夏の嵐

宝楓カチカ🌹

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お節介な奴ら

04.

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「ぶっちゃけ俺らとは違うくね? アニメもほとんど見たことないっつってたしさ。初めて橘に声かけられた時、俺からかわれてんのかと思ったもん。今時罰ゲームかよって」

 けれども橘は、そんな相手とも物怖じせずに会話ができる。
 ごく自然に、気負うこともなく、普通に関われるのだ。
 橘は決してガタイがいいわけではないが、どちらかというと、雰囲気的にはあちら側の人間だ。 
 だから瀬戸の言い分はわかる。

「まぁ確かに、あれは生粋の陽キャだわな」
「だ、だよな! なのにあいつ友達ほとんどいなかったとか言ってんだぜ? 中学も高校も結構休んでたって……変だよ、なんか……バランスが悪いっつーかさ」

 バランスが悪い、ね。なるほどしっくりきた。

「言いえて妙じゃん、瀬戸にしては」
「一言余計だっつの。それにあいつ……隠し事だって多いしさ」

 確かに橘は秘密主義だ。
 一日に100回くらいは笑うくせに、時折ふっと、その明るい前髪に暗い影が落ちる。憂いを含んだ目でじっと自分の手の甲を見つめながら、何かを押し隠しそうとしている。
 笑うと犬みたいに目尻にシワができるのが普段なだけに、そういう時の橘は少々近寄りがたい。
 近寄れば近寄ろうとするほど、橘は無理に笑ってしまうから。
 だから、そういう時の橘はスルーする。
 それはここにいる全員の総意だ。

「肝心なことはなんも言ってくれないし……そりゃまだ出会って半年も経ってないけど」

 瀬戸の不満だって、橘への不信感から来ているわけじゃない。寂しいのだ。
 橘のことが友達として大切だから。これも全員の総意だ。
 なにしろ瀬戸は、橘に同性として憧れを抱いている節がある。特に橘は、瀬戸にとって理想の男性像なのだ。
 高校時代にクラスで1人はいただろう、いわゆる陰キャ相手にも気さくに話しかけてくれるような奴が。
 そこそこ背丈があってイケメンで、おしゃれで、女子にもモテて、明るい男子。
 だから瀬戸は、橘の私物を好んで真似をする。
 メンズ香水なんてつけたことなかっただろうに、橘が使用しているものと同じものをわざわざ購入して、時々つけている。たまに、橘が着ていた服の色違いを買ったりもする。
 まさに、大学デビューそのものだ。
 でも綾瀬からしてみれば、友人にそんなことをされたら「え? キモ」なんてドン引きしてしまうけれど、橘は嫌がらない。
 むしろ嬉しそうに、「大学終わったら一緒に買いに行くか? いい店知ってんだ」なんて瀬戸を誘う。
 どうやらあいつも、友達との「おそろい」というのに若干憧れを抱いているようだ。
 ……流石にこの前の「姫宮ブン殴り冤罪事件」の時はブチ切れて、瀬戸のお願いを蹴っていたけれども。

「でもなぁ、瀬戸。友達だからって全部話せるわけじゃないと思うぞ?」

 風間が、静かに参考書を閉じた。

「橘さ、さっき俺たちのこと『親友』だって紹介してくれただろ?」
「うん」
「きっとそれが本音だよ。普通、そういうのって言わないだろ?」
「うん……」
「でも橘はそうじゃないだろ? ずっと俺らとつるんでるってことは、俺らといるのが心地良いからだよ」

 そうだ。橘は些細なことですら喜んで、屈託なく笑う。
 ただみんなで飯を食っているだけなのに、ただ遊んでいるだけなのに、子どもみたいに、あどけなく見える八重歯を晒して。
 前にみんなでボーリング行った時は、ボールに触れるのも初めてだったらしく(大学1年でマジかってそれにも驚いたけれど)、ガーターを連発していて、「ごめん」なんて半泣きになってへこんでいた。
 こんなことぐらいで意気消沈するか? なんて思ったけれど、「点数とれねーし、みんなに迷惑かけてるし」とか本気で項垂れていて、ついつい炭酸ジュースを奢ってしまった。
 橘は「さんきゅー!」なんて目を輝かせて喜んでいた。
 繊細……というよりは、純粋なのだと思う。
 橘は、見た目に似合わずまっさらだ。
 少々こっぱずかしいことでさえ、素面で、臆面もなく言ってしまえる。「親友なんだ」だなんて、照れもなく他人に紹介されたのは初めてだ。
 あれは言われた方もかなり困惑してしまっただろう。みるからに「は?」みたいな顔をしていたし。
 橘は少し──かわった男だ。
 変な奴ではない。嫌な奴でもない。ノリが悪いわけでもない。ただ、かわっている。
 そう、何かが俺たちとは違う。でもその何かは、わからない。
 
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