月に泣く

宝楓カチカ🌹

文字の大きさ
上 下
43 / 142
前篇

24.殺意(1)

しおりを挟む
 

 * * *



 開いた扉の前でぴたりと足を止めたリョウヤの背を、マティアスがさぁと促した。リョウヤの視線が、部屋の真ん中に堂々と置かれている広すぎるベッドから、グラス片手に窓枠によりかかっているこちらへと移る。
 目が合う。リョウヤはただ、目を細めただけだった。

「昼食は?」
「ごめんね、言ってなかったけど、実は私たちもう済ませちゃったんだ。だから……今からは甘くて美味しいデザートの時間さ、坊や」

 にこやかに微笑んだマティアスとは反対に、リョウヤの声は掠れていた。

「……そう。デザートは、俺か」
「ご名答! やっぱり聡い子だね」

 マティアスがぱたんと扉を閉める。その軋む音だけでリョウヤが下を向いた。カーペットをじっと見つめたままその場に立ち尽くす様は、全てを悟り、儀式の始まりを待つ生贄の子羊ようにも見えた。
 これから何が起こるのかは、大方予想できているのだろう。
 早く味わいたいとばかりに距離を詰めたマティアスが、リョウヤの細腰を抱いて後ろから引き寄せた。両手首を後ろで押さえ込まれて、リョウヤは簡単に身動きが取れなくなった。
 首筋に鼻を寄せられ、くん、と匂いを嗅がれ、リョウヤの薄い肩がひくりと戦慄く。

「んー、会った時から思ってたけど、坊やってすっごくいい匂いだ」
「……、めろ、気持ち悪い……」
「まあまあそう言わないで。私たちがデザートを食べ終わるまで邪魔は入らないから、愉しもうね」
「なにがデザート、だよ。俺、まだ昼食も食べてねー、のに」
「大丈夫。ここにたっぷりと食べさせてあげるから」
「ッ……ぅ」

 マティアスがズボン越しに、するりとリョウヤの下肢の割れ目を撫でた。股を閉じて体をくねらせたリョウヤに、マティアスがいやらしく目を細めて舌なめずりをする。リョウヤが今どんな顔をしているのかはこちらから見えない。琥珀色のウィスキーをあおり、グラスを置きつつ近づく。

「おい、顔を上げろ稀人」

 リョウヤはかたくなに顔を上げようとしなかった。

「顔を上げろ。二度は言わん」

 子羊はようやく、のろのろと顔を上げた。もちろんその顔は蒼白そのものだったけれども。

「──へえ。俺は今から、あんたたち2人を相手にしなきゃなんないってわけ?」
 
 この期に及んで啖呵を切れるのだから大したものだ。ひゅう、とマティアスがリョウヤの勇ましさに口笛を吹く。

「いいねぇ、やっぱりこれぐらい気が強くないと。壊しがいがあるなぁ坊や」
「だから、俺は坊やじゃない」
「誰が2人だといった。貴様が相手をするのはそいつ1人だ。僕には大事な仕事がある」

 きゅっとリョウヤが唇を引き結んだ。泣くかと思われたが、その猫のような目から雫が零れることはなく、逆に鋭くなった。

「なら余計に嫌だね」
「いつでも望む通りに足を開くと言っただろう。自ら提示した条件を反故にする気か?」
「ざけんな。俺はあんただけに足を開くっていったんだ。あんた以外の誰かと寝る気はない」

 右足を強く踏みつければ、リョウヤが苦しそうに唸り体を折り曲げた。どこまでもアレクシスを強く睨みつけてきた目が下を向いたことに、いくぶんか胸がすっとする。
 そうやって、ひれ伏していればいいのだ。

「貴様に拒否権はない」

 やれと目配せすれば、マティアスが軽々とリョウヤを抱きかかえベッドに転がし、圧し掛かった。ぎしりとベッドが軋む。リョウヤはもう逃げようとはせず、体を丸めて腕で顔を隠していた。
 ここまでくれば、何をしても無駄だと悟ったのかもしれない。

しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

処理中です...