夏の嵐

宝楓カチカ🌹

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キレイな人

14.

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 胸の奥が寒い。
 ぽっかりと開いた穴に、風が吹きすさぶ。


 *


 ネオンの明かりの下で、髪を掻きむしりながら歩く。

「姫宮、待てっ……待てって!」

 橘はああ見えて足がとても速いので、すぐに追いつかれてしまったけれど。
 ぐんっと後ろから肩を引かれ、足を止める。腕に力が入らなくてだらりと垂れた。

「おまえ、なんであんな態度取ったんだよ! 得意の猫っかぶりはどーした、もしあいつらが今日のこと誰かにしゃべったら……ッ」

 どうして追いかけてくるんだ。どうして僕の今後のことばかり気にするんだ。僕は君に、あんなに酷いことを言ったのに。
 でもそれが……橘か。

「一生童貞なのが辛いの?」
「……は?」
「人生終わったも同然、か。じゃあ代わりに、僕が君に足を開けばいいのかな」
「な……に、言ってんだ?」
「構わないよ、別に。いくらでも抱かれてあげるよ、これも番の義務だからね。それで君の気が済むのなら。今すぐホテルにもでしけこもうか?」

 もしも橘が女を抱いてみたいというのなら、いっそのこと僕を抱かせてあげればいいのかと、血迷った。
 僕らは番だ。きっと橘も身体的苦痛を伴うことなく僕を組み敷ける。橘を誰かに奪われるくらいだったら、僕はこの身体を使ってでも阻止してみせる。
 そう、思っていたのに。

「俺は、おまえを抱きたいと思ったことなんて、一度もねぇよ……」

 ふるふると首を振られた。しかもずいぶんと引き攣った顔で。
 想像もしたくないのだろう、気持ち悪くて。
 まぁでもそうだろうな、彼が抱きたいのは僕のような男じゃなくてあの女だ。僕は常に橘を抱き潰してしまいたいけれど、別にいいのに。
 君が望むのならば、僕はなんだってできるのに。
 この身体だって、いくらでも差し出せるのに。
 でも君はそんな僕を拒む。じゃあ一体どうすれば君は僕を見てくれるんだ。後がなくて足掻く僕は、そんなにも哀れか、愉快か。

 橘の手を拘束して、壁に叩きつける。

「いッ、て……ぇ」
「そう。君は本当にみだりがましいΩだね。そんなに可愛い女の子に突っ込んで腰を振りたいの? 散々僕に突っ込まれて喘いでるくせに」
「く……」
「ねぇ、みだりがましいってわかる? 性的に慎みがなく品が無いって意味だよ。僕はね、7年前にそれを知ったんだ。他でもない君の体でね」

 ここで、人が行き交うこの場所で裸に剥いてやろうかと本気で考える。

「──君は苦しそうだった……痛いと、泣き叫んでいた。それなのに、最後は僕の腰に足を絡めて、僕の動きに合わせて腰を揺らしていた。とっても気持ちよさそうにね……いっぱい殴ったから、ほっぺも真っ赤に腫れちゃったね。何回殴ったんだっけ、覚えてないなぁ。だって君がイラつくぐらい抵抗するから。僕だって無我夢中だったんだよ?」
「姫、宮」
「縄跳びで縛った手首も擦り切れて血まみれで、体中に噛み付いたから至る所に僕の歯型がびっしりついて、グロテスクで」
「ひ、めみや、いたい」
「ああ、首の後ろが一番酷かったかなぁ、血も滲んで、君は暫く上を向いて眠れなかった。包帯すら、外せなかった」
「……っ」

 するりと、橘の臀部に手を回し、ぐいっとわし掴みにする。柔らかくて小ぶりで、僕の手のひらにちょうどよく収まった。
 まるで僕に触られるためだけに、存在している部位みたいだ。

「特に酷かったのは肛門と子宮だったね。覚えてる?」
「……やめろ」
「無理矢理押し込んだ君の中は、たまらなくあたたかかった。柔らかくて、しっとりと濡れていて、どこまでも吸い付いてくるようで、ずっと入っていたくて……」
「ッ……や」
「あんまりにも良かったものだから、切れても止められなかった。括約筋も随分ゆるんじゃったね。君のナカの子宮は、突きあげすぎたせいで少し下がった。しまらなくて垂れ流してしまうから、君は暫くおむつを履いて生活するしかなかった」
「やめろ、姫宮……やめろ」
「乳首だって、一晩で変色しちゃったね。可愛い苺ミルク色だったのに、茶色くなった。僕が噛みついて、舐めしゃぶって、強く吸い続けたから……ね」

 恐ろしい記憶を、かつて橘の身体に植え付けた甘美な熱とともに辿る。
 尻の割れ目をゆったりと撫で、下着越しに窪みに指を押し込んだ。橘の身体がビクンと恐怖に震えるが、構わず手を前にもってきて今度は服越しの胸先へ。

「あの部屋は暑くて熱くて、君は途中で脱水症状を起こした」

 震える上唇をめくり、八重歯を親指と人差し指で掴んで、血の気のある歯茎が見えるまで上に押し上げた。

「っ……ァ」
「君が、水が飲みたい、飲ませてって泣いて懇願するものだから、僕がちゃんと飲ませてあげたよね。この小さな口に、口移しで。君が持っていた水筒のお茶と、あとは……ねぇ、これは覚えてる?」

 眼球が零れんばかりに大きく目を見開いた橘に、ほくそ笑む。

「覚えてるよね。口を大きく開けて、喉の奥いっぱいまで頬張って、必死に飲んでいたものね」
「……め、みや」

 唇を近づけ、ふうと吐息ごと囁いてやる。
 この口に、いろいろなものを飲ませた。特に僕の体液は、全て。

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