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俺たちの関係
08.
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「は?」
「え……え、ほ、ほんとに?」
「うん、もしもお邪魔じゃなかったら。あ、でもやっぱりダメ、かな? そうだよね、来栖さん以外の人、僕知らないし。迷惑かかっちゃうよね……」
申し訳なさそうに眉を下げた姫宮に、由奈がぶんぶんと手を振った。
「そんなことないよ、むしろ大歓迎だよ! あ、あのねっ、私の親友がね、ず~っと姫宮くんと話してみたいって言ってたの。実はその子も夏祭りに来るんだけどっ」
「へえ、来栖さんの親友かぁ。いいね……色々な話が聞けそうだ。是非会ってみたいなぁ」
「えーっ、本当に? ど、どうしよう、えっどうしよう!」
あれよあれよのうちに進んでいく話に慌てる。
「ちょ、ちょっと待てよ……おい由奈落ち着け、っおわ」
ぐいっと由奈に腕を引きよせられ、小声でボソボソと耳打ちされる。
「透愛、余計なこと言わないで!」
「いやダメだろ、これ抜けがけってやつだろ? バレたら姫宮の取り巻き共が発狂すんぞ」
「そんなことないよ。いいじゃない、一緒に遊んだら透愛も姫宮くんと仲良くなれるかもだよ?」
「いらねーよ、余計なことすんなってば!」
しかし、俺が置いてけぼりをくらっている間に、話はすっかりまとまってしまった。
「じゃあ後で待ち合わせ時間とか送るね。ちょっとみんなに伝えてくるから、透愛も早く来てよ!」
興奮冷めやらぬまま、猛ダッシュで駆けて行った小柄な背中を茫然と見送る。
やっぱりこういう時の女子は勢いが凄い、勝てる気がしない。
「元気な子だね、来栖さんって」
「お、まえ、マジでくんの……?」
いまだに半信半疑だ。これから由奈から話を聞いた全員がパニックを起こすに違いない。現に、俺も今まさにプチパニックだ。
「マジで行くよ」
いや、マジって。
「ど、どういう風の吹き回しだよ。そういうのいっつも断ってんじゃん……?」
しかも俺たちととか。
派手な見た目でキラキラしていて毎晩クラブに繰り出す男女に囲まれた姫宮陣営と、あくまで構内の長机の右側ちょい後ろぐらいの席でまとまって、それなりの人数でくっちゃべってる中間層(?)の俺らとは層が違う。
ちなみに、俺たちが集まってよく行く飲み屋は値段もリーズナブルなチェーン店か、こじんまりとした大衆食堂だ。
「……なに、行っちゃ悪いの?」
腕を組んだ男に冷ややかに見下ろされて、たじろぐ。
姫宮の口角がくっと吊り上がった。
「ああ、僕がいると色々とお邪魔かな。可愛い女の子たちと遊ぶチャンスだものね」
「ンなこと一言も言ってねぇだろ。おまえ夏祭りとか興味あったっけ?」
「まさか、欠片もないよ。人がごった煮返してるあんな不衛生極まりない場所、頼まれたって行くものか。あそこで散財してバカ騒ぎをする連中なんてたかが知れてるな」
あんまりな言いように開いた口が塞がらない。
「おまえなぁ……嫩山の花火ってそこそこ有名なんだぞ……」
「ふうん。空に上がってやかましく破裂するだけのものがそんなに楽しみ?」
「そりゃまぁ、普通に」
「僕はつまらないと思うけど」
「……じゃあ来なきゃいーじゃん。なんで」
「うるさい、僕に聞くな」
なんじゃそりゃ。
「……君は、なんでだと思うの」
「は?」
「なんでだと思う、なんで僕が行くと思う」
鋭く睨まれて、質問というより尋問されている気分になった。
こいつの眼力には今も昔も勝てる気がしない。
「……いや、知らないけど」
「そう、相変わらず頭の中お花畑だね。うらやましいよその能天気っぷりが」
「あ?」
なんじゃそりゃ、再び。
つーかなんで急に機嫌悪くなってんだよこいつ。昨日からやけに突っかかってくんな──いや待てよ?
もしかしてこいつが俺に腹を立ててる理由って……
「おまえ、もしかして……好きなのか?」
姫宮が、目を見開いて俺を見た。俺も姫宮を見る。お互いの視線が真剣に交わる、奇妙な緊張が走った。
そうだよ、こいつがペンを落とした時も、弁当がどうのって言ってた時も、夏祭りに行こうってこいつを誘ったのも全部全部そうだった。
しかもあの姫宮が、珍しいことにフルネームで名前を覚えている。
姫宮のセンサーがぴりっと張り詰めるのは、あいつの影がある時だけだ。
そうであれば全て納得がいく。
「由奈のこと、好きなのか……?」
俺と由奈と姫宮の、まさかの三角関係だったのか?
姫宮は由奈が好きで、でも由奈は俺にたぶん好意を持っていて、でも俺は姫宮と番でしかも結婚までしていて爛れた身体の関係があって……なんだこれ、昼ドラも真っ青の暗黒トライアングルじゃないか。
どうしようと青ざめかけた瞬間、思いっきり舌打ちされた。
目の前の不機嫌男に。
「──何故、僕が、一体どんな理由で、彼女を好きにならなければいけないんだ」
一言一言区切るように言われる。怒ってる。
「いや、だっておまえ」
「黙れ」
まだ何も言ってないのに。姫宮の額の血管が浮き出ていた。馬鹿を見るような目つきだ。ああ、この目久々だな、「不快です」を通り越して「心底忌々しいです」みたいな顔。
「本当に、君を見てると心底イライラするよ……あのまま孕ませてやればよかったな」
ぼそりと付け足されて俺の頭にも血が昇った。
こいつと、まともな会話をしようと思った俺が馬鹿だった。
会話のキャッチボールができない奴なんかに、時間を割いている暇はない。
「っ、そーかよ、イヤな気分にさせて悪かったな!」
こんな気まぐれ男になんか付き合ってられっか。
さっさと食堂に行ってしまおうと、姫宮の横を通り過ぎようとしたの、だが。
「え……え、ほ、ほんとに?」
「うん、もしもお邪魔じゃなかったら。あ、でもやっぱりダメ、かな? そうだよね、来栖さん以外の人、僕知らないし。迷惑かかっちゃうよね……」
申し訳なさそうに眉を下げた姫宮に、由奈がぶんぶんと手を振った。
「そんなことないよ、むしろ大歓迎だよ! あ、あのねっ、私の親友がね、ず~っと姫宮くんと話してみたいって言ってたの。実はその子も夏祭りに来るんだけどっ」
「へえ、来栖さんの親友かぁ。いいね……色々な話が聞けそうだ。是非会ってみたいなぁ」
「えーっ、本当に? ど、どうしよう、えっどうしよう!」
あれよあれよのうちに進んでいく話に慌てる。
「ちょ、ちょっと待てよ……おい由奈落ち着け、っおわ」
ぐいっと由奈に腕を引きよせられ、小声でボソボソと耳打ちされる。
「透愛、余計なこと言わないで!」
「いやダメだろ、これ抜けがけってやつだろ? バレたら姫宮の取り巻き共が発狂すんぞ」
「そんなことないよ。いいじゃない、一緒に遊んだら透愛も姫宮くんと仲良くなれるかもだよ?」
「いらねーよ、余計なことすんなってば!」
しかし、俺が置いてけぼりをくらっている間に、話はすっかりまとまってしまった。
「じゃあ後で待ち合わせ時間とか送るね。ちょっとみんなに伝えてくるから、透愛も早く来てよ!」
興奮冷めやらぬまま、猛ダッシュで駆けて行った小柄な背中を茫然と見送る。
やっぱりこういう時の女子は勢いが凄い、勝てる気がしない。
「元気な子だね、来栖さんって」
「お、まえ、マジでくんの……?」
いまだに半信半疑だ。これから由奈から話を聞いた全員がパニックを起こすに違いない。現に、俺も今まさにプチパニックだ。
「マジで行くよ」
いや、マジって。
「ど、どういう風の吹き回しだよ。そういうのいっつも断ってんじゃん……?」
しかも俺たちととか。
派手な見た目でキラキラしていて毎晩クラブに繰り出す男女に囲まれた姫宮陣営と、あくまで構内の長机の右側ちょい後ろぐらいの席でまとまって、それなりの人数でくっちゃべってる中間層(?)の俺らとは層が違う。
ちなみに、俺たちが集まってよく行く飲み屋は値段もリーズナブルなチェーン店か、こじんまりとした大衆食堂だ。
「……なに、行っちゃ悪いの?」
腕を組んだ男に冷ややかに見下ろされて、たじろぐ。
姫宮の口角がくっと吊り上がった。
「ああ、僕がいると色々とお邪魔かな。可愛い女の子たちと遊ぶチャンスだものね」
「ンなこと一言も言ってねぇだろ。おまえ夏祭りとか興味あったっけ?」
「まさか、欠片もないよ。人がごった煮返してるあんな不衛生極まりない場所、頼まれたって行くものか。あそこで散財してバカ騒ぎをする連中なんてたかが知れてるな」
あんまりな言いように開いた口が塞がらない。
「おまえなぁ……嫩山の花火ってそこそこ有名なんだぞ……」
「ふうん。空に上がってやかましく破裂するだけのものがそんなに楽しみ?」
「そりゃまぁ、普通に」
「僕はつまらないと思うけど」
「……じゃあ来なきゃいーじゃん。なんで」
「うるさい、僕に聞くな」
なんじゃそりゃ。
「……君は、なんでだと思うの」
「は?」
「なんでだと思う、なんで僕が行くと思う」
鋭く睨まれて、質問というより尋問されている気分になった。
こいつの眼力には今も昔も勝てる気がしない。
「……いや、知らないけど」
「そう、相変わらず頭の中お花畑だね。うらやましいよその能天気っぷりが」
「あ?」
なんじゃそりゃ、再び。
つーかなんで急に機嫌悪くなってんだよこいつ。昨日からやけに突っかかってくんな──いや待てよ?
もしかしてこいつが俺に腹を立ててる理由って……
「おまえ、もしかして……好きなのか?」
姫宮が、目を見開いて俺を見た。俺も姫宮を見る。お互いの視線が真剣に交わる、奇妙な緊張が走った。
そうだよ、こいつがペンを落とした時も、弁当がどうのって言ってた時も、夏祭りに行こうってこいつを誘ったのも全部全部そうだった。
しかもあの姫宮が、珍しいことにフルネームで名前を覚えている。
姫宮のセンサーがぴりっと張り詰めるのは、あいつの影がある時だけだ。
そうであれば全て納得がいく。
「由奈のこと、好きなのか……?」
俺と由奈と姫宮の、まさかの三角関係だったのか?
姫宮は由奈が好きで、でも由奈は俺にたぶん好意を持っていて、でも俺は姫宮と番でしかも結婚までしていて爛れた身体の関係があって……なんだこれ、昼ドラも真っ青の暗黒トライアングルじゃないか。
どうしようと青ざめかけた瞬間、思いっきり舌打ちされた。
目の前の不機嫌男に。
「──何故、僕が、一体どんな理由で、彼女を好きにならなければいけないんだ」
一言一言区切るように言われる。怒ってる。
「いや、だっておまえ」
「黙れ」
まだ何も言ってないのに。姫宮の額の血管が浮き出ていた。馬鹿を見るような目つきだ。ああ、この目久々だな、「不快です」を通り越して「心底忌々しいです」みたいな顔。
「本当に、君を見てると心底イライラするよ……あのまま孕ませてやればよかったな」
ぼそりと付け足されて俺の頭にも血が昇った。
こいつと、まともな会話をしようと思った俺が馬鹿だった。
会話のキャッチボールができない奴なんかに、時間を割いている暇はない。
「っ、そーかよ、イヤな気分にさせて悪かったな!」
こんな気まぐれ男になんか付き合ってられっか。
さっさと食堂に行ってしまおうと、姫宮の横を通り過ぎようとしたの、だが。
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