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前篇
12.悪趣味*
しおりを挟む「……悪趣味だな」
「できるかできないか、それだけを聞いている」
「できないなんて一言も言ってないじゃん。いかにも金持ちの道楽だなって思っただけだ」
短剣に反射するアレクシスの淀んだ瞳は、リョウヤの一挙一動を逃さないとばかりに凄められている。主人の残酷な命令を聞いても、その場を動かない使用人たち。
これから何が起こったとしても、彼らはそこにじっと控えたままなのだろう。
本当に、悪趣味としか言いようがない。
「どうした、やはりできないか?」
無理矢理脱がされて犯されるのと、自ら脱いで足を開くとの、どちらがマシかなんて考えるまでもない。
リボン結びになっていた衿をとき、がばっと頭から脱いでそこらへんに放り投げる。両足を地面に縫い付けて、巻き付けていたシーツを緩めてズボンごとずり降ろしていく。白いシーツには新しい血が染み付いていた。
全てを足から引き抜いた瞬間、指先が震えた。
四方から突き刺さる痛いほどの視線の中で、リョウヤは一糸まとわぬ姿になった。何にも守られていない剥き出しの素肌がダイニングルームの空気に晒されてひやりと冷える。
「あとはどうすればいいの?」
「来い」
「……、」
顎を引き、目線をアレクシスに固定する。周囲を見たらきっと動けなくなる。一歩進むごとに、使用人たちの視線が下半身にまとわりついてくるような気がした。振り切るように肩で歩いて青年の前に立つ。淡々と一瞥され、ぎゅっと内腿が締まった。顔を背けたくなる気持ちを奮い立たせて、真向から迎え撃つ。
「そのまま横になれ」
ひょいとテーブルに乗り上げ、言われた通りに横たわる。立ち上がったアレクシスがテーブルに手をついて、俎板の鯉のようなリョウヤを上からのぞき込んできた。
「ここにいる全員でテーブルを囲め。ああ、メイドは壁際に控えて見ていろ。男だけ来い」
どこまでリョウヤを辱めれば気が済むのか。
「足を開け」
嫌がれば嫌がるほどこの男に餌を与えることになるのならば、いっそのこと堂々としていればいいのだ……たとえそれが、フリだとしても。自ら膝を掴んで、これでもかというぐらい両足を左右に押し開く。
全てを晒したリョウヤに取り囲んでいる男たちは息を呑み、壁際の方からは、「うわ……」と女性たちの声も聞こえた。それでも正々堂々と足を開き続けていると、アレクシスがつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「随分と汚いな」
「そりゃ、散々めちゃくちゃされたからね。もっとよく見て昨夜の自分を反省したら?」
「貴様には羞恥というものがないのか?」
「恥ずかしいのはこれを命令したあんたであって、俺じゃない」
「……ほう」
アレクシスが短剣を引き抜き、ぺちん、と側面を下肢に沿えてきた。冷たさに反射的に閉じかけた脚に力を込める。軽い力で、ぺちん、ぺちんと、腿の裏、腿の付け根、薄い茂みの横を叩かれ。そして縮みきった陰茎をつう、と撫でられ、そうして最後は──赤く腫れた膣口へと。
「っ、ぅ……」
触れるだけのささやかな力だったが、流石のリョウヤも息を呑んだ。
「これを今からここに突き入れられても、抵抗しないと……?」
「……すれば、いいよ。それであんたの気が済むのなら」
わかっている。アレクシスが殊更恐怖を煽ろうとしてくるのは、リョウヤを征服したいからだ。ならば尚更ひれ伏してなどやるものか。委縮している暇があったら、身が竦むほどのそれをバネに変えてやる。
「あんたに何をされたって、こんなの犬に噛まれたのと同じだ」
手を振り上げたアレクシスに、ざんっと短剣を突き立てられた。顔の横で、断ち切られた黒髪がはらりと数本、宙に舞う。
「どうやらこの稀人は、人前で乱暴にされるのが好みらしい。おい、手足を押さえろ」
両腕をがっちりとテーブルに固定され、両足は、左右に引っ張られ、さらに開かされた。まさに磔にされた虫だ。アレクシスが脱いだ上着を使用人に渡し、用意されていた手袋を受け取りきゅっとはめる。
大きな影が圧し掛かってくる。腿を這う革特有のざらついた感触と頬に降りかかる銀髪に、昨夜の地獄がまざまざと脳裏に蘇って、無意識のうちに腰が浮く。
ズレないよう、手足を押さえつけてくる力が強くなった。アレクシスが、くつりと嗤った。
「震えているな。僕が恐ろしいか」
「まさ、か。あんたなんかちっとも怖くないね。やんならさっさとやれよ」
「そうか。ならばその減らず口、もう二度と叩けないようにしてやる」
「……ぁっ……ぐ、──ッ」
ぐっと腰を捻じ込まれ、慣らしもせず、異物を深々と突き刺されたはずみでぐんと体がしなった。間髪を入れずに腰を動かされ、中をめちゃくちゃにかき回される痛み。自分を見下ろす、たくさんの頭が見えた。
「ぅ……ふ、ぁ、ッ……く」
唯一自由に動かせる手に自らの爪を食い込ませ、悲鳴を押し殺す。絶対に、こんな男に屈してなるものか。大丈夫だ、頑張れる。
大好きな兄のためだったら、リョウヤはなんだってできるのだから。
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