153 / 227
痛み
09.
しおりを挟む『透愛ーっ』
肝心なところで邪魔が入った。クソ、と舌打ちをしかける。彼女に僕と触れ合っている姿を見られるのが嫌なのだろう、橘にがばっと腕で突き飛ばされた。
目を細め、すんなりと離れてやる。
『あれ、姫宮くんも……どうして二人が一緒に?』
「こんにちは、来栖さん。さっきそこですれ違って、少しお話してたんだ」
『えっ大丈夫? 姫宮くん、透愛に変なことされてない?』
『おい待て、どーいう意味だよそれは』
『そーいう意味。透愛がいっつもごめんね? 姫宮くん』
「あはは、どうして来栖さんが謝るの?」
この女……まだ知り合って半年も経ってないくせに何様のつもりだ。今はまだ、橘のなんでもないくせに。
彼の番で結婚相手で夫の僕と違って。
『……あ、とあっ』
『え?』
『あの、そろそろ、離して欲しいんだケド……』
『ッぁ、ご、ごめん!』
「……本当に橘くんって、来栖さんと仲が良いんだね」
デレデレと鼻の下を伸ばず橘も見ていられない。
その最悪な横っ面を張り飛ばしたくなる。
この女もこの女だ。ちょっと橘に手を握られたぐらいでこれ見よがしに頬を赤らめて。
調子に乗るなよ? 僕は橘ともっとすごいことをしているんだぞ。おまえなんかじゃ想像もつかないようなことを、いつもいつも、いつもな。
──でも、そのせいで今回は彼の手首に痣をつけてしまった。
冷静にと自分を律していても、堪え切れずかっとなってしまうことが、最近は増えた……今のように。
彼の白い肌についた、薄い僕の指の痕が目に痛くて下を向く。
あれほど、傷一つつけまいと彼に誓ったのに。
これは、自分の弱さだ。
『もー透愛ってば、なんでそういう言い方しかできないの? ごめんね、姫宮くん』
……こっちはこんなにも悩んでいるというのに、もう橘の彼女気取りか。「透愛」って、橘のキレイな名前を呼んで汚すその忌々しい口を切り取って豚の餌にでもしてやりたい。
「ふふ、照れなくていいのに。本当に仲良しだなぁ。土曜日2人でデート?」
『ち、違うよ。ほら、嫩山神社で夏祭りがあるじゃない?』
姫宮くんも来る? と冗談で言われたことはわかっていた。けれども乗らないわけがない。
「うん、僕も行こうかな」
橘なんて特に、目を丸くしていた。
『じゃあ後で待ち合わせ時間とか送るね。ちょっとみんなに伝えてくるから、透愛も早く来てよ!』
「元気な子だね、来栖さんって」
甲高い声がうるさい。隣に立つだけで耳が割れそうだ。
二度と橘の前で息を吸ってくれるな、臭いんだよ。
そんなことを思いながら僕が手を振り返しているこの瞬間、駐車場からハンドル操作を誤ったどっかの教授の車にでも跳ね飛ばされてしまえ。
それなら僕が手を下す必要がなくなって、一石二鳥だ。
『ど、どういう風の吹き回しだよ。そういうのいっつも断ってんじゃん……?』
「……なに、行っちゃ悪いの? ああ、僕がいると色々とお邪魔かな。可愛い女の子たちと遊ぶチャンスだものね」
そんなにあの女と二人で出かけたかったのか……まさか、そこまで進展していたとは。大学以外では二人きりで出かけている姿をまだ見たことはなかったから油断したな。
もっともっと、橘を監視しないと。
「僕はつまらないと思うけど」
『……じゃあ来なきゃいーじゃん。なんで』
「うるさい、僕に聞くな」
察しの悪い橘に吐き捨てる。
「……君は、なんでだと思うの」
こっちはあんな女の手料理で君の血肉が作られる日があると思うだけで、腸が煮えくり返りそうだっていうのに。
「なんでだと思う、なんで僕が行くと思う」
『……いや、知らないけど』
「そう、相変わらず頭の中お花畑だね。うらやましいよその能天気っぷりが」
橘は、突然僕に責められてただただ困ったような顔をしている──ああ、本当にこの男はもう。
察しの悪い人間は基本的に僕にとっての無だ。先を見越して話せないから会話が続かずイライラするし、要件が伝わらなくて何度も噛み砕いて説明せざるを得なくて口が痛くなるし、そもそもそんな存在に自分の貴重な時間を割くことさえ勿体ないと思う。
そう、嫌いだ。嫌いなはずなのに。
橘のことは好き……好きだ。
好きだよ橘。
『おまえ、もしかして……好きなのか?』
数秒。声が出なくなった。
21
お気に入りに追加
1,317
あなたにおすすめの小説
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
目が覚めたらαのアイドルだった
アシタカ
BL
高校教師だった。
三十路も半ば、彼女はいなかったが平凡で良い人生を送っていた。
ある真夏の日、倒れてから俺の人生は平凡なんかじゃなくなった__
オメガバースの世界?!
俺がアイドル?!
しかもメンバーからめちゃくちゃ構われるんだけど、
俺ら全員αだよな?!
「大好きだよ♡」
「お前のコーディネートは、俺が一生してやるよ。」
「ずっと俺が守ってあげるよ。リーダーだもん。」
____
(※以下の内容は本編に関係あったりなかったり)
____
ドラマCD化もされた今話題のBL漫画!
『トップアイドル目指してます!』
主人公の成宮麟太郎(β)が所属するグループ"SCREAM(スクリーム)"。
そんな俺らの(社長が勝手に決めた)ライバルは、"2人組"のトップアイドルユニット"Opera(オペラ)"。
持ち前のポジティブで乗り切る麟太郎の前に、そんなトップアイドルの1人がレギュラーを務める番組に出させてもらい……?
「面白いね。本当にトップアイドルになれると思ってるの?」
憧れのトップアイドルからの厳しい言葉と現実……
だけどたまに優しくて?
「そんなに危なっかしくて…怪我でもしたらどうする。全く、ほっとけないな…」
先輩、その笑顔を俺に見せていいんですか?!
____
『続!トップアイドル目指してます!』
憧れの人との仲が深まり、最近仕事も増えてきた!
言葉にはしてないけど、俺たち恋人ってことなのかな?
なんて幸せ真っ只中!暗雲が立ち込める?!
「何で何で何で???何でお前らは笑ってられるの?あいつのこと忘れて?過去の話にして終わりってか?ふざけんじゃねぇぞ!!!こんなβなんかとつるんでるから!!」
誰?!え?先輩のグループの元メンバー?
いやいやいや変わり過ぎでしょ!!
ーーーーーーーーーー
亀更新中、頑張ります。
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)
ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに
ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子
天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。
可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている
天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。
水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。
イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする
好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた
自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い
そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる