夏の嵐

宝楓カチカ🌹

文字の大きさ
上 下
39 / 227
俺たちの関係

09.

しおりを挟む

「橘」

 と、呼び止められた。
 律儀に足を止めてしまったのは、姫宮に対して苛ついていたからだ。
 他に理由なんてない──絶対に、ない!

「なんだよっ、まだ言い足りねぇことあんのか」
「ああ、ある」

 どうでもいいことだったら今度こそ蹴っ飛ばしてやる、マジで。
 するりと手首に指が絡みついてきた。指環のサイズは変わらないはずなのに、姫宮の長い指は俺の手首を軽く一周してしまう。

「夏祭り、楽しみにしてるから」
「──は?」

 耳元でぼそりと囁かれて、バッと振り仰ぐ。
 しかし、そこに残っていたのは姫宮の流し目の残骸。しかもその向こう側から、駆け寄ってくる瀬戸の姿が見えた。
 俺が姫宮と一緒にいることが意外だったのだろう、「え?」みたいな顔で足のペースを遅くした。
 姫宮は瞬時にいつもの上辺だけの笑みを張り付けて、近づいてきたに瀬戸にも挨拶をした。

「やあ、こんにちは」
「……ども、っス」

 こんにちは、の後に何も続かなかったということはやっぱり瀬戸の名前覚えてねーんだな、こいつ。
 というか同級生だというのに、どうしては瀬戸は姫宮に敬語を使うのか。
 まぁ気持ちはわからないでもないけれど。
 姫宮は俺を振り返ることなく、颯爽と去っていった。

「か~、相変わらず爽やかだな。やぁってなんだよやぁって。俺もやぁって綾瀬に言ってみっかな、死ねば? って言われそうだけど」
「……なんだよ、欠片も興味ねぇっつったくせに」

 遠くなる背中に唇を尖らせつつ、まだ温もりの残る手首を擦る。

「なにが?」
「えっ、いや、なんでもない」
「どうしたよお前、なんか顔赤くね?」
「あ、あーうん、ちょっとここ、暑くてさ」
「木陰じゃん。で、姫宮と何話してたんだよ~、殴り合ってついに友情芽生えたとか?」

 決闘場所は河川敷か~? とかニヤニヤ顔で脇腹を突かれた。近くに河川敷なんかねーだろ。

「だから殴ってねえっつの。今朝もみんなにお前だろ~? とか言われて焦ったし……姫宮の取り巻きにも絡まれて大変だったんだからな。誰だよ、噂流したやつ~!」
「え……マジ? あーらら、それはそれは……」

 やけに歯切れが悪くなった瀬戸に、秒で察した。
 伊達にこいつと数か月友達やってない。「瀬戸~?」と目を合わせようとするが、瀬戸は「やっべ」みたいな顔でひょいひょいと視線を外してばかりだ。
 なので、がっちりと肩を掴んでこちらを向かせる。

「おい」
「……ごめんっ! 実はぁ、朝ぁ、吉沢さんから、LIME来てぇ」
「俺がやったって言ったのかよ!」
「ちげーよ! いやほら、おまえら仲悪そうだったじゃん? だからもしかしたら橘が一発ブン殴ったんかな~あっははって、軽口の憶測で……いやその顔やめて! ガチじゃねぇって、冗談だったんだって!」
「同じことだろ、おまえよくもっ」
「だって吉沢さん可愛いんだよぉ~! おまえ知らないの? 吉沢美月ちゃん!」
「いや知らないし、誰だよ!」
「はぁああ!? 大学で姫宮の次に有名な子なんだぞっ、アイドルみてーに可愛いんだからなっ、男としてその発言はどうよ! 俺はそんな子に『教えてくれてありがとう瀬戸くん♡』なんて言われたんだからな! あ、LIME見る? これ脈ありかな? デートに誘われたらどうしよ」

 デレデレと鼻の下をとろけさせた瀬戸に真顔になる。

「なぁなぁ橘、この前着てた服ってどこで買った? 俺もお前と同じの着て吉沢さんと、いや美月ちゃん……いや美月とデート行きたい! だから来週買いもの、付き合って♡」

 えへ、としなをつくった瀬戸に額がピキついた。
 おまえが語尾にハートをつけるな。


 初めて、瀬戸よりも10cm以上背が高くてよかったと思った。
 そのつむじ目掛けて、結構な力を込めて脳天チョップをお見舞いできたのだから。








 ───────
【鳩屋歩様から、素敵なFAを頂きました!】
 ミニキャラverの樹李と透愛です。私の想像通りの二人で感動です✨
 鳩屋さん、ありがとうございました。
しおりを挟む
【代表作】(BL)
・完結
「トイの青空」
・連載中
「月に泣く」
・番外編連載中
「ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。」

更新情報&登場人物等の小話・未投稿作品(番外編など)情報はtwitter記載のプロフカードにて。
宝楓カチカ(twitter)
感想 141

あなたにおすすめの小説

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)
BL
「ねぇ、オレの事は悠って呼んで」  俺にだけ許された呼び名 「見つけたよ。お前がオレのΩだ」 普通にβとして過ごしてきた俺に告げられた言葉。 友達だと思って接してきたアイツに…性的な目で見られる戸惑い。 ■オメガバースの世界観を元にしたそんな二人の話  ゆるめ設定です。 ………………………………………………………………… イラスト:聖也様(@Wg3QO7dHrjLFH)

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました

ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。 「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」 ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m ・洸sideも投稿させて頂く予定です

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

処理中です...