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お節介な奴ら
01.
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「ねぇ、姫宮くんって美月のこと好きじゃない?」
「あー、それちょっと思ってた」
「え、え? そ、そう、かなぁ……」
聞き覚えのある声に足を止める。木陰のベンチに座ってアイスを食べている女子が数人。
木の裏側にいるので、俺の存在には気付かれてはいない。
「そうだよ。だってほら、橘に直談判しに行った時、頭ポンされてたのアンタだけだしね」
「あ~あの勘違い金髪野郎、最近姫宮くんに絡んでこなくて大人しいよね」
「うちらにびびったんじゃない?」
「ふふ、そうかも」
ああ、あの時の一団か。
美月と呼ばれた子の顔も把握した。
ふわふわした口調で、俺を「こいつ」呼ばわりしかけた子だ。
っていうか、美月? 聞いたことある名前だなと考え込んで、すぐに思い当った。
確か瀬戸がデートに行きたいとか騒いでいた子だ。
そして俺が姫宮を殴ったとかいう瀬戸の憶測の軽口を信じ、根も葉もない……いや、根ぐらいはあったかもしれないが、そういう噂を周囲に広めた子。
大学で姫宮の次に人気だとかなんとか。
あまり関心はなかったけれど、覗き見てみると本当に可愛い。アイドルみたいだ。
でもエベレスト並みにプライドの高い姫宮が、この手のタイプに好意を持つとは思えないんだけど──いや、俺は姫宮のことを何も知らない。
ましてやあいつのタイプなんて、知る由もない。
「えっとね、実は話そうか迷ってたんだけど」
「なになに?」
「少し前にね、姫宮くんにちょっと……相談? みたいなことされて」
「ええ!? どんな」
「姫宮くん、最近ため息吐いて悩んでるみたいだったから、お話し聞くよ? って言ったらね」
「うんうん」
「『美月ちゃんは、髪の長い男性ってどう思う?』って聞かれたの。素敵だよ、姫宮くんなら似合うよって伝えたら、『美月ちゃんがそう言うのなら、伸ばしてみようかな』って笑ってくれて……」
「えーすっご! ぜんぜん脈アリじゃん!」
「いいなぁ、大学一の王子様と大学一のお姫様かぁ、お似合い~」
ポケットに手を突っ込む。
──これ以上は、聞かなくていいや。
きゃっきゃと喜ぶ彼女たちからそっと離れる。
美月ちゃん、か。見覚えがない、名前なんて知らないって嘯いていたのに。
俺に気を使ったのか、それとも俺に探りを入れられないために嘘をついたのか。
あの姫宮が、ちゃんと彼女の名前を覚えているということは、つまりそういうことなのだろう。
なんだ、そっか。
由奈でも捺実でもなければ、残るは、大学一の可愛い女の子か。
なんだよ。
「両想いじゃん」
*
午後の講義まで数コマ空くので、食堂に隣接するカフェでダラダラと勉強をしていた時、姫宮(とその取り巻きの女子数名)が前を通った。
「やぁ、みんなこんにちは。何をしてるの?」
あの夏祭りの一件以来、なにかと姫宮に声をかけるようになった瀬戸が、先陣を切る。
「よ~姫宮! 必死こいてべんきょー中」
それとなく奴の視界に入らないように頭を下げ、クーラーがガンガンに効きまくったカフェで適当に注文した雑味の多いホットコーヒーをちびちび啜る。
今の俺の存在が、姫宮にとってのその辺の空気になりますようにと祈る。
「俺ら下の下だからさ~、風間さん以外」
「いや俺は中の上だわ」
綾瀬がスパッと突っ込んだ。
俺は瀬戸の言う通り下の下のさらに下なので、何も言わなくて済んだ。
「ここで止まっちゃってるの?」
「そうそう」
するとニコリと笑った姫宮が、さらっと解き方を教えてくれた。
白くて長い指が、するすると流れるような文字をプリントに書きだしていく。
「なるほど、そういうことかぁ」
「おおっ姫宮おまえ天才だな! すっげーわかりやすい」
「いえいえ、どういたしまして。よかったら他の問題も解説しようか?」
「マジで教えてくれんの!?」
「うん、マジだよ」
「助かる~」
姫宮がぺたりと張り付いてきている取り巻き数名を振り向いた。
「みんなごめんね、ちょっと先に行っててくれる?」
「いいよ、ここで待ってるから。ね?」
「うん、ゆっくりお話しして?」
4、5人いるが、誰一人としてその場を離れようとしない。
うえ、と思った。こいつらどんだけ姫宮のこと好きなんだ。瀬戸は、可愛い女の子が近くにいるという事実が嬉しいのか、姫宮に負けず劣らずニッコニコしているが。
「なぁ、そこでコーヒー啜ってる橘にも教えてやってくんね?」
──なぜそこで、俺に話を振る。
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