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夏祭り
10.
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「らふらんす、こうちゃ……ちょうだいって、言われて」
ここでも出たか、ラフランス紅茶が。
「うん」
「凛花のだからだめって、言ったのに、笑って、ず、ずっとついてくる、から……なげた」
「ひど、俺らお友達になりたかっただけなんですけど」
なにが友達だ。今のようなふざけたニヤニヤ顔で、獲物をいたぶるかのようにずっと追い回していたに違いない。会場から外れたこんな境内の反対側まで。
男の子1人女の子1人が4人の男に。
どれだけ怖かっただろう。
「大の大人がガキ捕まえて、食いもん奪えなかったからって嫌がらせ? 正気かよおまえら」
「先にキレたのそのガキだけど」
「おまえらみたいな連中に追っかけまわさられたら怖ぇに決まってんだろ、子どもだぞ。正直に言えよ、調子に乗ってたらやり返されて恥かいたから大人気なく逆ギレしましたって。ダセェな」
「あ?」
「つーかカキ氷くらい自分で買えや、4人も揃ってて200円ぽっちも出せねぇのか?」
「ざっけんな、品切れだったんだよラフランス紅茶がよ!」
馬鹿かこいつら、っつーからどんだけ人気なんだラフランス紅茶味のかき氷は。
吐き捨てられたまったくもってアホらしい言い訳と共に、右の男からドンッと肩を押されて体勢を崩し、乱暴に胸ぐらを掴まれた。踵が浮く。
「おにいちゃん! や、やめてよぉ!」
後ろから悠真が男の一人の足を叩いた。
「ってぇなてめえこのガキ!」
軽く蹴りを入れられて、わぁ! と悲鳴を上げて悠真が転ぶ。
「悠真っ──やめろ、離せって!」
咄嗟に、胸ぐらを持ち上げてくる男の腕を掴んで、制する。そして……ついにバレた。
「あれ、オニイサンもしかして……震えてね?」
せせら笑われて、ぐっと唇を噛む。面白がって両肩にそれぞれトン、と腕を乗せられて、更に震えが増した。
もう、誤魔化しきれない。
「お、マジじゃん。ぶるぶるしてるー」
「せっかく威勢いいのに、もったいな」
「残念、カッコいいとこ見せたかったん?」
「かわいー、オニイサンの顔おーぼえた」
当たり前だろう。こんなの、怯えないわけがない。
──だってこいつら、αだ。
Ω性を持つ自分だからこそ瞬時にわかった。こいつら狩る側の人間だって。
駆け寄ろうとした瞬間のひと睨みに足が竦んだ。
こんな男共、いたいけな子どもを脅すようなクズ野郎でしかないのに。αってだけで体の震えが止まらない。呼吸するだけで一苦労だ。
圧倒的な敗北感。
本能でわかってしまうのだ、どう足掻いてもこいつらには敵わないって。
俺は、狩られる側の人間なんだって。
でも、俺がΩだってことはまだバレていない。バレたら、俺のことを瞬時に性的な対象として見てくるはずだ。この男たちの目の奥に宿る熱は、性的な支配欲じゃない。
同性を嘲ることに悦楽を感じている、底意地の悪さだ。
もちろん、こんな男がΩなわけないという思い込みもあるだろう。
なら、バレる前になんとかしなければ。
「……俺も、顔覚えたわ」
「あ?」
それでも歯の根すらろくに合わなくて、吐く息すら震えてしまうけれども。
「さっさと消えろや、カス」
「……の野郎、ガタガタ震えまくってるくせに」
ガタガタ震えてるからなんだってんだ。
さっきから逃げろって後ろ手で合図を送ってんのに、足をくじいてしまったらしい凛花を、同じく足に力の入らない悠真は支えきれない。
だから俺がここで引いたら、ヤバいだろ。
「おにい、ちゃん……」
引いて、たまるかってんだよ。
ここでも出たか、ラフランス紅茶が。
「うん」
「凛花のだからだめって、言ったのに、笑って、ず、ずっとついてくる、から……なげた」
「ひど、俺らお友達になりたかっただけなんですけど」
なにが友達だ。今のようなふざけたニヤニヤ顔で、獲物をいたぶるかのようにずっと追い回していたに違いない。会場から外れたこんな境内の反対側まで。
男の子1人女の子1人が4人の男に。
どれだけ怖かっただろう。
「大の大人がガキ捕まえて、食いもん奪えなかったからって嫌がらせ? 正気かよおまえら」
「先にキレたのそのガキだけど」
「おまえらみたいな連中に追っかけまわさられたら怖ぇに決まってんだろ、子どもだぞ。正直に言えよ、調子に乗ってたらやり返されて恥かいたから大人気なく逆ギレしましたって。ダセェな」
「あ?」
「つーかカキ氷くらい自分で買えや、4人も揃ってて200円ぽっちも出せねぇのか?」
「ざっけんな、品切れだったんだよラフランス紅茶がよ!」
馬鹿かこいつら、っつーからどんだけ人気なんだラフランス紅茶味のかき氷は。
吐き捨てられたまったくもってアホらしい言い訳と共に、右の男からドンッと肩を押されて体勢を崩し、乱暴に胸ぐらを掴まれた。踵が浮く。
「おにいちゃん! や、やめてよぉ!」
後ろから悠真が男の一人の足を叩いた。
「ってぇなてめえこのガキ!」
軽く蹴りを入れられて、わぁ! と悲鳴を上げて悠真が転ぶ。
「悠真っ──やめろ、離せって!」
咄嗟に、胸ぐらを持ち上げてくる男の腕を掴んで、制する。そして……ついにバレた。
「あれ、オニイサンもしかして……震えてね?」
せせら笑われて、ぐっと唇を噛む。面白がって両肩にそれぞれトン、と腕を乗せられて、更に震えが増した。
もう、誤魔化しきれない。
「お、マジじゃん。ぶるぶるしてるー」
「せっかく威勢いいのに、もったいな」
「残念、カッコいいとこ見せたかったん?」
「かわいー、オニイサンの顔おーぼえた」
当たり前だろう。こんなの、怯えないわけがない。
──だってこいつら、αだ。
Ω性を持つ自分だからこそ瞬時にわかった。こいつら狩る側の人間だって。
駆け寄ろうとした瞬間のひと睨みに足が竦んだ。
こんな男共、いたいけな子どもを脅すようなクズ野郎でしかないのに。αってだけで体の震えが止まらない。呼吸するだけで一苦労だ。
圧倒的な敗北感。
本能でわかってしまうのだ、どう足掻いてもこいつらには敵わないって。
俺は、狩られる側の人間なんだって。
でも、俺がΩだってことはまだバレていない。バレたら、俺のことを瞬時に性的な対象として見てくるはずだ。この男たちの目の奥に宿る熱は、性的な支配欲じゃない。
同性を嘲ることに悦楽を感じている、底意地の悪さだ。
もちろん、こんな男がΩなわけないという思い込みもあるだろう。
なら、バレる前になんとかしなければ。
「……俺も、顔覚えたわ」
「あ?」
それでも歯の根すらろくに合わなくて、吐く息すら震えてしまうけれども。
「さっさと消えろや、カス」
「……の野郎、ガタガタ震えまくってるくせに」
ガタガタ震えてるからなんだってんだ。
さっきから逃げろって後ろ手で合図を送ってんのに、足をくじいてしまったらしい凛花を、同じく足に力の入らない悠真は支えきれない。
だから俺がここで引いたら、ヤバいだろ。
「おにい、ちゃん……」
引いて、たまるかってんだよ。
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