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ふたつの嵐
20.
しおりを挟むこれが、嵐だ。
俺は心の底から、目の前のおぞましい男を欲している。
もっともっと、欲しくて欲しくってたまらない。
苛烈で、爆発的で、俺の全てを奪いたがっている姫宮に、俺だってイカれる。俺を狂おしいほどに求め続けるこの男が、果てしなく愛おしい。
こいつの、ドロドロと渦巻く嵐の中心に飛び込みたい。
その真ん中で飛ばされないように、こいつと死ぬまで抱き合っていたい。
そんな姫宮と喧嘩をしたものだから、姫宮の嵐と俺の嵐が重なって、昨日は激しい雨が降って、あのトラクターも突っ込んできちまったのかなァ……なんて。
そんな不謹慎なことまで、考える。
ぼんやりとした霞が取っ払らわれた白い階段の天井に、青く澄み渡る空が見えた。
姫宮を嵐の中から引っ張り出そうと躍起になっていたけど、どうやら俺も、静寂が広がる嵐のど真ん中に立っていたらしい。
あるんだ、俺の中にも。こいつと大して変わらない、苛烈な想いが。
──何よりも、姫宮の嵐を望む。
それこそが、俺の嵐だった。
もしも、いつか。
こいつに運命の番だという誰かが現れたら、俺はどうなってしまうのだろう。躊躇なく排除すると言い切った姫宮と、同じ選択をしてしまうのだろうか──いいやと、心の中で首を振る。
思うだけと、実際に実行に移してしてしまえるのには大きな差がある。
それに、俺が捕まってしまったらこいつは一人になってしまう。
ならば俺は、前者でいよう。
君は、穢れを知らない透き通るような水みたいにキレイなのだと。
そう言ってくれた、姫宮のためにも。
「いいぜ、いくらでも俺におかしくなれよ。もしもさ、おまえが暴走して変な道にいきかけたらさ……」
姫宮のことだって止めてやる。
隣国を滅ぼすよう強請る傾国の美女には、絶対にならない。
だって仮に、こいつが俺のために誰かの命を奪ってしまったら……きっとまた、思い悩むのだ。自身の異常性に、そして天秤にかけるでもなく俺のためになんでもしてしまえる自身のおぞましさに、また嘆くのだ。
本能を選んで俺を無理矢理番にした結果、こいつは7年間も苦しんだ。
姫宮に、もう辛い思いはさせたくない。
「そんときゃ俺が、おまえのことを引っ張って、元の道に戻してやるからさ」
何がなんでも、こいつには絶対に道を外させない。だから俺は人として在るための理性は手放さない。
最後まで、こいつと一緒に歩いていきたいから。
でも……でもそれはきっと簡単なことだ。
「だから、ずっと俺の傍にいろよ。四の五の言わず俺だけ見てろ……俺だけに狂ってろ。おまえのこの手、死ぬまで離してやんねーからさ」
俺がこいつの手を、一瞬たりとも離さなければいいだけの話なのだから。
「病める時も、健やかなる時も──俺がおまえを、幸せにしてやるよ!」
ニカッと、歯を見せて笑ってみせる。
夏が終わる前にみつけた俺の中の愛おしい嵐が、触れた部分を通して、この男の頭の天辺から指先にまで伝わるようにと。
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