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お節介な奴ら
06.
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カランカランと、ベルの涼やかな音と共にクーラーの冷気に迎えられた。
あれだけ耳に煩かった蝉の声がくぐもる。
そこまで広くないカフェ内だ、目当ての人物はすぐに見つかった。
やぁ、と手を上げてくれた彼に駆け寄る。
「透愛くん、こっちだ」
「義隆さん」
姫宮の父親から話があると連絡を受けたのは昨日のこと。毎秒忙しい人だというのによく俺に会う時間を作れたものだ。
大学からも遠い、郊外のレトロなカフェをさらっと指定してくれたのも有難かった。
たぶん俺に気を使わせないためだろう。
ホテルのラウンジ等だと俺が緊張してガチガチになる。
それに、義隆は有名人だ。
「急な連絡ですまなかったね」
「いいよ、ゼミの話し合いも終わったし。でもそっちこそ仕事大丈夫なの? 別に電話でもよかったのに、これから出張なんだろ?」
「一泊だけだ。それに直接君と会って話したかったんでね、君はこれから何か予定があるのかい?」
「うん、この後飲み会」
「……あんまり羽目は外すなよ?」
「はは、俺は飲まないって」
「本当かな」
義隆の表情は、出会った頃とは比べ物にならないほどに穏やかだ。
この人もこの7年で、随分と変わったと思う。
「何か飲むかい? 食べたいものがあればそれも頼めばいい。私が払おう、遠慮はいらない」
「え? いやいいよ、俺だってこんぐらいは」
「ここで君に払わせたら、我が姫宮グループの名が廃るよ」
「ははっ、姫宮グループのレベル低いなー……じゃ、遠慮なくオゴられちゃうかな」
「そうしてくれ」
「おっ、ホンモノっぽいメロンクリームソーダある。すげえ、なんか純喫茶って感じだな」
「君が飲んできたものはニセモノだったのかい? じゃあまずはそれにしようか」
くすくすと笑う義隆がメロンクリームソーダとコーヒーを頼むと、まずはテーブルにお冷やが置かれた。カラン、と穴のあいた氷が動く。
走ってきて体がかなり汗ばんでいたので、ごくごくと一気飲みしてしまった。
やっぱり夏は、クーラーでガンガンに冷えた室内と、冷たい水に限る。
「はぁあ、生き返るぅ」
「いい飲みっぷりだ。今日も暑いな、いよいよ夏も本格的になってきた」
「うん、夏だね」
姫宮との関係が始まった夏。
あついよ 橘。
夏祭りの夜、そう囁いてきた男がこんなにも遠い。
「透愛くん」
「ん?」
「ここのところずっと 樹李を避けているようだな」
肩を竦めて、苦笑する。
「いきなり本題? なんだよあいつー、父親に愚痴ったんか?」
「違うな、私が気付いたんだ。最近仕事を任せ始めているんだが、 かなり調子がよくない」
「そう? 相変わらず、完璧な笑みだったけど」
痩せているように見えたのは、仕事が忙しかったからだろう。
「煙草の本数が多いんだ」
「たばこ……」
「そう。もうバレても構わないとでも思っているのか、自棄になっているのか……吸いまくっていてね。イライラしている」
やっぱり家でガンガン吸ってんのか、あいつ。
「樹李の不調は、君以外に理由が見つからないからな」
「……買いかぶり過ぎだって」
きっぱりとした口調に、首を振る。
「そうかな。樹李の中心はいつだって君だよ。あれが素の自分を見せるのは透愛くんだけだ」
それは、罪悪感という名の中心だ。
「あいつが俺の前で猫被んねぇのは、わざわざ取り繕う必要がないからだって。ま、お互いにヤバい部分も曝け出してんだ。もう隠しようもねぇしな」
「そうかな。私には樹李も君も、一番大事な部分を隠しているように見えるんだがね」
温かなおしぼりで手を拭き、目線を下げる。
「そんなこと、ねぇって」
義隆は定期的に、こうして俺と姫宮の仲を取り持とうとしてくる。籍を入れた者同士いつまでも離れているのもよくないだろうと、卒業後の同棲を進めてきたのも義隆だ。
お義父さんと呼んで欲しいなんて言われたのも、記憶に新しい。
本当に、昔じゃ考えられなかった話だ。
「……義隆さんが思ってるほど、あいつの意識は俺に向いてないよ」
「そうかな」
「そうだって」
お待たせしましたと、ことんとテーブルに置かれた長ひょろいメロンクリームソーダ。
さっそくストローでちゅっと吸えば、バニラと混ざったまろやかな甘さが舌に広がった。美味しい。
姫宮の舌に溶かされた、夏の味に似ていた。
「なぁ透愛くん、今日私と会うことを、透貴さんには話したのかい?」
「ナイショ、メールも消した」
「そうか、有難い…… ただでさえ透愛くんに連絡したことも内緒なんだ。バレたら、数か月は口を利いてもらえないだろうからね」
透貴の話題が出た瞬間、愛おしそうに細くなった義隆の目尻。
透貴は隠そうとしているみたいだけど、俺はもうなんとなく察しが付いてる。
(無意識だろうけど、感情が昂ると義隆さんのこと呼び捨てにしてるもんなァ)
そんで俺が察してることを、 義隆も気付いてる。
夏祭りの次の日、兄が出張から帰ってきた。
湿布が貼られた俺の足を見て目を丸くしていた。かくかくしかじか事情を伝え、姫宮も夏祭りに来ていたこと、送迎を呼んで家まで送ってくれたこと。
透貴の浴衣を汚してしまったことも、正直に白状した。
もちろん、見知らぬ男たちに犯されそうになった部分は省いたけれど。
『……そうですか』
兄はそう頷いたっきり、その話題を出さなくなった。
何故黙っていたのかと、詰め寄られることもなかった。
もしかしたら兄は、姫宮が来ることを全て知っていたのかもしれない。
あの夜、俺が待ちきれないとばかりにそわそわしていたから。
あの日から、透貴とも少しギクシャクしている。
いろいろとままならないことが多くて、少し疲れた。
カランカランと、ベルの涼やかな音と共にクーラーの冷気に迎えられた。
あれだけ耳に煩かった蝉の声がくぐもる。
そこまで広くないカフェ内だ、目当ての人物はすぐに見つかった。
やぁ、と手を上げてくれた彼に駆け寄る。
「透愛くん、こっちだ」
「義隆さん」
姫宮の父親から話があると連絡を受けたのは昨日のこと。毎秒忙しい人だというのによく俺に会う時間を作れたものだ。
大学からも遠い、郊外のレトロなカフェをさらっと指定してくれたのも有難かった。
たぶん俺に気を使わせないためだろう。
ホテルのラウンジ等だと俺が緊張してガチガチになる。
それに、義隆は有名人だ。
「急な連絡ですまなかったね」
「いいよ、ゼミの話し合いも終わったし。でもそっちこそ仕事大丈夫なの? 別に電話でもよかったのに、これから出張なんだろ?」
「一泊だけだ。それに直接君と会って話したかったんでね、君はこれから何か予定があるのかい?」
「うん、この後飲み会」
「……あんまり羽目は外すなよ?」
「はは、俺は飲まないって」
「本当かな」
義隆の表情は、出会った頃とは比べ物にならないほどに穏やかだ。
この人もこの7年で、随分と変わったと思う。
「何か飲むかい? 食べたいものがあればそれも頼めばいい。私が払おう、遠慮はいらない」
「え? いやいいよ、俺だってこんぐらいは」
「ここで君に払わせたら、我が姫宮グループの名が廃るよ」
「ははっ、姫宮グループのレベル低いなー……じゃ、遠慮なくオゴられちゃうかな」
「そうしてくれ」
「おっ、ホンモノっぽいメロンクリームソーダある。すげえ、なんか純喫茶って感じだな」
「君が飲んできたものはニセモノだったのかい? じゃあまずはそれにしようか」
くすくすと笑う義隆がメロンクリームソーダとコーヒーを頼むと、まずはテーブルにお冷やが置かれた。カラン、と穴のあいた氷が動く。
走ってきて体がかなり汗ばんでいたので、ごくごくと一気飲みしてしまった。
やっぱり夏は、クーラーでガンガンに冷えた室内と、冷たい水に限る。
「はぁあ、生き返るぅ」
「いい飲みっぷりだ。今日も暑いな、いよいよ夏も本格的になってきた」
「うん、夏だね」
姫宮との関係が始まった夏。
あついよ 橘。
夏祭りの夜、そう囁いてきた男がこんなにも遠い。
「透愛くん」
「ん?」
「ここのところずっと 樹李を避けているようだな」
肩を竦めて、苦笑する。
「いきなり本題? なんだよあいつー、父親に愚痴ったんか?」
「違うな、私が気付いたんだ。最近仕事を任せ始めているんだが、 かなり調子がよくない」
「そう? 相変わらず、完璧な笑みだったけど」
痩せているように見えたのは、仕事が忙しかったからだろう。
「煙草の本数が多いんだ」
「たばこ……」
「そう。もうバレても構わないとでも思っているのか、自棄になっているのか……吸いまくっていてね。イライラしている」
やっぱり家でガンガン吸ってんのか、あいつ。
「樹李の不調は、君以外に理由が見つからないからな」
「……買いかぶり過ぎだって」
きっぱりとした口調に、首を振る。
「そうかな。樹李の中心はいつだって君だよ。あれが素の自分を見せるのは透愛くんだけだ」
それは、罪悪感という名の中心だ。
「あいつが俺の前で猫被んねぇのは、わざわざ取り繕う必要がないからだって。ま、お互いにヤバい部分も曝け出してんだ。もう隠しようもねぇしな」
「そうかな。私には樹李も君も、一番大事な部分を隠しているように見えるんだがね」
温かなおしぼりで手を拭き、目線を下げる。
「そんなこと、ねぇって」
義隆は定期的に、こうして俺と姫宮の仲を取り持とうとしてくる。籍を入れた者同士いつまでも離れているのもよくないだろうと、卒業後の同棲を進めてきたのも義隆だ。
お義父さんと呼んで欲しいなんて言われたのも、記憶に新しい。
本当に、昔じゃ考えられなかった話だ。
「……義隆さんが思ってるほど、あいつの意識は俺に向いてないよ」
「そうかな」
「そうだって」
お待たせしましたと、ことんとテーブルに置かれた長ひょろいメロンクリームソーダ。
さっそくストローでちゅっと吸えば、バニラと混ざったまろやかな甘さが舌に広がった。美味しい。
姫宮の舌に溶かされた、夏の味に似ていた。
「なぁ透愛くん、今日私と会うことを、透貴さんには話したのかい?」
「ナイショ、メールも消した」
「そうか、有難い…… ただでさえ透愛くんに連絡したことも内緒なんだ。バレたら、数か月は口を利いてもらえないだろうからね」
透貴の話題が出た瞬間、愛おしそうに細くなった義隆の目尻。
透貴は隠そうとしているみたいだけど、俺はもうなんとなく察しが付いてる。
(無意識だろうけど、感情が昂ると義隆さんのこと呼び捨てにしてるもんなァ)
そんで俺が察してることを、 義隆も気付いてる。
夏祭りの次の日、兄が出張から帰ってきた。
湿布が貼られた俺の足を見て目を丸くしていた。かくかくしかじか事情を伝え、姫宮も夏祭りに来ていたこと、送迎を呼んで家まで送ってくれたこと。
透貴の浴衣を汚してしまったことも、正直に白状した。
もちろん、見知らぬ男たちに犯されそうになった部分は省いたけれど。
『……そうですか』
兄はそう頷いたっきり、その話題を出さなくなった。
何故黙っていたのかと、詰め寄られることもなかった。
もしかしたら兄は、姫宮が来ることを全て知っていたのかもしれない。
あの夜、俺が待ちきれないとばかりにそわそわしていたから。
あの日から、透貴とも少しギクシャクしている。
いろいろとままならないことが多くて、少し疲れた。
10
【代表作】(BL)
・完結
「トイの青空」
・連載中
「月に泣く」
・番外編連載中
「ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。」
更新情報&登場人物等の小話・未投稿作品(番外編など)情報はtwitter記載のプロフカードにて。
宝楓カチカ(twitter)
・完結
「トイの青空」
・連載中
「月に泣く」
・番外編連載中
「ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。」
更新情報&登場人物等の小話・未投稿作品(番外編など)情報はtwitter記載のプロフカードにて。
宝楓カチカ(twitter)
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