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落ちた花火
08.
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「ここに座れ」
「え……ここどこ? 暗」
「廃神社だ」
「は、はいじんじゃぁ? ヤべえじゃん幽霊でるって」
「君、今年でいくつ?」
「なんだよ、18歳は幽霊を信じちゃいけねぇってのか」
「そうは言っていないけど、幼いね」
「言ってんじゃねーか」
背負われたまま連れていかれたのは、坂道を少し登ったところだった。
鬱蒼と茂る林の中、短い階段の奥に、ぼんやりと横に広がる建物のようなものが見えた。開け放たれた格子戸の中には、茶黒い板がひっそりと敷き詰められていた。
使われなくなったお堂だと知った途端、薄ら寒さを感じた。
今腰かけている部分は、もしかして賽銭箱が置かれていた場所だろうか。
「なぁ、ダメだろ不法侵入だって。かえろ?」
「問題ない。ここの神主と家は知り合いだ。もしも見つかったとしても何も言われないよ」
そうだった。こいついい所のお坊ちゃんだった。
「……この金持ちめ」
「なんとでも言え、それにここは穴場だ」
「穴場?」
「ああ。花火がよく見える」
はなび。すっかり失念していた単語にきょとんとしていると、姫宮が俺の前に跪いた。
「手当をする、足を見せろ」
「あ、うん……さんきゅ」
下駄を脱がされ、姫宮の腿に足を乗っける形でじっくりと足首を検分される。
マチのある巾着から取り出されたのは、冷感湿布や包帯。
小さな消毒液と絆創膏しか持っていなかった俺とは大違いだ。
俺も、自分の巾着を置く。随分と振り回してしまったので、くたびれてしまった。
「用意、いいな」
「注意力散漫などこかの誰かが怪我をすると思ってね」
「その誰かって俺のことか?」
「自覚があるようでよかったよ。今回ばかりは身に染みるといいね」
相変わらずの嫌味を交えながらも、姫宮はてきぱきと手当を施してくれた。
今の姫宮は、俺に恭しく傅く王子さまみたいだった。昔は、お姫さまみたいな容姿だったのに。
なんだか居心地が悪くてもぞもぞしてしまう。
王子さま、か。さっきは俺も、王子さまみたいだって言われたな──そうだ、由奈。
ここに来る途中で、彼女から連絡が来た。
『今日は助けてくれてありがとう。あとさっきは急にごめんね、でも考えてほしいの』
と、それだけ。
(考えるって、なんだろ)
俺は考えていないのだろうか。
じゃあ考えたその先に、一体何が待ち受けてるんだろう。
由奈は俺の背中が、あったかかったと言っていた。それは、姫宮の背中と同じくらい?
由奈も俺の背中に乗った時、胸がとくとくと脈打ったのだろうか。
姫宮の背に揺られていた時の俺と、同じように。
「……誰のこと、考えてるの」
「え?」
「今、誰のこと、考えてたの」
「だれ、って」
答えられない。
由奈のことを考えていたんだろうか、俺は。
これ以上深みにはまると良くない思考回路に陥ってしまいそうで、ふるりと首を振る。
「別に、なんでもねぇよ」
「来栖さんのこと?」
ドキっとした、いろんな意味で。
「なんで……つか、また由奈かよ」
「だって今日は随分と楽しんでたみたいだったから、彼女と」
「それはおまえだろ……捺実といい感じだったじゃん」
姫宮の眉間に、シワが寄った。
「捺実ってどれ」
「由奈の、親友だよ」
「ああ、あれね。別にどうでも」
捺実を「あれ」呼ばわりする姫宮に、ぱちくりと瞬きをする。
「捺実のこと、好きじゃねぇの……?」
は? みたいな顔をされた。
「何故僕が、彼女を好きにならなければいけないんだ」
ああ、前にも聞いたな似たようなフレーズ。
「だって、話してみたいって言ってたじゃん」
「聞きたいことがあっただけだ。大したことは聞けなかったけどね。ただの役立たずだったよ」
その失礼極まりない発言に、あれだけざわついていた胸が一瞬で凪いだ。
いつもだったら姫宮の傲慢っぷりに、おまえな、と頬を引きつらせていただろうが。
(そっか、姫宮は別に捺実のこと好きじゃねぇのか。そっか──そっかァ)
今はただ、自分でもびっくりするぐらい、安心してしまって。
口が少し、軽やかになった。
「なんだよ。じゃあもっと早く言えよ。知ってたら今日みたいなお節介しなかったのにさ」
「お節介?」
ぴたりと、姫宮の手が止まった。
「お節介ってなに?」
「え? いや、由奈に言われて」
「なんて」
あれ。
「えっと、捺実がおまえに気があるから、2人きりにさせてあげようって……」
「へえ、で?」
なんだ。姫宮を纏う空気が、ひりついたものに変わっていく。
7
【代表作】(BL)
・完結
「トイの青空」
・連載中
「月に泣く」
・番外編連載中
「ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。」
更新情報&登場人物等の小話・未投稿作品(番外編など)情報はtwitter記載のプロフカードにて。
宝楓カチカ(twitter)
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