117 / 227
喧嘩
05.
しおりを挟む食堂通路用のドアガラスを勢いよく開ける。
ぐぉん、と空気が入り、結構な風圧で音が鳴る。しかもついでとばかりに背後で雷鳴が鳴って、驚いたように入口付近の視線が自分に向いた。
「お、来た来た橘ぁ──え、なに、ブチ切れてね?」
あいつなら俺らの二列後ろの席にいるけど、と。
昨日の飲み会でのいざこざをすっ飛ばして連絡をくれた友人たちを通り過ぎ、取り巻き共に囲まれて、呑気に飯を食ってる男へ近づいていく。
昼休みの真っただ中なので、不揃いに並べられた洒落たテーブルには人がぎゅうぎゅうに詰まっていた。
奴の背後に立てば、自然と目が据わった。
「ねぇねぇ姫宮くん、今度一緒に……え、橘くん?」
ねぇねぇ姫宮くん、じゃねぇ。
振り上げた手で、バン! とテーブルを叩いた。何事だと、ぎょっとして俺を見てくるのは周辺の奴らだけ。
姫宮は視線すら向けてこない。
ただ、スプーンを持ち上げていた手は止まった。
「よぉ、姫宮。ちょっとツラ貸せ」
自分の低すぎる声に、これじゃあ悪役がどっちかわからないななんてことを思った。
「また橘かよ……」
「なんなの? 前から突っかかって」
「いい加減にしろよ~」
「姫宮くん困ってるじゃない」
「マジで無理なんですけど」
俺を睨んでくる女子や男子を、姫宮はすっと顔の横まで掲げた手だけで宥めた。
王様気取りかよ。
「いいよ。橘くんは僕に用があるみたいだから──で、何か用?」
「立て」
「人前で話しかけてくるなんて珍しいね」
「話がある」
食堂はリニューアルしたばかりで、公道に面した窓は全面ガラス張り。清潔感のある壁と木を基調とした天井に、俺たちの声はかなり反響した。
それでも姫宮は立ち上がらない。頑なに、目線を下げている。
「見てわからない? 今、お昼ご飯食べてるんだけど」
「定食のBセットでビーフシチューか? 女泣かせといていいご身分だな」
顎でしゃくれば、姫宮の口角も吊り上がった──冷静? ンなわけあるか。人が大勢いる場所でこんな顔をするなんて。
俺と同じで、相当頭にキている証拠だ。
「──ああそう。君に泣きついたんだ、あの女」
「歯ァ食いしばれ」
先に宣言してやるんだから親切な方だ。
その白い横っ面に拳を叩きこめば、姫宮がテーブルに倒れ込んだ。
巻き添えを食らったB定食が、床にぶちまけられる。
「きゃー!」
なるほどな、俺は透貴に似ているらしい。
人なんて殴ったことなかったのに、振り上げた拳は綺麗に奴の頬に食い込んだのだから。
「やめてよ、姫宮くんに何するのっ」
「誰かこの馬鹿押さえて!」
「姫宮くん、大丈夫!?」
どうでもいい奴らばかりが俺を引き留めようとするので、力いっぱい振り払う。
「どけ! これは俺と姫宮の問題だ、部外者は引っ込んでろ!」
腹からの一喝に、周囲が後退った。
「──立てよ、姫宮。それとも、俺にやられっぱなしのか弱いお姫さまか?」
ぴくりと、姫宮の肩が膨れ上がる。
「みんなに守ってもらわなきゃ反撃の一つもできないってか? このクソ野郎」
皆が皆、こいつのことを優しいと言うけれど、こいつは絶対にやられっぱなしのまま終わらない。
だって、このスカした面の裏に隠されている獣を、俺は知ってる。
7年前から、俺だけが、知っている。
姫宮の切れた口の端から、ぽたりと赤が垂れた。
「そんなのぜんっぜん……おまえらしくねえんだよ!!」
そう言い切った瞬間。
7年前と寸分違わぬ、いや、それ以上に苛烈な炎を燃やす瞳に射抜かれて、俺は歓喜した。
おせぇんだよ。
やっと中心から一歩、出てきやがって。
────────────────
このお話は「青春」がコンセプトです。
長年すれ違いまくった男同士の(攻めと受け)熱きバトルが始まります……が、その前に姫宮の過去(中編)が入ります。
また誤字脱字報告くださる方、いつもありがとうございます~
12
【代表作】(BL)
・完結
「トイの青空」
・連載中
「月に泣く」
・番外編連載中
「ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。」
更新情報&登場人物等の小話・未投稿作品(番外編など)情報はtwitter記載のプロフカードにて。
宝楓カチカ(twitter)
・完結
「トイの青空」
・連載中
「月に泣く」
・番外編連載中
「ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。」
更新情報&登場人物等の小話・未投稿作品(番外編など)情報はtwitter記載のプロフカードにて。
宝楓カチカ(twitter)
お気に入りに追加
1,334
あなたにおすすめの小説
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。

イケメンがご乱心すぎてついていけません!
アキトワ(まなせ)
BL
「ねぇ、オレの事は悠って呼んで」
俺にだけ許された呼び名
「見つけたよ。お前がオレのΩだ」
普通にβとして過ごしてきた俺に告げられた言葉。
友達だと思って接してきたアイツに…性的な目で見られる戸惑い。
■オメガバースの世界観を元にしたそんな二人の話
ゆるめ設定です。
…………………………………………………………………
イラスト:聖也様(@Wg3QO7dHrjLFH)
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。


ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる