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透愛と樹李
12.
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むっとした姫宮が唇をへの字に曲げた。たぶん、俺も似たような顔になっているだろう。
あれ、俺たち今、お互いの好意を確かめ合った後……だよな?
だというのになんだこの空気。がしがしと髪を雑に掻いてがっくりと肩を落とす。
「あーもう! おまえとはやっぱり馬があわねぇ! なんでそんなに陰湿なんだよっ」
「……それは昔からだ」
こいつとは根本的に、性格も考え方も価値観も違いすぎる。
──でも、さっきのはいつものような、相手の言葉の粗を突くことを目的とした、ギスギスとした掛け合いじゃなかった。
こんなガキっぽい、小学生同士の口喧嘩みたいなのをこいつとしたのは初めてだ。
「はーァ……おまえヤバすぎ」
姫宮が、唇を引き結んで俯いた。目の前の美しすぎる青年は、想像していたより何百倍、いや何千倍もヤバい拗らせ男だった──でも。
「ヤバすぎ、なのになァ」
驚くべきことに、「こいつへの感情」は胸のど真ん中にでーんと鎮座したままなのだ。こんなでっかくて存在感のある想いに、今まで気づかなかったというのが不思議なくらいに。
「俺、やっぱ、趣味悪ィや……それでも、おまえのこと」
好きで、しょーがねぇんだもんなぁ。
眦を緩めてそう続ければ、突然、肩をぐわしっと掴まれてそのまま向きを変えられ、ぐるんとベッドに押し倒された。
たった数秒で、あっけなくひっくり返されてしまった。
「おわっ」
怪我をしていても、唐突に強引に事を運ぼうとするところは相変わらずだな──っていうか、こいつバカじゃねえのか!? ちょっと前に目ぇ覚めたばっかのくせに!
「おまえはぁっ、いつも行動が突然すぎんだよ! 傷口開いたらどうすんだ、頭何針縫ってると思って……!」
「──橘」
ぽたりと、何かが落ちてきた。
ぽたぽたと連続して頬に、唇に、生ぬるい雫が垂れてくる。
「たちばな、橘……橘。うそ、みたいだ……」
「姫、宮」
姫宮が、泣いていた。
「これは、夢じゃないの?」
「……現実だよ、ほら」
むに、と下から柔く唇をつまんでやれば、姫宮がこれまた子どもみたいに、「いたい」と呟いた。
「……夢じゃないんだね?」
「だからそうだっつってんだろ、この泣き虫め……ったくぅ、さっきまでブチ切れてたくせに」
それともこれが本当の、こいつだったのかな。
「僕は、もう、影から君を見ていなくても、いいの?」
「いいよ」
「君と、人前で君と話すことも、許されるの?」
「うん……俺も、堂々とおまえの隣に立ちてぇもん」
「じゃあ、帰宅する君の後をつけまわさなくても、隣に並んで、一緒に帰れるの……?」
「お、おう、帰ろーぜ、一緒にさ」
「嬉しい……もう、休みの日にこっそり君の家に行って、双眼鏡で部屋を覗き見しなくても君の顔が見れるの……?」
「え、おまえそんなことまでしてたの」
「うん」
うんじゃない、うんじゃ。
あれ、俺たち今、お互いの好意を確かめ合った後……だよな?
だというのになんだこの空気。がしがしと髪を雑に掻いてがっくりと肩を落とす。
「あーもう! おまえとはやっぱり馬があわねぇ! なんでそんなに陰湿なんだよっ」
「……それは昔からだ」
こいつとは根本的に、性格も考え方も価値観も違いすぎる。
──でも、さっきのはいつものような、相手の言葉の粗を突くことを目的とした、ギスギスとした掛け合いじゃなかった。
こんなガキっぽい、小学生同士の口喧嘩みたいなのをこいつとしたのは初めてだ。
「はーァ……おまえヤバすぎ」
姫宮が、唇を引き結んで俯いた。目の前の美しすぎる青年は、想像していたより何百倍、いや何千倍もヤバい拗らせ男だった──でも。
「ヤバすぎ、なのになァ」
驚くべきことに、「こいつへの感情」は胸のど真ん中にでーんと鎮座したままなのだ。こんなでっかくて存在感のある想いに、今まで気づかなかったというのが不思議なくらいに。
「俺、やっぱ、趣味悪ィや……それでも、おまえのこと」
好きで、しょーがねぇんだもんなぁ。
眦を緩めてそう続ければ、突然、肩をぐわしっと掴まれてそのまま向きを変えられ、ぐるんとベッドに押し倒された。
たった数秒で、あっけなくひっくり返されてしまった。
「おわっ」
怪我をしていても、唐突に強引に事を運ぼうとするところは相変わらずだな──っていうか、こいつバカじゃねえのか!? ちょっと前に目ぇ覚めたばっかのくせに!
「おまえはぁっ、いつも行動が突然すぎんだよ! 傷口開いたらどうすんだ、頭何針縫ってると思って……!」
「──橘」
ぽたりと、何かが落ちてきた。
ぽたぽたと連続して頬に、唇に、生ぬるい雫が垂れてくる。
「たちばな、橘……橘。うそ、みたいだ……」
「姫、宮」
姫宮が、泣いていた。
「これは、夢じゃないの?」
「……現実だよ、ほら」
むに、と下から柔く唇をつまんでやれば、姫宮がこれまた子どもみたいに、「いたい」と呟いた。
「……夢じゃないんだね?」
「だからそうだっつってんだろ、この泣き虫め……ったくぅ、さっきまでブチ切れてたくせに」
それともこれが本当の、こいつだったのかな。
「僕は、もう、影から君を見ていなくても、いいの?」
「いいよ」
「君と、人前で君と話すことも、許されるの?」
「うん……俺も、堂々とおまえの隣に立ちてぇもん」
「じゃあ、帰宅する君の後をつけまわさなくても、隣に並んで、一緒に帰れるの……?」
「お、おう、帰ろーぜ、一緒にさ」
「嬉しい……もう、休みの日にこっそり君の家に行って、双眼鏡で部屋を覗き見しなくても君の顔が見れるの……?」
「え、おまえそんなことまでしてたの」
「うん」
うんじゃない、うんじゃ。
30
【代表作】(BL)
・完結
「トイの青空」
・連載中
「月に泣く」
・番外編連載中
「ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。」
更新情報&登場人物等の小話・未投稿作品(番外編など)情報はtwitter記載のプロフカードにて。
宝楓カチカ(twitter)
・完結
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・連載中
「月に泣く」
・番外編連載中
「ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。」
更新情報&登場人物等の小話・未投稿作品(番外編など)情報はtwitter記載のプロフカードにて。
宝楓カチカ(twitter)
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