夏の嵐

宝楓カチカ🌹

文字の大きさ
上 下
77 / 227
お節介な奴ら

05.

しおりを挟む
「確かにさ、俺らには話せない何かはあると思うよ、見てる限り……でもそういうのって、無理に聞くもんじゃないだろう? いつか橘が俺たちに話してもいいなって思えるぐらい、長く付き合っていこうよ」
「風間さんってばおっとなぁ」
「年上だからなぁ」
「でも、でもさ……あいつ姫宮に対してだってさぁ、変じゃん……変だよ」

 そうなのだ。
 橘は誰に対しても飾らない態度だし、悪口だって言わない。
 誰かに嫌われるような奴でも、ましてや誰かを嫌うような奴でもない。だからこそ橘の姫宮に対する露骨な拒絶反応には驚いた。
 そのせいであいつ、姫宮陣営の一部の女子には嫌われ始めているし。
 根本的に合わないのか、それとも何か理由があるのか。けれども橘は理由を言わないし、それとなく聞き出そうとするとへらりと笑って、「ちょっとな」とか「別に、なんでもねぇよ」と『あの顔』をするから、聞くに聞けないでいる。
 本人はあれで隠せていると思っていたのだから、やはり「純粋」である。
 普通の関係であれば、些細な変化には気づかないのかもしれない。
 だが綾瀬たちは違う……橘の言う、橘の「親友」なのだ。
 夏祭りの時も、なんだかあの2人、変だった。
 なんというか、2人が近づいた時の雰囲気が。
 ギクシャクしている、とも言えるけれども、それとも違うような……姫宮の方も。
 でも、姫宮はさっきも普通に話しかけてきた。むしろ自分から、橘に寄っていこうとしているようにさえ見えた。
 いや、でもわからない。
 橘もそうだが、それ以上に姫宮は知らないことが多すぎる。とりあえず、あそこは謎だ。

「でも瀬戸、おまえ無理に仲良くさせようとしすぎ」

 露骨なのはどっちだっての。

「だって橘いい奴じゃん。優しいしさ。なんでか姫宮にはああいう態度とっちゃうけど。橘のこと、姫宮に勘違いされたくねぇもん……」
「は? そもそもおまえが吉沢にあんなこと言わなきゃな」
「だーから、それは反省したってばぁ! それにマジで軽口だったんだって、『なんかもめてたし、殴ったかもなぁ』ってそれぐらいで……橘がそういうことする奴じゃねえってことぐらい俺知ってるしっ、綾瀬のバカ! バカバカ!」

 興奮すると瀬戸は声がでかくなる。
 ああだこうだと喚く瀬戸がウザくてテーブルの下から脛を蹴り上げれば、蹴り返された。
 こらこらと風間に止められた。
 そしてだんだんとテーブルを叩く瀬戸を、まぁまぁと風間がなだめた。

「いい子だなぁ、瀬戸は」
「風間さ~ん、も~~!! 綾瀬はドライすぎだろっ」
「どーでもいいし」

 そう、どうでもいいのだ。
 橘が何を隠していようがどうでも。わからない部分があっても、どうでも。
 心に秘めた言葉をあまり動かぬ頬の筋肉に押し込めていると、柔らかく苦笑した風間に、「綾瀬らしいな」と頭を撫でられた。
 ふんと鼻を鳴らす。悪い気分にはならないので、やらせておく。

「うーん、でもなんかねぇかな~、橘と姫宮の仲を取り持つ作戦……あ、そうだ!」

 腕を組んで考え込んでいた瀬戸が、ぱっと手を叩いた。いいことひらめいた! みたいな顔をしている。
 瀬戸の思い付きは大抵空回るが、暴走気味の瀬戸は言っても聞かない。
 あの2人には、干渉しないほうがいいとは思うけれど。
 ちょいちょい、と手招きされたので3人で顔を寄せる。

「今夜の飲み会さ、姫宮も誘ってみねえ?」
「──おお!」
「あー……のるか?」
「のるだろ! 夏祭りだって来たんだしさ」

 にへっと笑った瀬戸に、なるほどと頷く。
 それは、ちょっといい案かもしれない。

「まぁ、いーんじゃね……」

 やっぱり笑う瀬戸がウザくて脛を蹴った。


 結局のところ、だ。
 瀬戸も綾瀬も風間も、なんだかんだとお節介焼きだった。








 ────────
 次回、ついにあの方が出てきます。
しおりを挟む
【代表作】(BL)
・完結
「トイの青空」
・連載中
「月に泣く」
・番外編連載中
「ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。」

更新情報&登場人物等の小話・未投稿作品(番外編など)情報はtwitter記載のプロフカードにて。
宝楓カチカ(twitter)
感想 141

あなたにおすすめの小説

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)
BL
「ねぇ、オレの事は悠って呼んで」  俺にだけ許された呼び名 「見つけたよ。お前がオレのΩだ」 普通にβとして過ごしてきた俺に告げられた言葉。 友達だと思って接してきたアイツに…性的な目で見られる戸惑い。 ■オメガバースの世界観を元にしたそんな二人の話  ゆるめ設定です。 ………………………………………………………………… イラスト:聖也様(@Wg3QO7dHrjLFH)

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

処理中です...