クラスでバカにされてるオタクなぼくが、気づいたら不良たちから崇拝されててガクブル

諏訪錦

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Beautiful spirit

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他者を理解することは難しい。
相手の気持ちを考えることが困難なのではない。
相手の気持ちを悟れるくらいに、距離を詰めなければいけないこと。
それがぼくにとっては困難なことだ。

幼少の頃から、別になにか悪事を働いた訳でもないのに、周囲からは迫害を受けた。マクベ菌とか言ってタッチ遊びをするクラスメイトたちに、ぼくはそんなにも酷い仕打ちを受けなければならないようなことをしてきただろうか。考えても、答えは得られないままだ。
当然、持ち上がりで中学に進学したのだから、ぼくを取り巻く環境はなにも変わらなかった。強いて言うなら、体も出来初めてきた思春期男子というのは、自分の力を誇示するみたいに、攻撃性を強めるらしい。それまでの子供の嫌がらせとは比べものにならない、暴力に身をさらされることとなった。

だから、高校へは誰も同じ学校の人間がいない所を選んで進学した。
新しい環境ならば、きっといじめられることもない。少年時代は偶然、性質の悪い連中と出会ってしまっただけで、ぼくは悪くない。悪いのは運だけだと、進学したばかりの頃は、そう思っていた。だけど、蓋を開けてみればどうだ。相変わらず、ぼくは周囲との同調をはかることはできなかった。いまだって、状況はそれほど変わっていない。
ぼくはきっと、幼少期に身につけておかなければならなかった周囲と調和する能力というのを、得られないまま今日にまで至っているのだろう。
だから、ぼくの理解者は同じ立場のオタク仲間二人だけだった。
だが、ほんの少しではあるが、ぼくにも別の世界の理解者ができた。
御堂や与儀さん、アカサビさん、加須浦さん、それに、これまで辛く当たってきた江津や石神さんも、近頃は優しくなった気がする。
こうして思い返してみると、環境が劇的に変わり始めた切っ掛けはやはり、グラフィティだった。線引屋として活動するようになって、ぼくを取り巻く環境は大きく変わったんだ。

だからという訳ではないが、この前ライターの仕事を受けたミキオから紹介された、ライターにとっての楽園と呼ばれる場所に足を運んでみることにした。彼が言うには、そこはラッパーに例えるなら、気軽にラップが行えるサイファーみたいな場所なんだそうだ。
その場所は、駅からはかなり離れていて、歩いて行くことも可能だが普通に歩けば30分以上かかる位置にあった。
幸い、そこは公営団地の側に位置するため、駅から出ている市営バスですぐ近くまで行くことができた。
ミキオの話では、その場所はシャッター通りと化した、かつての商店街らしい。
10年ほど前から、有名チェーンのスーパーマーケットや、大型複合施設が街中や駅の側に出来たことで、地元客はあっという間にそちらに取られ、みるみる内にシャッターが降りる店が増えてきて、いまではまともに営業している個人商店は一つもない。そんな寂れた商店街になってしまったらしい。
スマホのナビを頼りに目的地を探すと、公営団地からも歩くとそれなりの距離があり、利便性という意味でも、この商店街の立地条件は優れているとは言えない。これでは、客のニーズが多様化した現代で生き残ることは難しいだろう、なんて講釈ぶったりしてみる。
いざその目的の商店街に到着してみると、結局、駅から歩いてもさほど変わらない時間が経過していた。無駄金を使ったな、なんて思いながら、商店街に足を踏み入れると、そこはアーケード商店街となっており、太陽の光を半分ほどにまで遮断してしまっているせいか、夕方だというのに薄暗い。
「なんだか、寂しいな」
ぼくは思わず素直な感想が口をついた。
その印象は、やはり、本来活気に溢れているはずの商店街に人の姿がまるで見られないからだろうと思う。ざっと見ただけで、数十店舗が並んでいたようで、その全てが営業していた当時は、さぞこの商店街も賑わっていただろうが、いまではまるでゴーストタウンを想起させる。
ゴーストタウン。
そう印象付けるのを手伝っているのは、下ろされたシャッターにびっしりスプレーインクで描かれた落書きである。アーケードの道を挟むように両サイドに並んだ店舗のシャッター全てが、落書きで埋め尽くされている。
グラフィティではなく、落書き、という表現をしたのは、壁に描かれている絵が、まるで公衆トイレの壁に描かれている物と大差ないと感じてしまったからだ。
グラフィティとは、直訳するならば落書きで間違いないだろうが、それでもぼくには、これらの絵をグラフィティとは呼べない。描く意味も、意思すら感じられないようなものは、見ていて気分の良いものではない。

そうして商店街を一人歩いていると、奥の方に人影が見えた。
目をこらしてみると、その影は三つ。
そこには壁に向かってなにかしている三人の男の姿があった。
彼らはそれぞれスプレーを壁に吹き付けながら、絵を描いていく。
遠目にも一目でわかる特徴的な筆致。見たところ、それはバブルレター。文字通り、泡のような丸みを帯びた文字で描かれたスローアップ作品の一つで、まあグラフィティの基本的なテクニックの一つだ。
他の落書きに比べたら格段に上手い彼らだが、こんなもの三人で描く方がむしろ面倒ではないだろうか。そう思えるくらい、遅々として作業は進まない。
というか、そもそもスローアップとは、スピーディーに描けるという点を突き詰め、特化していったグラフィティを指す。三人がかりでこれほど時間をかけていては、本末転倒ではないだろうか。そんな風に考えながら、思わず近付き過ぎてしまい、三人組の一人がぼくの存在に気付いて「なに見てんだっ」と叫んだ声が、アーケードに響き渡った。
三人同時に向けられる瞳。ぼくは、焦りのあまり言葉が出てこなかった。
すると、激昂したかに見えた男が、「あんたもライター?」と声音を弱めた。
どうやら見た目ほど怖い人たちではないらしい。
少し安心して、ぼくは答えた。
「えっと、ただの見学です。この商店街に来れば沢山のグラフィティが見られるって聞いたんで」
「なんだよ。最近多いよな」
「そうそう。グラフィティの知名度めっちゃ上がってんのな。ライターの俺らとしては、ちょっと複雑な気分? みたいな?」
「ストリートジャーナルで特集された線引屋の影響が大きいよな。ま、俺たちはその前からライターやってっけど」 
三人の口調は「困ったもんだ」という雰囲気を匂わせていたが、態度を見るかぎり、注目されて嬉しいと言っているようだった。
少し呆れたが、ぼくはそんな心境をおくびにも出さず、会話を続ける。
「三人は、ライター初めて長いんですか?」
「ん、俺ら? もう四年くらいやってるな。俺が大尊たいそん
「俺がpixil」
「んで俺がkitton」
そして三人は声を合わせ、「俺たちクルー、『blue days』」と声高に宣言した。
なんというか、名前とは裏腹にノリの良い三人組だ。
それにしても、知名度を上げたいという気持ちが強いのだろうが、人通りがほとんどないとはいえ、まだまだ一般人の活動時間である夕方に、こんなにも大胆にグラフィティを描いていて大丈夫なのだろうか。しかも、堂々と名乗ってしまっているし。
そのことを聞いてみると、「なんだ、知っててこの場所に来たんじゃないのか」と若干呆れ顔をされる。
少しムッとして、「なにがですか?」と問い返すと、kittonと名乗った男が自信満々に口を開いた。
「この場所なら、グラフィティやり放題なんだよ。なにせここは、市が用意した生け贄なんだからな」
生け贄? しかも、市が用意しただって?
首をひねるぼくに、kittonから取って代わるようにpixilが言葉を継いだ。
「この街がマッドシティと呼ばれ、駅周辺が不良たちのたまり場になっていることはお前も知ってるだろ?」
ぼくは頷いた。
「市としては、駅の西口をショッピング街として栄えさせたいと思っている訳だが、街の治安が悪いとなれば、客の足は当然遠退くわな。グラフィティってのはよぉ、お偉方からしたら、治安の悪化の象徴なんだそうだ」
そう言って、ケタケタ笑うpixil 。
ぼくも聞いたことがある。要するに、割れ窓理論と同じだ。
街に不良がいる痕跡とも取れるグラフィティが描かれていたら、その街の治安が悪いのだと認識され、一般人は足を運ばなくなり、逆に不良たち輩が集まってさらなる問題を拡大させる。
「だから市は、俺たちライターの捌け口を駅周辺の人通りがある場所から遠ざけるために、この場所を用意したのさ。俺たちライターが自由に描ける、このシャッター通り商店街をな」
なぜ市がそんな場所を用意する必要があるのだろう。
それなら、警察による取り締まりを強化すればいいのでは、と考えぼくは思い出した。そもそも、この街は過去の事件の影響から警察組織の力が弱い。だからこそ不良が集まり、結果的にマッドシティと呼ばれているのだ。
市としては不良を排斥するために警察組織の意識改革をするより、手っ取り早く今あるシャッター通り商店街を利用した方が楽だと考えたようだ。
まあ、そもそも不良摘発に本腰なんて入れたら、街に根付いているグループが黙ってはいない。構成員500の大台に乗った千葉連合まで加勢することになれば、それこそ街の評判は地に落ちることになる。下手に手出しができないのなら、簡単な方法を選ぶのが賢いやり方であり、お役所というのは、そういう賢い人間の集合体だ。
ただ、改善の一歩を踏み出さなければ、いつまでも現状維持のままだ。
変わるために踏み出すことを恐れていたら、なにも改善されない。
……なんて、さっき廣瀬に叱咤された内容そのままって感じがするのは、気のせいではあるまい。
しかしながら、この寂れた商店街がグラフィティライターの楽園と呼ばれる理由はよくわかった。
「こんな所に自由に描けるのは、気持ちいいでしょうね」
ぼくは思わず本音がこぼれた。これだけ描き甲斐のある場所を前にすると、実際体が疼いてくる。
大尊は「まあな」と頷いた。
「あくまで市はこの場所を黙認しているだけだ。だから、さすがに現行犯で捕まったら罪に問われるが、そもそもお巡りがここに回ってくることはねえ。実質、ここはライターにとっての楽園ってことさ」
なるほどなぁ。
ぼくは感心していた。
この街は、駅前など人が密集する場所は栄えているが、少し外れればこの商店街のように利用されていない施設が沢山ある。
駅東口を出て少し歩いたところにある一角も、廃工場や廃ビルが目立つ。
ある意味で、利用価値を失った施設をこういう形で再利用するというのは、あながち悪いこととは言えないのではないかと思ってしまう。お世辞にも上手いとは言えない絵ばかりで、中には見ていて不快になるような内容の物も含まれているが、これらが人通りのある街中に描かれることを考えると、一ヶ所にまとめてしまおうと考えるお役所のやり方は、好き嫌い別にして、頭が良い。
それでも、こんなのは一時しのぎで、すぐに飽きて別の所に描きに行くようになると思う。だってライターの根幹には自己表現が根付いている。グラフィティでもっともポピュラーなタグは、まさに自分の存在を示すための方法のひとつだ。そうなると、こんな人通りのない商店街でいくら描こうとも、自己満足は満たせない。あくまで一時しのぎでしかないだろうな。
そんな風に考えながら、ふと視線を三人組から外すと、商店街の出口付近で、こちらを見ている男性の姿があった。見た感じ、年齢はぼくの父親よりずっと年上で、おそらく六十過ぎというところだろうか、杖をついている様子を見ると、もう少し高齢なのかもしれない。
三人組がその男性を発見すると、
「なんだオラっ!」
「なに見てんだよジジイ!」
「ケガしたくなきゃどっか消えろ!」
そんな風に、見ているこっちが不愉快になるような脅し文句をそれぞれ口にし、男性を退ける三人。杖をつきながら、男性なりの急ぎ足で遠退く姿を見て、ぼくは心が痛んだが、彼らはなにがおかしいのか、ケタケタと笑った。
ぼくはグッと喉をならし、この不快感を飲み込んだ。
彼らは見た目からわかる通り不良だ。ぼくが彼らを注意したところで聞く耳持たないだろうし、反感を買って殴られるのはごめんだ。それなら、言うだけ無駄だし黙っていよう。
kittonは笑い混じりにこう言った。
「あのジジイの目、見たかよ。なんも言えねえで逃げ帰るとか、なにしに来たんだっつーの」
「だなぁ。それにしても、あのジジイの目、見たか? マジでムカつくよな。化け物でも見るような目、しやがってよ。俺ら人間だし、俺らなりのルールに従ってやってるってのに」
pixilの言葉に頷きながら、大尊も同意して頷いた。
「ライターはリスペクトを持ってグラフィティを描く。無秩序にこの場所に描いているわけじゃねえ」
彼らの言っているのは、ライターの不文律のことだろう。
そう。イリーガルなライターにも、ライターなりのルールがある。
例えば、タグのような簡単に描けるスローアップ作品を、ピースのように描くのに時間を要する作品の上に描くのはご法度だったりする。
それならぼくも知っているけれど、そんなものを守っていると胸を張って、あたかも自分たちのやっていることが正当なことであるかのように、一般人に攻撃性を向けるというのは気に入らない。ぼくらイリーガルなライターはどこまで行っても反社会的な存在でしかない。ぼくは、それを嗜める立場にはないし、悪いことをしてはいけないなんて、優等生なことを言うつもりもない。
だけど、自分の中で明確な線引きができていない輩を見ると、虫酸が走る。
これ以上、この三人組と関わっているのが嫌になってきたぼくは、なにか理由を付けてその場を立ち去ろうとした。
丁度そのとき、スマホに着信が入り、相手を確認すると御堂からだった。
しめたと思い、ぼくは男たちから距離を開きながら電話に出た。
『間久辺、俺だ。いま少し話せるか?』
「うん、大丈夫だよ」
『そうか』と言うと、御堂は電話の向こうで話の道筋でも立てているのか、数瞬沈黙する。それから、言葉を選びながらゆっくりと声を発した。
『単刀直入に話す。線引屋を狙っている男がいる。相手は、かなり厄介なヤツだ』
「狙っている?」
なんだか、いきなり穏やかじゃないことを言い出した御堂に、ぼくは疑問をぶつけた。
「それってどういう意味?」
線引屋の正体を暴こうとする連中は、いまさら騒ぎ立てるまでもなく大勢いる。
だけど、そんなことでわざわざ御堂が連絡を寄越すとは思えない。
ぼくは、御堂の答えを待った。
『まあ、あれだ。言葉通りだよ。その男はお前を、その、殺すと公言しているらしい』
珍しく歯切れの悪い御堂の口振りは、それだけでぼくを必要以上に怯えさせないようにしているのだとわかって、少し安心できた。
「ねえ御堂。忠告はありがたいけど、誰かに恨まれるような覚えはないよ」
『それはどうかな。線引屋は、いきなり街に現れて話題の中心に躍り出た存在だ。妬み嫉みを持ったヤツも少なくないだろう』
「じゃあ、相手はライター?」
ぼくの問いに、即座に『いいや』と否定する御堂。
では何者なのだろう、これでは要領を得ないな。さっさと本題に入ろう。
「その男は、どうしてぼくを狙っているの?」
『詳しくはわからない。だが、ヤツの狙いはこの街への復讐だと、鍛島は言っていた』
なぜここであの男の名前が出てくるのだろう。
ぼくのその問いに、御堂は緊急で呼び出された集会での話をした。

「ーーーつまり、その甲津侭って男は、かつての部下である鍛島がこの街を仕切っていることに納得がいかず、再び街に戻ってきたってこと?」
『ああ、恐らくそういうことだろうな』
「だけど、どうしてこのタイミングで? 鍛島がこの街を仕切るようになって、もう結構経つんじゃないの?」
『ああ、その通りだ。チームができて、あっという間に街の不良どもを傘下に置いていったからな。多分、もう街の顔役になって二年くらい経過するんじゃないのか』
だとすると、甲津侭という男がこのタイミングで街に戻ってきた理由がわからない。
それに、鍛島に恨みを持っているのなら、線引屋を狙うのもおかしい。
その疑問は、しかし御堂の言葉で解消された。
『ストリートジャーナルでライズビルのグラフィティが取り上げられただろう。甲津侭は、恐らくあの記事を見たんだろうな。線引屋が描いた鍛島の似顔絵。記事では、線引屋がチームの一員だとは書かれていないが、少なくとも鍛島が街でチームを率いていること、そして、線引屋と何らかの繋がりがあることが窺い知れる。街に復讐を考えたのは、その記事を見たからだろうと鍛島は言っていた』
あの鍛島が、緊急で幹部を集めなければならないほどの相手ということは、かなり危険な相手だということがわかる。御堂が注意を促すのも頷けた。
『そんなヤバい相手が街に入り込んでやがる。鍛島のバカはお前にグラフィティを描けと言っていたが、そんなことはさせない。間久辺、当面は線引屋としての活動を控えろ。それを伝えるために連絡したんだ』
「だけど、それじゃあ御堂の立場が悪くなるんじゃないの?」
言葉にはしていないが、チーム内において御堂の役割は線引屋とのパイプ役であると鍛島は思っている。ぼくでもわかるのだから、御堂がそのことに気付いていないはずがない。
それなのに、御堂は自分の立ち位置が危うくなるのを承知で、ぼくに忠告しているのだ。
「御堂、ぼくはーーー」
言いかけた言葉を奪うように、御堂がボソッとこう言った。

『蛇……』と。

「え、なにか言った?」
『う、うるせえっ。変なセールス電話かけてんじゃねえよ! わかったら、もう下らねえ話は終いにしろやっ!!』
初め、その言葉が誰に向けられたものだかわからなかったが、電話というワードからぼくに向かって言っているのだと判断できた。
しかし、それにしては話に脈絡がなさすぎる。
御堂は、なぜいきなりこんな訳のわからないことを言い出したのだろうか。
これではまるで、誰かに対して、電話相手を誤魔化しているみたいじゃないか。
「御堂、いったいなにがあったの?」
『要件は済んだろ。さっさと電話切るぞ』
そう言って、御堂は最後に『俺の言ったことを忘れるな』と言い置いた。
そして、通話が切れたスマホを耳に当てたまま、聞こえるはずのない音を求めるように、ぼくは呆然とその場に立ち尽くした。
最後に確かに聞こえた、遠くの声。

『テメエ、線引屋を知っていやがるのか?』

その男の声は、明らか敵意を含んでいた。
そして、一瞬息を飲んだ御堂は、慌てて電話の内容を誤魔化し始めた。
「まさか、最後に聞こえてきた男の声って……」
考えたくはないが、そう考えれば合点がいった。
「あの声の男が、甲津侭?」
だとしたら、御堂が危ない。
甲津侭という男が、御堂の話の通りの男なら、線引屋の正体を知るために乱暴な手段に訴えることなど、容易に想像がついた。
ぼくは慌ててカバンに手を伸ばした。
チャックを開け、奥底に手を差し込む。
相手の狙いが線引屋だというなら、思惑に乗ってやろうじゃないか。
幸い、いまいる場所はライターにとっての楽園。
ぼくが描いていることを知れば、きっと甲津侭の意識をこちらに向けることができるだろう。
そう思ってカバンの中を漁っていたのだが、いっこうに目的の物が見つからない。おかしいな。そう思い、今度はカバンの口をしっかり開き、両手で中身を漁ってみた。
そこには、いつも持ち歩いているはずのナップザックがーーー線引屋としての道具一式が入っているはずだ。

それなのに、

「……嘘、だろ?」

中には、道具一式が丸々見当たらなかった。
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