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狼の群れ
09.
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姫宮に手を汚してほしくなかった。こんな奴らのために。
「僕の手が汚れる? はは、なにそれ今更じゃない? 僕はもともとこういう人間だもの。それは君が一番よく知っているはずだろう」
「違う……違うってことは、俺が一番よく知ってる」
確かにこいつの根本的な性格自体は、かなり、いやとてつもなく悪いとは思うけれど。
嬉々として彼らをいたぶっているようにも見えるけど。
でも姫宮はそれだけじゃない。それだけではないのだ。
それを俺は知っている──きっと、誰よりも。
だって姫宮はこの7年間ずっと、俺に優しく触れてくれていたのだから。
彼が内心で、俺をどう思っていても。
「ここでやめたら彼らは同じことを繰り返すよ」
「そうかもな……でも、そいつらに怒る権利があるのは俺だ。そいつらをぶっ飛ばしていいのも、俺だ。俺がするべきことだ」
しっかりと首を振る。
「おまえじゃない。だからやめろ」
姫宮は少し考え込んでいるようだった。
「……助けられたね、蔑んでやまないΩに」
姫宮がぱっと北条の頭を解放した。
北条の身体が傾き、頭がゴッと鈍い音を立てて地面に落ちる。
もう顔を上げる気力もないらしい。
ただし、彼の急所から姫宮は足を外してはいない。
「みんな、高校3年生か。受験勉強でストレスがたまっちゃったのかな。気持ちはわかるよ、帝東大難しいもんね、君たちの学力じゃとっても……生徒会室でよく勉強を教えてあげたこともあったよね、懐かしいなぁ。でも憂さ晴らしはほどほどにしないとね。もう妙な遊びはしない方がいいよ。無事に何事もなく、大切なご家族にも迷惑をかけずに高校を卒業したければ」
姫宮の顔から表情の一切が消えた、ように見えた。
「家族そろってこの社会で生きていたければ大人しくしてろ──わかった?」
北条以外の男が、声もなく頷くのが見えた。
「あれ、声が聞こえないな。今みんなに言ったこと北条くんにもちゃんと伝わったかな」
北条は痛みのあまり、呻き声しか出せないようだ。
「伝わった?」
「……わ、た」
「聞こえないよ」
「……た、わり、ま……ぁ」
「聞こえない。伝わったかって聞いてるんだけど」
ぐり、と、姫宮が下駄を左右に捩じった。北条の腰が丸まる。
「つ──つたわりまし、た!」
「はいかいいえで答えろ」
理不尽すぎる命令に、北条が、「は、い!」とやけくそ気味に声を荒げた。姫宮は北条の陰茎からすっと足を離すと、汚らしいとばかりにごしごしと下駄を土で拭った。
そして姫宮は、腕を押さえ続けている男に近づくとすっと手を差し出した。
「早乙女くん、君のスマホ貸してくれる?」
「う、腕、が……」
「スマホ貸してくれる?」
「うで、が、痛いん、です、どっちも、折れて、る、あげられな、い……きゅ、救急車」
「スマホ貸してくれる?」
激痛を訴えても綺麗に無視され続けた早乙女が、ぶるぶる痙攣する腕でスマホを姫宮に差し出した。腕が、嫌な形になっている。
それを雑に受け取った姫宮はロックナンバーを聞き出すと、画面を開いて素早くタップした。
「動画は……よかった、まだ誰にも送ってないみたいだね」
『んじゃ、輪姦タイム始まりまーす。うぇーいちゅっちゅ』
例の音声が流れてくる。
早乙女に撮られた俺の動画だ。
「そういえば早乙女くん、その両腕はどうしたの?」
「え」
「誰に折られたの?」
おまえだよとは、ここにいる誰も言えない。
姫宮が、スマホを高速で操作しながら首を傾げた。
「今日のお祭りで調子に乗ってたら仲間内で喧嘩に発展して階段から転がり落ちたんだよね」
それは、有無を言わさぬ口調だった。
「僕の手が汚れる? はは、なにそれ今更じゃない? 僕はもともとこういう人間だもの。それは君が一番よく知っているはずだろう」
「違う……違うってことは、俺が一番よく知ってる」
確かにこいつの根本的な性格自体は、かなり、いやとてつもなく悪いとは思うけれど。
嬉々として彼らをいたぶっているようにも見えるけど。
でも姫宮はそれだけじゃない。それだけではないのだ。
それを俺は知っている──きっと、誰よりも。
だって姫宮はこの7年間ずっと、俺に優しく触れてくれていたのだから。
彼が内心で、俺をどう思っていても。
「ここでやめたら彼らは同じことを繰り返すよ」
「そうかもな……でも、そいつらに怒る権利があるのは俺だ。そいつらをぶっ飛ばしていいのも、俺だ。俺がするべきことだ」
しっかりと首を振る。
「おまえじゃない。だからやめろ」
姫宮は少し考え込んでいるようだった。
「……助けられたね、蔑んでやまないΩに」
姫宮がぱっと北条の頭を解放した。
北条の身体が傾き、頭がゴッと鈍い音を立てて地面に落ちる。
もう顔を上げる気力もないらしい。
ただし、彼の急所から姫宮は足を外してはいない。
「みんな、高校3年生か。受験勉強でストレスがたまっちゃったのかな。気持ちはわかるよ、帝東大難しいもんね、君たちの学力じゃとっても……生徒会室でよく勉強を教えてあげたこともあったよね、懐かしいなぁ。でも憂さ晴らしはほどほどにしないとね。もう妙な遊びはしない方がいいよ。無事に何事もなく、大切なご家族にも迷惑をかけずに高校を卒業したければ」
姫宮の顔から表情の一切が消えた、ように見えた。
「家族そろってこの社会で生きていたければ大人しくしてろ──わかった?」
北条以外の男が、声もなく頷くのが見えた。
「あれ、声が聞こえないな。今みんなに言ったこと北条くんにもちゃんと伝わったかな」
北条は痛みのあまり、呻き声しか出せないようだ。
「伝わった?」
「……わ、た」
「聞こえないよ」
「……た、わり、ま……ぁ」
「聞こえない。伝わったかって聞いてるんだけど」
ぐり、と、姫宮が下駄を左右に捩じった。北条の腰が丸まる。
「つ──つたわりまし、た!」
「はいかいいえで答えろ」
理不尽すぎる命令に、北条が、「は、い!」とやけくそ気味に声を荒げた。姫宮は北条の陰茎からすっと足を離すと、汚らしいとばかりにごしごしと下駄を土で拭った。
そして姫宮は、腕を押さえ続けている男に近づくとすっと手を差し出した。
「早乙女くん、君のスマホ貸してくれる?」
「う、腕、が……」
「スマホ貸してくれる?」
「うで、が、痛いん、です、どっちも、折れて、る、あげられな、い……きゅ、救急車」
「スマホ貸してくれる?」
激痛を訴えても綺麗に無視され続けた早乙女が、ぶるぶる痙攣する腕でスマホを姫宮に差し出した。腕が、嫌な形になっている。
それを雑に受け取った姫宮はロックナンバーを聞き出すと、画面を開いて素早くタップした。
「動画は……よかった、まだ誰にも送ってないみたいだね」
『んじゃ、輪姦タイム始まりまーす。うぇーいちゅっちゅ』
例の音声が流れてくる。
早乙女に撮られた俺の動画だ。
「そういえば早乙女くん、その両腕はどうしたの?」
「え」
「誰に折られたの?」
おまえだよとは、ここにいる誰も言えない。
姫宮が、スマホを高速で操作しながら首を傾げた。
「今日のお祭りで調子に乗ってたら仲間内で喧嘩に発展して階段から転がり落ちたんだよね」
それは、有無を言わさぬ口調だった。
6
【代表作】(BL)
・完結
「トイの青空」
・連載中
「月に泣く」
・番外編連載中
「ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。」
更新情報&登場人物等の小話・未投稿作品(番外編など)情報はtwitter記載のプロフカードにて。
宝楓カチカ(twitter)
・完結
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・連載中
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・番外編連載中
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