74 / 227
お節介な奴ら
02.
しおりを挟む「いい」
「は?」
「だから、俺は別にいいって」
「なーに言ってんだよ、こん中で一番ヤバかったのお前じゃん。遠慮しないで教えてもらえって! 学校一の秀才様だぞ姫宮は!」
「はは、そんなことないよ」
そんなことがあるのはわかっている。でも、関わりたくない。
後期試験が近いので勉強が忙しい。
それに元々ここはマンモス大学というやつだし、姫宮とそこまで授業も被らない。席も遠いし、お互いつるんでいる面子が違うので話すこともない。
そんな理由で、あの夏祭り以降、姫宮を避けることは容易かった。
今のようにキャンパス内で取り巻きに囲まれた彼とすれ違うことはあるけれども、向けられる視線は全て素知らぬふりを通すことを徹底していた。
なので、こうして面と向かって顔を合わせるのは数週間ぶりだ。
ちらりと伺うと、久しぶりに姫宮と目があった。
あれ、と内心驚く。少し痩せたように見える。遠目にはわからなかったものの、肩のあたりが細くなっているような気がした。
あとただでさえ白いというのにいつも以上に青白い。
しばらくまともに顔を見なかったので、俺が勘違いしているだけかもしれないが。
「橘くんは、どこがわからないの?」
姫宮は張り付けた微笑みをさらに深くして、俺の肘の近くに手を置いて手元を覗き込んできた。
さらりと姫宮の柔らかな黒髪が額に触れ、煙草の匂いが鼻をすっと通った。
これは、姫宮が愛用しているメーカーの煙草だ。俺が嗅ぎ間違えるはずがない。
柔らかな甘さと、清涼感のあるミントの香りが特徴的なのだ。
珍しいな、普段は吸ってることがバレないよう、こいつもかなり気を付けているのに。
とはいっても、しっかり嗅ごうとしなければ気が付かないぐらいの薄さだが。
ふと、姫宮の肩越しに、アッシュブラウン色のくるくると巻きの入った髪型が見えた。
口元には笑みが浮かんでいるが、俺を見つめる目は冷たい。
午前の講義の合間、中庭で話を盗み聞きした美月とかいう女子がそこにいた。
「い……いいってば──近づくな!」
考える前に、顔を寄せてきた姫宮の肩をつい押しのけてしまった。つい力が入り、姫宮が後ろに少しよろめく。
しんと、静寂が広がる。
冷や汗が垂れる。思い切り拒否ってしまった。
「ちょっと橘、アンタまた!」
「──いいんだよ、僕が急に顔を覗き込んじゃったから」
いきり立った一人の女子が前に出てこようとしたのを、姫宮が制した。
「ごめんね、橘くん。驚かせちゃって」
どこまでも柔らかな声。作り物めいた申し訳なさそうな声の裏に、本当の切なさが混じっているかのように聞こえて、姫宮に視線を戻す。
そして戻さなきゃよかったと後悔した。
「ねぇ姫宮くん、そろそろ行こう? 橘くんにとっては私たち、お邪魔みたいだし」
「ああ……うん。そうだね」
美月が、するりと姫宮の腕に手を絡めたのだ。
「橘くん、コーヒー冷めてしまうから飲んだ方がいいよ……ああこれ、取ってきたんだけどいらないからあげるよ。もったいないから是非使って。ね?」
テーブルに置かれたのは、袋に入ったグラニュー糖。
「じゃあ僕行くから、騒がしくしちゃって本当にごめんね」
とってつけられたような憐みなんて、惨めなだけだ。
姫宮は彼女の手を振り払うでもなく、女子たちを両脇に携えて食堂へと向かっていった。
感じ悪。
と、俺に向かって小さく吐き捨てたのは、どの子だったのか。
*
「う~っ、今日も美月ちゃん可愛かったな」
手を振る瀬戸に、大学一のお姫様は見向きもしなかった。
気付いているだろうに、完全にシカトしている。
「使えないって」
「うぅ、それでも夢はみたい……あの優しいLIMEを胸に生きていく……」
「重……で? 今のなに」
スマホから目を離さない綾瀬に、ぽつりと問われた。
ジャズがふわっと流れるカフェ内で、3人分の視線をじっと注がれた。
「今の、は……」
わかってる。今回ばかりはへらりと笑って誤魔化せない。あまりにも突発的すぎた。
「あのな、おまえ露骨すぎ~、なんだよ、この前リムジンで送ってってもらったんだろ?」
「仲良くなったと思ってたんだけどなぁ。こう、吊り橋効果的なやつで」
「……姫宮のことそんなに嫌いなわけ。おまえ」
「俺、は」
姫宮を、どう思っているんだろう。
そういえば、ちゃんと考えたことなかったな。
8
お気に入りに追加
1,317
あなたにおすすめの小説
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
目が覚めたらαのアイドルだった
アシタカ
BL
高校教師だった。
三十路も半ば、彼女はいなかったが平凡で良い人生を送っていた。
ある真夏の日、倒れてから俺の人生は平凡なんかじゃなくなった__
オメガバースの世界?!
俺がアイドル?!
しかもメンバーからめちゃくちゃ構われるんだけど、
俺ら全員αだよな?!
「大好きだよ♡」
「お前のコーディネートは、俺が一生してやるよ。」
「ずっと俺が守ってあげるよ。リーダーだもん。」
____
(※以下の内容は本編に関係あったりなかったり)
____
ドラマCD化もされた今話題のBL漫画!
『トップアイドル目指してます!』
主人公の成宮麟太郎(β)が所属するグループ"SCREAM(スクリーム)"。
そんな俺らの(社長が勝手に決めた)ライバルは、"2人組"のトップアイドルユニット"Opera(オペラ)"。
持ち前のポジティブで乗り切る麟太郎の前に、そんなトップアイドルの1人がレギュラーを務める番組に出させてもらい……?
「面白いね。本当にトップアイドルになれると思ってるの?」
憧れのトップアイドルからの厳しい言葉と現実……
だけどたまに優しくて?
「そんなに危なっかしくて…怪我でもしたらどうする。全く、ほっとけないな…」
先輩、その笑顔を俺に見せていいんですか?!
____
『続!トップアイドル目指してます!』
憧れの人との仲が深まり、最近仕事も増えてきた!
言葉にはしてないけど、俺たち恋人ってことなのかな?
なんて幸せ真っ只中!暗雲が立ち込める?!
「何で何で何で???何でお前らは笑ってられるの?あいつのこと忘れて?過去の話にして終わりってか?ふざけんじゃねぇぞ!!!こんなβなんかとつるんでるから!!」
誰?!え?先輩のグループの元メンバー?
いやいやいや変わり過ぎでしょ!!
ーーーーーーーーーー
亀更新中、頑張ります。
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが
咲
BL
俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。
ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。
「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」
モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?
重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。
※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。
※第三者×兄(弟)描写があります。
※ヤンデレの闇属性でビッチです。
※兄の方が優位です。
※男性向けの表現を含みます。
※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。
お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる