろう。もっと厚着をさせてくれば良かったと後悔した。
俺は、再び思い出話をする。街を出ている間のことを思い返しながら、母さんに語って聞かせてやる。
ガキの頃の俺は、正直言って、夜、男たちに媚び売りながら酒を飲ませる仕事をしていた母さんを軽蔑していた。けれど、いまならそれがどれだけ大変なことか、少しはわかるようになった。
働くって、どんなことでも大変だよな。俺、ようやく少しだけわかるようになったんだ。春には晴れて真っ当な社会人になって、これでようやく母さんを安心させることができる。これからは、少しずつでも、親孝行していけたらなんて考えていた、そんなとき、職場に連絡が入った。
実は、いま働いている所から初給料が出たばかりの頃、俺は一度だけ街に戻ってきたことがある。目的は、家のポストに金を入れるためだったんだが、そのとき使った職場の封筒から連絡先を知ったらしく、母さんのケータイの家族の欄に、俺の職場の連絡先が登録されていたらしい。
ケータイの番号も知らせてなかった俺は、職場の上司から聞かされて、初めて知ったんだよ。
母さんが、倒れて入院したって。
先月の半ば頃に、休みをもらってすぐに病院に向かった俺は、そこで医者から母さんの病気について聞かされた。
なんだか難しい専門用語ばかり並べ立てられていたせいか、それとも俺があまりに混乱していて話に集中できていなかったのか、とにかくそのときのことはあまりハッキリと覚えていない。ただ、わかったことは母さんの余命が、三ヶ月あるかどうかということ。その病気が、肺がんと呼ばれ、すでに手術が意味を成さないほど進行している、ということだった。
『冗談だろ? なあ、先生。ぜんぜん笑えねえよっ』
俺の言葉に、そっと目を伏せる医者。その仕草がすべてを物語っていて、俺は怒りに任せて叫んだ。
『ふざけんな! あんた医者だろっ、なんとかしろよ!』
しかし、いくら怒鳴り声をあげても、医者は言葉を撤回しなかった。
これまでの人生で、思い通りにならないことがあったら、暴力をちらつかせれば、なんでも解決していたというのに、今回ばかりは、どれだけ怒鳴ってビビらせても答えは変わらなかった。
がんを取り除くことは不可能だ、と。
それなら、一等良い薬を処方してもらおう。俺は足りない頭をフル活用して考え、ネットや本を読みあさり、色んな治療法を調べ、医者にやって貰えるように頼んだ。
だが、効果が見込める可能性のある治療として取り上げられていたものは、先進医療と呼ばれる、保険適応外のものばかりで、貯金なんてほとんどない俺にはとても継続して払い続けられるものではなかった。
それなら借金をしてでも金を用意してやる。
病室で騒ぐ俺の声に気付いたのか、意識を失っていたはずの母さんが目を覚まし、言った。
『そんな治療は受けないし、入院もしません』
そう言って、本当に帰ろうとする母さんを、俺と医者で必死に止めた。
日常生活を送っていて、倒れてしまうほどの患者を退院させるわけにはいかないということで、母さんは入院することになったが、頑として先進医療を受けることを拒み続けた。口では、『放射線治療で髪が抜け落ちたり、まともに食事も摂れなくなってまで生きていたくない』と言っていたが、本心はきっとこうだ。
『高い治療費を、息子に払わせるわけにはいかない』
抗がん剤治療だけは始めたが、効果は見られず、半月も経たない内に体重は五キロも落ち、一ヶ月目に入ると自力で歩くのもやっとというほど、弱っていった。みるみる痩せていく母さんを見て、俺は、どうしたらいいのかわからなくなった。そもそも、医者でもない俺には、病気で苦しむ母さんになにもしてやれない。だからせめて、精神的に楽になればいいと思い、聞いてみたんだ。
『なあ、なにかして欲しいことはないか? 欲しい物とかでもいい。なんでも言ってくれ』
すると、俺の問いに母さんは一言、『商店街』と言葉をもらす。
それまで、弱みを俺に見せないようにしていた母さんも、苦しそうに咳き込む姿を度々見せるようになっていた。口を開けば咳き込む可能性が高くなるのか、母さんは俺に弱みを見せないために、口数もめっきり減ってしまった。
それでも、昔を思い出しているのか、そのときばかりは『桜通り商店街が、もう一度、見たい』と震える声で言った。
あの場所は、俺にとっての思い出の場所であると同時に、母さんにとっての思い出の場所でもある。俺を産んだばかりの母さんが、家族からも見放され、知らない土地で生きていくためには、夜の仕事で金を稼ぐしかなかったんだ。そんな母を、近隣住民は疎ましく思っていたのか、いつも陰口を言っていたことを俺は知っている。
そんな母さんを受け入れ、親切にしてくれたのが、桜通り商店街の人たちだったんだ。当時、誰にも頼ることのできなかった母さんにとって、温かい、まるで家族のように受け入れてくれた商店街がどれだけ心の支えになったか、わからない。
だから俺は、もう一度あの商店街に行きたいという母さんの願いを叶えるために、思い出のあの場所に久しぶりに足を運んだんだ。
だが、そこで目にした光景は、衝撃的なものだった。かつて賑わっていた商店街は、すべての店がシャッターを下ろし、落書きだらけの廃墟のような場所に変わり果ててしまっていた。
その日から俺は、落書きの除去作業をするようになった。閉じてしまった店のことはどうすることもできないが、清掃して、キレイな姿に戻すことくらいはできる。そう考え、一人活動していたが、いくら上からペンキで塗りつぶしても、またすぐに落書きが上書きされ、埒があかなかった。警察も頼りにならない。しかし、母さんの具合も気になるから、商店街に張り付いている訳にもいかない。
事実、母さんは、日に日にやつれていって、見るからに元気もなくなっていた。
そんなある日、偶然、ガキが落書きしている現場に遭遇した俺は、「なんでこんな落書きをするのか」って問い詰めると、その犯人は、泣きそうになりながらこう言ったんだ。
『線引屋に、憧れて』
それを聞いた瞬間、俺は、一筋の光を見つけた気分になった。
いくら消しても、上書きされる落書きに、どうしたらいいのか途方に暮れていたんだ。俺が街にいた頃は、ライターなんて数えるほどしかいなかった。それが、ここまで増えた原因。俺の倒すべき敵が、明確化された瞬間だった。
それからはなりふり構わず、ライターを発見したら力でねじ伏せるようになった。狙いは線引屋と呼ばれる、ストリートのカリスマ。やつを叩き潰すことができれば、きっと商店街に落書きしていた連中も、グラフィティに興味を無くす。そう思い込んでいたんだ。
だけど、実際、線引屋を名乗る間久辺というガキを目の前にして悟った。
あれはただのガキだ。どこにでもいる、普通のガキ。
それをいくら痛めつけたところで、なにも状況は変わらない。
俺のやっていたことは、この救いのない状況で、八つ当たりする対象を探していたに過ぎなかったんだ。
それくらい俺は焦っていたんだよ。
壁の落書きは益々増すばかりだし、解決法として最善だと思っていた、線引屋襲撃も意味を成さないと悟った。ならば、俺にできることはなんだ?
日に日に弱っていく母さんを、ただ見ていることしかできないのか?
そんな自分の無力さに憤りを感じていた俺のもとに、昨夜、鍛島の部下がやってきた。確か、名前は御堂とかいったか。
ほとんど病院と商店街を行き来していた俺は、病院の許可を得て夜間は母さんの側にいることが多い。どこで聞きつけてきたのか知らないが、御堂は病院にやってきて、俺に言ったんだ。
『明日、商店街に来い。あんたの望みを叶えてやる』と。
本来ならそんな言葉を真に受けたりしないのだが、もう俺にはどうしたらいいのかわからない。母さんの体調は日に日に悪くなり、いつまで外出許可が下りるかわからない。だから、一縷の望みに賭けてみることにした。
今日は比較的体調が良いのか、母さんの顔色も良かったため、外出許可がおりた。母さんは、商店街へと続く坂道を眺めながら、「懐かしいわね」と呟く。
この坂を上りきった先に、そろそろアーケードが見えてくる。
あの落書きだらけの商店街を見て、母さんはどう思うだろう。
頭の中で、落胆するため息が聞こえる気がした。
瞳を閉じると、悲しそうに歪む表情が目に浮かぶ。
俺は、母さんのたった一つの願いも、叶えてやることができない。
自分の無力さを痛感していると、商店街の入り口に差し掛かったとき、ぼそっと「……綺麗」と、母さんが呟いた。
なんのことかと思い、閉じていた瞳を開いた俺は、視界に飛び込んできた光景に、目を疑った。
「とても、綺麗な桜ね」
母さんの言葉通り、満開に咲き誇る桜の光景がそこには広がっていた。
冷たい風がアーケードの向こうから吹き抜け、ガタガタとシャッターが揺れる音がすると、桜の花びらが一緒になって舞い散るような錯覚に襲われる。
一瞬なにが起きたのかわからなかったが、その桜は閉ざされたシャッターに描かれたものだった。昨夜まで落書きで埋め尽くされていたはずのシャッターすべてに、桜の絵が上書きされている。
「嬉しい。また、この場所で桜が見られるなんて」
ここの桜は、俺と母さんにとって、いつも節目に現れた。
俺の進学、卒業……いつもここの桜が、俺たち家族を見守っていたんだ。
今回の桜も、きっとなんらかの節目であるのだろうと思う。
それまで嬉しそうに壁の桜を眺めていた母さんは、昔を思い出したのか、言った。
「ごめんね、侭。私は、周りのお母さんたちみたいに、良い母親ではなかったよね。あなたに、母親らしいことなんて、一つもしてあげられなかった」
「っ! そんなことねえよ!」
俺は喉がかれるくらい、全力で否定した。
実は、俺が病院に駆けつける直前、職場の親方から聞いたんだ。
母さんは、俺が初任給をポストに入れて帰った数年前、封筒に書かれた電話番号、つまり親方のところに電話したことがあるらしい。そこで、色々な話をしたみたいなんだ。親方が言うには、母さんは終始俺のことをよろしく頼むと言っていたらしい。それから、親方は俺のことを意識して見るようになったと言っていた。
俺が病院に向かう直前、『良いお母さんだな』って、親方は言った。
本当、そうだ。
俺は、そんな母さんのことをずっと軽蔑していた。夜、男たちに媚を売るような仕事に、嫌悪していたんだ。
だが、俺は深く考えてこなかったんだよ。高校在学中に妊娠して、相手から認知されないまま俺を産むことを選んだ母さんは、高校を中退し、家族からも見放された。一人きりで俺を育てるためには、夜の仕事くらいしか金を稼ぐ方法がなかったんだ。
だから、ガキの頃、ほとんど一緒に遊んだ記憶なんてねえ。
流行ってた玩具だって、なに一つ買ってもらった記憶もねえ。
ガキの頃の俺は、そんな自分は不幸な家に産まれてしまったんだって神様を呪ったりしたよ。別の家に産まれたかったなんて、残酷な言葉をぶつけたこともある。だけどさ、母さん。いまならはっきり言える。
「俺は、あんたの息子で良かった。胸を張って言えるよ。母さんより良い母親なんて、いない……」
だから、俺はさっきの言葉を、何度だって否定してやる。
『母親らしいことなんて、一つもしてあげられなかった』
そんなこと、あるわけがない。だって、だってよぉーーー
「ーーー俺なんかを育てるために、自分をとことん犠牲にして、働き続けてきたじゃねえかっ」
感情的になる俺の虚しい叫び声だけが、こだまする。
母さんは静かに口を開き、息を吸い込んだ。
「私は、なんと言われても、自分が良い母親だったなんて思えない。寂しい思い、いっぱいさせたよね? ごめんね。だって、全部私のわがままが招いたことなんだもの。高校生のときに妊娠したのも、周りの反対を押しきって産むことにしたのも、全部、自分のためだったの。だって産まれてくる子供に……あなたに、会いたかったから」
だから、辛いことなんてなかったと、震える声で母さんは強がりを言った。
そんなの嘘だってことくらい、わかる。
俺は、好き放題生きてきた。
ガキの頃から荒っぽい性格で、気に入らないことがあったらすぐにキレて暴れた。中学にあがる頃には、俺の悪名はかなり知れ渡っていて、先輩たちから手痛い洗礼を受けたりしたが、翌日には闇討ちでやり返し、俺はヤンチャな先輩たちからも、ヤバいヤツのレッテルを貼られた。
そうなったら、俺に近付こうとするヤツなんていなくなる。
その頃から、街の、いわゆる不良グループと呼ばれる連中のところに出入りするようになった。
俺が暴力事件を起こす度に、母さんは何度も何度も学校や警察に呼び出された。仕事明けで朝方帰ってきてすぐに、呼び出されたこともあった。
それでも母さんは、俺のことを諭すように叱りつけたけれど、見放したり、苛立ちをぶつけてくることは一度だってなかった。
そんな母さんの優しさに甘えて、俺は悪態をつくばかりで、母さんの話に耳を傾けようとはしなかったんだ。
「ねえ、見て。本当に綺麗。とても、綺麗な桜ね」
「そうだな。昔を思い出すよ。ガキの頃、母さんが忙しいのわかってて、それでも構ってもらいたくて、遊びに連れて行けって俺、よくごねたよな? そんな忙しいとき、母さんが決まって連れてきてくれたのがここだった」
「そう、だったわね」
だから俺は、この商店街が大好きだったんだ。
ここに来れば、母さんを影で悪く言うヤツらはいない。
そして、温かい人たちに会えたから。
母さんの温かい手を、握ることができたから。
「好きだったわ。この商店街から見る、桜が。もう見られないと思ってた」
そうだ。この辺りの桜は住宅地の開発で軒並み伐られてしまった。
だから、再びこの場所で桜を見ることなんて、できないと思っていたんだ。
だが、昨夜まで落書きで溢れていたシャッターの上から桜の木を上書きした人物のお陰で、こうして再び母さんと桜を見ることができた。
しかも、信じられないことに、その人物はたった一人で数十枚にものぼるシャッターを一晩で染め上げたようだ。
俺はグラフィティの知識に明るいわけではないが、見てきた数なら誰にも負けない自信がある。だからわかる。ライターは基本的に独学で描き方を開発していくため、学校の美術でならうように画風が似通ったりすることがあまりないようだ。端的に言うと、百人のライターがいたら、百人の癖が絵に出てくるわけだ。
たとえばこの花びら一つ一つ、繊細に書き込まれているものにも癖があって、花弁の先端の細くなる部分が、すべて右向きになっているという癖がある。それとまったく同じ癖を、俺は過去に、別の花を題材にしたグラフィティで見たことがある。GAGA丸ーーー与儀の描いたという、ステンシルアートがまったく同じ特徴を有していたのだ。
だから、俺にはわかる。この花びらは、与儀がつくったステンシルだ。一枚一枚、折り重なるような花弁が丁寧に作り込まれている。
そして、その花弁を引き立てる木の幹の部分。すべての落書きを飲み込むように荒々しく引かれた線は、けれど与儀の繊細な桜の花びらと合わさっても、激しく主張してくることはない。あくまでも主役は花びらで、シャッターの多くの割合を占めているはずの木の部分が、徹底的に脇役に回るように、計算されて描かれている。
一晩でこれだけの広さの壁を染め上げるだけでも現実的ではない上に、後から桜の花びらを上書きすることまで計算して木の幹と枝を描くなんて、ほとんど不可能に近い話だ。
だが、現実問題として、それをやり遂げた人物がいる。いったい誰にそんなことができる?
その答えは、すぐに判然とした。俺はその人物と、すでにこの場所で会っている。俺が商店街の落書きを消そうとしていることと、この場所が桜通り商店街と呼ばれていたことを、そのときに話したんだ。
ーーー線引屋。あのガキしか考えられない。
あいつは与儀の店でバイトをしているとも言っていたから、すべての辻褄も合う。
俺は、逆恨みで線引屋を襲った。本来なら恨まれていてもおかしくないはずなのに、あいつは、俺がやろうとしていることを知って、思いもつかない方法で落書きを消し去ってみせた。
ゆっくりと商店街を先に進みながら、壁の桜にみとれていると、奥の方が騒がしいことに気付く。
駅の方向に面しているアーケードの入り口を見ると、普段は寄り付かない近隣住民や、噂を聞き付けてきた若者たちが、壁のグラフィティを見ながら、感嘆の声をあげている。その中の若者の一人が言った。
「こんな事ができるのは、線引屋だけだ」
賑わう人の群れの中には、見覚えのある顔も見られた。
かつて、商店街で店を開いていた人たちがそこに集まっていたのだ。
その中にいた向坂のじいさんと目が合うと、視線を外し、車椅子に乗った母さんの姿を見て、眉根を下げた。
向坂のじいさんとは、俺が街に戻ってきてから何度かこの場所で会い、母さんの病気のことも話してある。あの様子から察するに、元商店街の人たちを集めたのは、向坂のじいさんだろう。あの人の周りに集まっていることが、なによりの証拠だ。
人で溢れる商店街を見て、母さんは言った。
「懐かしい。キレイな桜に、大勢の人。まるで昔に戻ったみたい」
ふふ、と笑った姿を見て、それは弱々しかったけれど、それでも声をあげて笑う母さんの姿を見たのは数年ぶりだった。
良かった、笑ってくれた。そう喜ぶ俺に、母さんはぽつりと言った。
「もう十分だわ。これで思い残すことはない。最後に良いものが見れたもの」
その言葉に、俺はハッとして息をのみ、唇を噛んだ。そうでもしないと、涙が止めどなく溢れてきそうだったから。
俺は車椅子を押す手を離すと、回り込んで母さんの正面に行き、膝をついた。
「……足りねえよ」
口を開くと、噛み締めていた唇の痛みから解放され、それと同時に我慢していた涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。
「ぜんぜん足りねえんだよ。これから……これからなんだ。母さん。いままでずっと、自分を犠牲にして俺を守ってきたじゃねえかよっ。これからは、俺がいっぱい楽させてやるから。守ってやるからっ」
ーーーだから、最後なんて言わないでくれよっ!
その言葉は、涙と嗚咽にまみれて、声にならなかった。
流れる涙を止めようと、蓋をするみたいに瞳を閉じてみても、感情が溢れ出るように、隙間を縫って涙も流れた。
そのとき、ふと、熱い頬にひんやりと冷たい物が当たり、俺はゆっくり目を開いた。
そこには、辛いだろうに、背もたれから身を起こして、俺の涙を必死に拭おうとしている母さんの手があった。ガキの時分、そうしてくれたように。
そして、母さんは俺を安心させようと弱々しく笑う。
その表情を見るたびに、後悔ばかりが襲う。
もっとちゃんと向き合えば良かった。母さんの元気な姿を、もっとしっかりと見ておけば良かった。本当は、話したいことがいっぱいあるんだ。伝えたい想いも、山ほどある。時間なんて、いくらあったって足りないんだ。
だけど、苦しいくらい涙が込み上げてきて、ひとつも言葉が出てこない。
「ねえ、侭。私は幸せだよ。頭も悪いし、要領も悪いから、料理だって洗濯だって、掃除だって下手で、人に誇れるものなんて、本当に一つもなかったんだ。それでも、あなたと過ごした二十八年間、私の人生は幸せだったんだよ。それはね、一つだけ誇れるものがあったから」
涙で滲む先に、母さんの誇らしげな顔があって、俺と目が合うと、ジッと見つめてから小さく頷いた。
「私の誇れるもの。それはあなたよ、侭。私に、この世界で生きる意味を与えてくれた。だから、ありがとう。この世に、私が生きていた証をくれて……ありがとう」
気が付くと、母さんの瞳にも涙が溜まっていた。
俺は堪らず、頬に添えられた手を握ると、再び涙がこぼれた。
こんなに細く、小さくなってしまった母さんの手。昔、この商店街を手を繋いで歩いていたときは、あんなに温かかったのに、いまはこんなにも冷たい。
母さんは、瞳に沢山の涙を溜めながら、アーケード越しの空を眺め、言った。
「だけど、やっぱり見たいなぁ、桜」
桜なら、ここに沢山あるじゃないかーーーそう言おうとして、やめた。
母さんの言葉の真意がわかって、俺は、なにも言えなくなった。
本物の桜が咲き乱れるのは春先、三月から四月にかけてのことだ。
それは丁度、俺がこれから定時制高校を卒業して、正社員として社会に出る頃なのだ。
「見たかったなぁ」
そう言って、涙をポロポロと流す母さんが落ち着くまで、俺は手を握る。またあの日のように、温もりが戻ってくるよう願いながら、十数年の溝を埋めるみたいに、この思い出が詰まった桜の光景の中で、ずっと、手を握り続けたよ。
「つっても、やっぱさみぃな」
ガキの頃は本気で、熊とか蛇みたいに冬眠する生き物が羨ましいなんてバカなこと言ってたもんだが、いまでもそんなこと思っちまう俺は、なんも成長していないんじゃないかって思えてくる。本当、笑えねえよ。
それにしても、蛇か。懐かしい響きだ。
そう呼ばれなくなって、もう三年が経つ。
つまり俺がこの街を離れて、三年が経過したということになる。
当時、俺が率いていたチーム『Heavyz』は、俺がいなくなったことで解散となった。ダチや仲間の多くは俺を責めなかったが、一部、俺を裏切り者と呼ぶ者もいる。
だけど、そのことに関して腹は立たない。少し、寂しい気持ちはあったけれど、チームを率いていた俺には、やつらの憤りを受け止める責任があった。俺を信じてついてきてくれた連中を、結果的に裏切ったことに変わりはねえんだからな。
責任を取る意味で街を離れたことは、俺にとって生活を変える良い切っ掛けになったと、いまでは思っている。
不良なんていつまでもやっていられるもんじゃない。大人になったら、必ず卒業して真っ当な道に進まなくちゃならなくなるんだから、これでいい。どうせ引き際だったんだ。そう自分自身に言い聞かせ、仲間たちと袂を分かち、街を離れることにしたんだ。
ただ一つ、気がかりだったのは与儀のこと。あいつは泣き虫のくせに強がりで、隣街の不良の縄張りに女一人で突っ込んじまうような危なっかしいところがあった。俺が街にいられなくなったのは自分のせいだって思い込んで、また危ないことに首を突っ込むんじゃねえか。それだけが心配だった。
だから、俺は、チームとして築き上げてきた繋がりや縄張りを餌に、野心のある部下を焚き付け、与儀の身の安全を約束させた。それが鍛島だ。いまではこの街の顔役になってるみたいだが、そんなことはいまの俺にとってどうでもいいことだ。与儀さえ無事であるならば。
俺が街を離れることになり、与儀は自分を責めながら最後まで謝っていたが、本当に謝らなければならないのは俺の方だ。
当時、俺は多くの敵をつくり過ぎた。仲間たちと一緒に暴れまわること、それだけが生き甲斐で、俺は、仮に自分が殺されたとしても、いまが楽しければそれでいいくらいに考えていたんだ。
本来なら、そんな人間は、誰かを側に置いてはいけなかった。いつか巻き込んでしまうとわかっていたはずなのに、遠ざけることができなかったんだ。
あいつと過ごす時間が、かけ替えのないものだったから。
あいつのことが、心の底から好きだったから。
結果として、与儀は黒煙団に捕まり、乱暴を受けた。
全部、俺の責任なんだ。それなのにあいつは、自分のことを責めて、ついには大好きだったはずのグラフィティまで、憎もうとした。
だから俺は、街を離れる直前、言ったんだ。描き続けろって。お前の描くグラフィティを見ていると、心が安らぐからって。
そして、俺が街を離れてから少し経った頃、一人のライターの作品を目にする機会があった。
ライターの名前は『GAGA丸』。
そのグラフィティを目にした瞬間、一目でそれが与儀の作品だとわかった。それほど長い期間ではなかったが、側であいつのグラフィティを何度も見てきたんだ。見間違うはずかねえ。
そのグラフィティを見て、俺は、思わず笑みがこぼれた。
『男ばかりの縦社会で、女が生きていくためには、ハッタリも大切だ』
いつか俺が言ったアドバイスを、あいつは律儀に守って、『GAGA丸』なんていう男みたいな名前にしたんだろう。そう思うと、あいつのいじらしさが頭に浮かんできて、笑いまで込み上げてくる。街を出てから、楽しいことなんて一つもなかったが、あいつのグラフィティがーーー与儀が頑張っているって事実が、俺の心に安らぎをくれた。
……そうなんだ。街を離れたばかりの頃は、慣れない仕事に苦労したもんだ。
仕事っつっても、やってることは肉体労働のアルバイトで、頭を使うような仕事よりはずっと俺向きだったけど、それでも職場の親方からガミガミ言われる度に、何度殴り飛ばしてやろうと思ったかわからねえ。生活だって、決して楽じゃなかった。ただ、家事に関しては、ガキの頃からやってたから苦にはならなかった。母子家庭で育った俺は、夜の仕事をやっていた母親の代わりに家事をやることが多かったからな。まあ、それでも街を離れたばかりの頃は、知らない環境で生き抜くのに必死だった。
毎日毎日、同じことを繰り返す仕事。
体がくたくたになるまで働いて、親方に怒鳴られて、家に帰るのは明け方近く。それでも、生きるために必死で働いている内に、職場の先輩たちが少しずつ話しかけてくれるようになった。気が付くと、辛いだけだった仕事にやり甲斐が生まれてきて、俺は、あらためて仲間の存在の大きさを知った。街にいた頃と同じだ。気が付くと俺は、育った街から離れた土地で、独りきりではなくなっていた。あんなにうざったかった親方も、実は面倒見が良いことを知った。
『最近、真面目に働いているな』
ある日、そう言って俺を事務所に呼んだ親方は、そこで、正社員登用の話を俺に持ちかけてきた。俺がやってきたことを、親方はずっと見ていて、会社に、俺のことを推薦してくれていたんだ。嬉しかったよ。だってさ、腕っぷしだけしか取り柄のなかった俺が、初めて真っ当なことで認めてもらえたんだ。そりゃ喜ぶって。
だけど、正社員になるためには、最低限の条件というものがあった。
それは、高校を卒業していること。
そのときばかりは、俺は過去の自分を恨んだね。最初の一週間で停学をくらった俺は、それきり高校には一度も行かなかった。だから当然、高校卒業の証明だってない。
それからというもの、夜はいつも通り働きながら、昼間の間だけ定時制の高校に通うようになった。唯一の趣味だったパチンコもほとんど打たなくなり、二十五歳になって、初めてまともに学校に行くようになった。
それからは夜間は肉体労働をして、朝方帰ってきて、眠り、起きたら学校に行くという日々をほぼ毎日繰り返した。苦労したが、その甲斐あって四年で卒業予定だったのが、三年、つまり今年の春で卒業できることになったんだ。
正直言って、大変だったよ。
働きながらなにかをするって、こんなにも難しいことだったんだな。
俺は、初めて知ったんだよ。それが、どれだけ大変なことか。
自分一人生きていくのも大変なのに、ましてやガキを育てながら働くなんて、考えられねえよ。
それなのに、俺、生意気ばっかり言ってたよな。ごめんな。
だけどさ、そんな俺でも、四月に卒業したら、いま働いている職場で晴れて正社員になれるんだよ。なあ、笑えるだろう?
この暴力バカが、高校を卒業して社会人になるんだぜ?
ずっと、言ってたもんな。
俺には、高校くらい出てもらいたいって。
「なあーーー母さん」
俺は車椅子を押す手に、力を込める。長く続く坂道のせいで、いつの間にか背中にじっとりと汗を感じていた。だが、めっきり痩せちまった母さんはきっと寒いだろう。もっと厚着をさせてくれば良かったと後悔した。
俺は、再び思い出話をする。街を出ている間のことを思い返しながら、母さんに語って聞かせてやる。
ガキの頃の俺は、正直言って、夜、男たちに媚び売りながら酒を飲ませる仕事をしていた母さんを軽蔑していた。けれど、いまならそれがどれだけ大変なことか、少しはわかるようになった。
働くって、どんなことでも大変だよな。俺、ようやく少しだけわかるようになったんだ。春には晴れて真っ当な社会人になって、これでようやく母さんを安心させることができる。これからは、少しずつでも、親孝行していけたらなんて考えていた、そんなとき、職場に連絡が入った。
実は、いま働いている所から初給料が出たばかりの頃、俺は一度だけ街に戻ってきたことがある。目的は、家のポストに金を入れるためだったんだが、そのとき使った職場の封筒から連絡先を知ったらしく、母さんのケータイの家族の欄に、俺の職場の連絡先が登録されていたらしい。
ケータイの番号も知らせてなかった俺は、職場の上司から聞かされて、初めて知ったんだよ。
母さんが、倒れて入院したって。
先月の半ば頃に、休みをもらってすぐに病院に向かった俺は、そこで医者から母さんの病気について聞かされた。
なんだか難しい専門用語ばかり並べ立てられていたせいか、それとも俺があまりに混乱していて話に集中できていなかったのか、とにかくそのときのことはあまりハッキリと覚えていない。ただ、わかったことは母さんの余命が、三ヶ月あるかどうかということ。その病気が、肺がんと呼ばれ、すでに手術が意味を成さないほど進行している、ということだった。
『冗談だろ? なあ、先生。ぜんぜん笑えねえよっ』
俺の言葉に、そっと目を伏せる医者。その仕草がすべてを物語っていて、俺は怒りに任せて叫んだ。
『ふざけんな! あんた医者だろっ、なんとかしろよ!』
しかし、いくら怒鳴り声をあげても、医者は言葉を撤回しなかった。
これまでの人生で、思い通りにならないことがあったら、暴力をちらつかせれば、なんでも解決していたというのに、今回ばかりは、どれだけ怒鳴ってビビらせても答えは変わらなかった。
がんを取り除くことは不可能だ、と。
それなら、一等良い薬を処方してもらおう。俺は足りない頭をフル活用して考え、ネットや本を読みあさり、色んな治療法を調べ、医者にやって貰えるように頼んだ。
だが、効果が見込める可能性のある治療として取り上げられていたものは、先進医療と呼ばれる、保険適応外のものばかりで、貯金なんてほとんどない俺にはとても継続して払い続けられるものではなかった。
それなら借金をしてでも金を用意してやる。
病室で騒ぐ俺の声に気付いたのか、意識を失っていたはずの母さんが目を覚まし、言った。
『そんな治療は受けないし、入院もしません』
そう言って、本当に帰ろうとする母さんを、俺と医者で必死に止めた。
日常生活を送っていて、倒れてしまうほどの患者を退院させるわけにはいかないということで、母さんは入院することになったが、頑として先進医療を受けることを拒み続けた。口では、『放射線治療で髪が抜け落ちたり、まともに食事も摂れなくなってまで生きていたくない』と言っていたが、本心はきっとこうだ。
『高い治療費を、息子に払わせるわけにはいかない』
抗がん剤治療だけは始めたが、効果は見られず、半月も経たない内に体重は五キロも落ち、一ヶ月目に入ると自力で歩くのもやっとというほど、弱っていった。みるみる痩せていく母さんを見て、俺は、どうしたらいいのかわからなくなった。そもそも、医者でもない俺には、病気で苦しむ母さんになにもしてやれない。だからせめて、精神的に楽になればいいと思い、聞いてみたんだ。
『なあ、なにかして欲しいことはないか? 欲しい物とかでもいい。なんでも言ってくれ』
すると、俺の問いに母さんは一言、『商店街』と言葉をもらす。
それまで、弱みを俺に見せないようにしていた母さんも、苦しそうに咳き込む姿を度々見せるようになっていた。口を開けば咳き込む可能性が高くなるのか、母さんは俺に弱みを見せないために、口数もめっきり減ってしまった。
それでも、昔を思い出しているのか、そのときばかりは『桜通り商店街が、もう一度、見たい』と震える声で言った。
あの場所は、俺にとっての思い出の場所であると同時に、母さんにとっての思い出の場所でもある。俺を産んだばかりの母さんが、家族からも見放され、知らない土地で生きていくためには、夜の仕事で金を稼ぐしかなかったんだ。そんな母を、近隣住民は疎ましく思っていたのか、いつも陰口を言っていたことを俺は知っている。
そんな母さんを受け入れ、親切にしてくれたのが、桜通り商店街の人たちだったんだ。当時、誰にも頼ることのできなかった母さんにとって、温かい、まるで家族のように受け入れてくれた商店街がどれだけ心の支えになったか、わからない。
だから俺は、もう一度あの商店街に行きたいという母さんの願いを叶えるために、思い出のあの場所に久しぶりに足を運んだんだ。
だが、そこで目にした光景は、衝撃的なものだった。かつて賑わっていた商店街は、すべての店がシャッターを下ろし、落書きだらけの廃墟のような場所に変わり果ててしまっていた。
その日から俺は、落書きの除去作業をするようになった。閉じてしまった店のことはどうすることもできないが、清掃して、キレイな姿に戻すことくらいはできる。そう考え、一人活動していたが、いくら上からペンキで塗りつぶしても、またすぐに落書きが上書きされ、埒があかなかった。警察も頼りにならない。しかし、母さんの具合も気になるから、商店街に張り付いている訳にもいかない。
事実、母さんは、日に日にやつれていって、見るからに元気もなくなっていた。
そんなある日、偶然、ガキが落書きしている現場に遭遇した俺は、「なんでこんな落書きをするのか」って問い詰めると、その犯人は、泣きそうになりながらこう言ったんだ。
『線引屋に、憧れて』
それを聞いた瞬間、俺は、一筋の光を見つけた気分になった。
いくら消しても、上書きされる落書きに、どうしたらいいのか途方に暮れていたんだ。俺が街にいた頃は、ライターなんて数えるほどしかいなかった。それが、ここまで増えた原因。俺の倒すべき敵が、明確化された瞬間だった。
それからはなりふり構わず、ライターを発見したら力でねじ伏せるようになった。狙いは線引屋と呼ばれる、ストリートのカリスマ。やつを叩き潰すことができれば、きっと商店街に落書きしていた連中も、グラフィティに興味を無くす。そう思い込んでいたんだ。
だけど、実際、線引屋を名乗る間久辺というガキを目の前にして悟った。
あれはただのガキだ。どこにでもいる、普通のガキ。
それをいくら痛めつけたところで、なにも状況は変わらない。
俺のやっていたことは、この救いのない状況で、八つ当たりする対象を探していたに過ぎなかったんだ。
それくらい俺は焦っていたんだよ。
壁の落書きは益々増すばかりだし、解決法として最善だと思っていた、線引屋襲撃も意味を成さないと悟った。ならば、俺にできることはなんだ?
日に日に弱っていく母さんを、ただ見ていることしかできないのか?
そんな自分の無力さに憤りを感じていた俺のもとに、昨夜、鍛島の部下がやってきた。確か、名前は御堂とかいったか。
ほとんど病院と商店街を行き来していた俺は、病院の許可を得て夜間は母さんの側にいることが多い。どこで聞きつけてきたのか知らないが、御堂は病院にやってきて、俺に言ったんだ。
『明日、商店街に来い。あんたの望みを叶えてやる』と。
本来ならそんな言葉を真に受けたりしないのだが、もう俺にはどうしたらいいのかわからない。母さんの体調は日に日に悪くなり、いつまで外出許可が下りるかわからない。だから、一縷の望みに賭けてみることにした。
今日は比較的体調が良いのか、母さんの顔色も良かったため、外出許可がおりた。母さんは、商店街へと続く坂道を眺めながら、「懐かしいわね」と呟く。
この坂を上りきった先に、そろそろアーケードが見えてくる。
あの落書きだらけの商店街を見て、母さんはどう思うだろう。
頭の中で、落胆するため息が聞こえる気がした。
瞳を閉じると、悲しそうに歪む表情が目に浮かぶ。
俺は、母さんのたった一つの願いも、叶えてやることができない。
自分の無力さを痛感していると、商店街の入り口に差し掛かったとき、ぼそっと「……綺麗」と、母さんが呟いた。
なんのことかと思い、閉じていた瞳を開いた俺は、視界に飛び込んできた光景に、目を疑った。
「とても、綺麗な桜ね」
母さんの言葉通り、満開に咲き誇る桜の光景がそこには広がっていた。
冷たい風がアーケードの向こうから吹き抜け、ガタガタとシャッターが揺れる音がすると、桜の花びらが一緒になって舞い散るような錯覚に襲われる。
一瞬なにが起きたのかわからなかったが、その桜は閉ざされたシャッターに描かれたものだった。昨夜まで落書きで埋め尽くされていたはずのシャッターすべてに、桜の絵が上書きされている。
「嬉しい。また、この場所で桜が見られるなんて」
ここの桜は、俺と母さんにとって、いつも節目に現れた。
俺の進学、卒業……いつもここの桜が、俺たち家族を見守っていたんだ。
今回の桜も、きっとなんらかの節目であるのだろうと思う。
それまで嬉しそうに壁の桜を眺めていた母さんは、昔を思い出したのか、言った。
「ごめんね、侭。私は、周りのお母さんたちみたいに、良い母親ではなかったよね。あなたに、母親らしいことなんて、一つもしてあげられなかった」
「っ! そんなことねえよ!」
俺は喉がかれるくらい、全力で否定した。
実は、俺が病院に駆けつける直前、職場の親方から聞いたんだ。
母さんは、俺が初任給をポストに入れて帰った数年前、封筒に書かれた電話番号、つまり親方のところに電話したことがあるらしい。そこで、色々な話をしたみたいなんだ。親方が言うには、母さんは終始俺のことをよろしく頼むと言っていたらしい。それから、親方は俺のことを意識して見るようになったと言っていた。
俺が病院に向かう直前、『良いお母さんだな』って、親方は言った。
本当、そうだ。
俺は、そんな母さんのことをずっと軽蔑していた。夜、男たちに媚を売るような仕事に、嫌悪していたんだ。
だが、俺は深く考えてこなかったんだよ。高校在学中に妊娠して、相手から認知されないまま俺を産むことを選んだ母さんは、高校を中退し、家族からも見放された。一人きりで俺を育てるためには、夜の仕事くらいしか金を稼ぐ方法がなかったんだ。
だから、ガキの頃、ほとんど一緒に遊んだ記憶なんてねえ。
流行ってた玩具だって、なに一つ買ってもらった記憶もねえ。
ガキの頃の俺は、そんな自分は不幸な家に産まれてしまったんだって神様を呪ったりしたよ。別の家に産まれたかったなんて、残酷な言葉をぶつけたこともある。だけどさ、母さん。いまならはっきり言える。
「俺は、あんたの息子で良かった。胸を張って言えるよ。母さんより良い母親なんて、いない……」
だから、俺はさっきの言葉を、何度だって否定してやる。
『母親らしいことなんて、一つもしてあげられなかった』
そんなこと、あるわけがない。だって、だってよぉーーー
「ーーー俺なんかを育てるために、自分をとことん犠牲にして、働き続けてきたじゃねえかっ」
感情的になる俺の虚しい叫び声だけが、こだまする。
母さんは静かに口を開き、息を吸い込んだ。
「私は、なんと言われても、自分が良い母親だったなんて思えない。寂しい思い、いっぱいさせたよね? ごめんね。だって、全部私のわがままが招いたことなんだもの。高校生のときに妊娠したのも、周りの反対を押しきって産むことにしたのも、全部、自分のためだったの。だって産まれてくる子供に……あなたに、会いたかったから」
だから、辛いことなんてなかったと、震える声で母さんは強がりを言った。
そんなの嘘だってことくらい、わかる。
俺は、好き放題生きてきた。
ガキの頃から荒っぽい性格で、気に入らないことがあったらすぐにキレて暴れた。中学にあがる頃には、俺の悪名はかなり知れ渡っていて、先輩たちから手痛い洗礼を受けたりしたが、翌日には闇討ちでやり返し、俺はヤンチャな先輩たちからも、ヤバいヤツのレッテルを貼られた。
そうなったら、俺に近付こうとするヤツなんていなくなる。
その頃から、街の、いわゆる不良グループと呼ばれる連中のところに出入りするようになった。
俺が暴力事件を起こす度に、母さんは何度も何度も学校や警察に呼び出された。仕事明けで朝方帰ってきてすぐに、呼び出されたこともあった。
それでも母さんは、俺のことを諭すように叱りつけたけれど、見放したり、苛立ちをぶつけてくることは一度だってなかった。
そんな母さんの優しさに甘えて、俺は悪態をつくばかりで、母さんの話に耳を傾けようとはしなかったんだ。
「ねえ、見て。本当に綺麗。とても、綺麗な桜ね」
「そうだな。昔を思い出すよ。ガキの頃、母さんが忙しいのわかってて、それでも構ってもらいたくて、遊びに連れて行けって俺、よくごねたよな? そんな忙しいとき、母さんが決まって連れてきてくれたのがここだった」
「そう、だったわね」
だから俺は、この商店街が大好きだったんだ。
ここに来れば、母さんを影で悪く言うヤツらはいない。
そして、温かい人たちに会えたから。
母さんの温かい手を、握ることができたから。
「好きだったわ。この商店街から見る、桜が。もう見られないと思ってた」
そうだ。この辺りの桜は住宅地の開発で軒並み伐られてしまった。
だから、再びこの場所で桜を見ることなんて、できないと思っていたんだ。
だが、昨夜まで落書きで溢れていたシャッターの上から桜の木を上書きした人物のお陰で、こうして再び母さんと桜を見ることができた。
しかも、信じられないことに、その人物はたった一人で数十枚にものぼるシャッターを一晩で染め上げたようだ。
俺はグラフィティの知識に明るいわけではないが、見てきた数なら誰にも負けない自信がある。だからわかる。ライターは基本的に独学で描き方を開発していくため、学校の美術でならうように画風が似通ったりすることがあまりないようだ。端的に言うと、百人のライターがいたら、百人の癖が絵に出てくるわけだ。
たとえばこの花びら一つ一つ、繊細に書き込まれているものにも癖があって、花弁の先端の細くなる部分が、すべて右向きになっているという癖がある。それとまったく同じ癖を、俺は過去に、別の花を題材にしたグラフィティで見たことがある。GAGA丸ーーー与儀の描いたという、ステンシルアートがまったく同じ特徴を有していたのだ。
だから、俺にはわかる。この花びらは、与儀がつくったステンシルだ。一枚一枚、折り重なるような花弁が丁寧に作り込まれている。
そして、その花弁を引き立てる木の幹の部分。すべての落書きを飲み込むように荒々しく引かれた線は、けれど与儀の繊細な桜の花びらと合わさっても、激しく主張してくることはない。あくまでも主役は花びらで、シャッターの多くの割合を占めているはずの木の部分が、徹底的に脇役に回るように、計算されて描かれている。
一晩でこれだけの広さの壁を染め上げるだけでも現実的ではない上に、後から桜の花びらを上書きすることまで計算して木の幹と枝を描くなんて、ほとんど不可能に近い話だ。
だが、現実問題として、それをやり遂げた人物がいる。いったい誰にそんなことができる?
その答えは、すぐに判然とした。俺はその人物と、すでにこの場所で会っている。俺が商店街の落書きを消そうとしていることと、この場所が桜通り商店街と呼ばれていたことを、そのときに話したんだ。
ーーー線引屋。あのガキしか考えられない。
あいつは与儀の店でバイトをしているとも言っていたから、すべての辻褄も合う。
俺は、逆恨みで線引屋を襲った。本来なら恨まれていてもおかしくないはずなのに、あいつは、俺がやろうとしていることを知って、思いもつかない方法で落書きを消し去ってみせた。
ゆっくりと商店街を先に進みながら、壁の桜にみとれていると、奥の方が騒がしいことに気付く。
駅の方向に面しているアーケードの入り口を見ると、普段は寄り付かない近隣住民や、噂を聞き付けてきた若者たちが、壁のグラフィティを見ながら、感嘆の声をあげている。その中の若者の一人が言った。
「こんな事ができるのは、線引屋だけだ」
賑わう人の群れの中には、見覚えのある顔も見られた。
かつて、商店街で店を開いていた人たちがそこに集まっていたのだ。
その中にいた向坂のじいさんと目が合うと、視線を外し、車椅子に乗った母さんの姿を見て、眉根を下げた。
向坂のじいさんとは、俺が街に戻ってきてから何度かこの場所で会い、母さんの病気のことも話してある。あの様子から察するに、元商店街の人たちを集めたのは、向坂のじいさんだろう。あの人の周りに集まっていることが、なによりの証拠だ。
人で溢れる商店街を見て、母さんは言った。
「懐かしい。キレイな桜に、大勢の人。まるで昔に戻ったみたい」
ふふ、と笑った姿を見て、それは弱々しかったけれど、それでも声をあげて笑う母さんの姿を見たのは数年ぶりだった。
良かった、笑ってくれた。そう喜ぶ俺に、母さんはぽつりと言った。
「もう十分だわ。これで思い残すことはない。最後に良いものが見れたもの」
その言葉に、俺はハッとして息をのみ、唇を噛んだ。そうでもしないと、涙が止めどなく溢れてきそうだったから。
俺は車椅子を押す手を離すと、回り込んで母さんの正面に行き、膝をついた。
「……足りねえよ」
口を開くと、噛み締めていた唇の痛みから解放され、それと同時に我慢していた涙が頬を伝ってこぼれ落ちた。
「ぜんぜん足りねえんだよ。これから……これからなんだ。母さん。いままでずっと、自分を犠牲にして俺を守ってきたじゃねえかよっ。これからは、俺がいっぱい楽させてやるから。守ってやるからっ」
ーーーだから、最後なんて言わないでくれよっ!
その言葉は、涙と嗚咽にまみれて、声にならなかった。
流れる涙を止めようと、蓋をするみたいに瞳を閉じてみても、感情が溢れ出るように、隙間を縫って涙も流れた。
そのとき、ふと、熱い頬にひんやりと冷たい物が当たり、俺はゆっくり目を開いた。
そこには、辛いだろうに、背もたれから身を起こして、俺の涙を必死に拭おうとしている母さんの手があった。ガキの時分、そうしてくれたように。
そして、母さんは俺を安心させようと弱々しく笑う。
その表情を見るたびに、後悔ばかりが襲う。
もっとちゃんと向き合えば良かった。母さんの元気な姿を、もっとしっかりと見ておけば良かった。本当は、話したいことがいっぱいあるんだ。伝えたい想いも、山ほどある。時間なんて、いくらあったって足りないんだ。
だけど、苦しいくらい涙が込み上げてきて、ひとつも言葉が出てこない。
「ねえ、侭。私は幸せだよ。頭も悪いし、要領も悪いから、料理だって洗濯だって、掃除だって下手で、人に誇れるものなんて、本当に一つもなかったんだ。それでも、あなたと過ごした二十八年間、私の人生は幸せだったんだよ。それはね、一つだけ誇れるものがあったから」
涙で滲む先に、母さんの誇らしげな顔があって、俺と目が合うと、ジッと見つめてから小さく頷いた。
「私の誇れるもの。それはあなたよ、侭。私に、この世界で生きる意味を与えてくれた。だから、ありがとう。この世に、私が生きていた証をくれて……ありがとう」
気が付くと、母さんの瞳にも涙が溜まっていた。
俺は堪らず、頬に添えられた手を握ると、再び涙がこぼれた。
こんなに細く、小さくなってしまった母さんの手。昔、この商店街を手を繋いで歩いていたときは、あんなに温かかったのに、いまはこんなにも冷たい。
母さんは、瞳に沢山の涙を溜めながら、アーケード越しの空を眺め、言った。
「だけど、やっぱり見たいなぁ、桜」
桜なら、ここに沢山あるじゃないかーーーそう言おうとして、やめた。
母さんの言葉の真意がわかって、俺は、なにも言えなくなった。
本物の桜が咲き乱れるのは春先、三月から四月にかけてのことだ。
それは丁度、俺がこれから定時制高校を卒業して、正社員として社会に出る頃なのだ。
「見たかったなぁ」
そう言って、涙をポロポロと流す母さんが落ち着くまで、俺は手を握る。またあの日のように、温もりが戻ってくるよう願いながら、十数年の溝を埋めるみたいに、この思い出が詰まった桜の光景の中で、ずっと、手を握り続けたよ。
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