夏の嵐

宝楓カチカ🌹

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ふたつの嵐

13.

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「うるさいな。そういうことはもっと早くに言えよ」
「言えるかっつーの! おまえだって俺に何も言わなかったくせに。つーか、嬉しくなきゃ毎日欠かさず首から提げてねぇって」
「……実は僕も嬉しくて、毎晩触ったり眺めたりしていたんだ」
「え、そーなの?」
「そうだよ。じゃなきゃ、毎日欠かさず首から提げてないだろう?」
「……おまえだって言えよ」
「……無理だったな」
「ほーらみろ。なんだ──なァんだ……は、は」

 本当に俺たち、ずっとずっと、おんなじこと考えてたんだな。

「じゃあやっぱり俺、これがいいや……おまえと、ホントの意味でお揃いだな」

 左手を右手で包み込んで、胸の前まで持っていき、ぎゅっと力をこめる。
 薬指に、指環が食い込んだ。これでいいのではなくて、これがいい。他でもなく、姫宮が俺のために考えに考え抜いて選んでくれた、この指環がいい。

「返事を、くれないか?」
「えーっ、言わなきゃダメ?」
「言って欲しい。君の声で聞きたいんだ。病める時も健やかなる時も、君を愛すると誓うから」
「そんなことシラフで言う奴いるか? つかおまえ健やかなる時ってなくね」
「茶化すな」
「あははっ、ごめんごめん……──はい」

 頭半分低い位置にある瞳をしっかりと見つめる。笑みは自然と零れた。

「喜んで、だな」

 おまえと友達になりたいと、かつてこの手を伸ばした時と同じ声と顔で、想いを伝える。

「俺、おまえの奥さんに、なりてぇや……」

 妻だろうが夫だろうが奥さんだろうが旦那さんだろうが、呼び方なんてもうどうでいい。ただこいつの傍にいたい。
 断る理由なんて、ひと欠片も見当たらない。

「橘……抱きしめても、いい?」

 それだって、断る理由は皆無だ。
 手すりに手をかけ、俺の方から先に一段降りた。姫宮も一つ上がり、これで俺たちの差は一段だけだ。
 姫宮と、目線の高さが同じになる。手を上げて、すっと背の高さを手で測ってみた。

「……小学生の頃と、一緒だな?」
「君の方が2mm、高かったんじゃなかったっけ」
「はは、たった2mmだろ?」
「さっきは誤差じゃないと怒ってたくせに」
「それはそれ、これはこれだろ」
 
 先に腕を伸ばしたのは、どちらだったのか。
 背中に回ってきた腕。俺も、姫宮の背に腕を回して肩にしがみつき、すうっと息を吸う。
 ──ああ、姫宮の匂いがする。
 ぎゅうっと力をこめると、同じくらいの、いやそれ以上の力で抱き返された。
 姫宮が、俺の肩口でふう……と息を吐き出した。

「緊張、した……」

 うん。知ってた。おまえの手、震えてたんだもん。

「……αでも、緊張すんだなァ」
「だからそれは偏見だよ。君の前だといつも、緊張してしまうんだ……」

 そのあまりにもあたたかすぎる抱擁に、治まっていたと思っていた涙がまた溢れてくる。
 ずずっと強めに鼻水を啜っても効果はなかった。昨日は風間さんのハンカチ、そして今日は顔を埋めた姫宮の肩をずびずびと濡らしてしまう。

「ヒートの時以外で、君が泣くの初めて見たよ」
「……ン」

 涙が溢れる目尻の辺りに、ちゅ、と吸い付かれた。

「初めて、知ったな」
「なに、が?」
「君の涙って、甘かったんだね……シロップみたいだ。あの頃の君の涙はすごく、苦かったから」

 その一言に、ぶわりとまた溢れてしまった。

「……どうして、泣くの?」
「うぅ、だってさぁ……」

 もう無理だ、とまんねえや。

「おれ、おれ、さ」

 肩まで震えてきた。もう涙腺が壊れてしまいそうだ。

「ずっと……こわくて、さァ」
「──僕が?」
「ちげぇよ……だっていっつも、よがるのは俺だけで……おまえは後悔とか、義務とか罪、罪悪感とか? そういうのでおれの相手してんだって、思って。つがいもホントは、解消してやりたかったんだけど、おれ、狂うのも死ぬのも、怖くて……」

 そうだ、こうして口にして初めて気づけた。
 
「だから……だからおまえに、運命の番が見つかったらどうしようって、ずっと思ってて。もしも、おまえの前にそういうのが現れたら、おれ、おまえに、す、捨てられちまうんじゃねぇかって……!」

 抱え込んでいた想いが溢れる。
 そうだ。そうだったんだ。
 ──俺はずっとずっと、これがこわかったのだ。



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【代表作】(BL)
・完結
「トイの青空」
・連載中
「月に泣く」
・番外編連載中
「ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。」

更新情報&登場人物等の小話・未投稿作品(番外編など)情報はtwitter記載のプロフカードにて。
宝楓カチカ(twitter)
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