夏の嵐

宝楓カチカ🌹

文字の大きさ
上 下
52 / 227
狼の群れ

03.

しおりを挟む
 *


「おら、寝ろよ」

 提灯の明かりも届かない、月明かりしかない暗い空間。
 林の中の奥まったところの、そこそこ広い池の手前辺りで地面に転がされた。すぐに逃げようしたのだが、手と足が惨めに土を掻いただけだった。
 それに、この震える足では逃げたとしてもすぐに捕まってしまう。
 屈してたまるかと、睨みつけることしかできない。

「おー睨むねぇ、かーわい」
「この子、何歳?」
「お、学生証発見。大学生? じゃあ年上じゃん」
「やべ、敬語使わなきゃ」
「橘、透愛ちゃん……か。へえ~こういう漢字書くんだ。透き通る愛ってか、かわいー名前ですことねぇ」
「それ敬語じゃねーわ」

 ゲラゲラと笑う男に、巾着の中の財布に入っていた学生証をひらりと抜き取られる。
 年上って、こいつら高校生かよ。どーりでαのくせにやってることは雑魚そのもののわけだ。
 なまじ力があるだけに質が悪い。
 そんなこと、強張る唇じゃ言葉にはできないけれど。

「はは、黙っちゃったじゃん。俺たちが怖い? 怖いよねぇ、わかるわかる」
「橘せんぱーい、今からここにいる全員でレイプしていーですか?」
「──来んな」

 やっと声が出せた。でも掠れている。

「にしてもこの子、ぱっと見Ωに見えないね」
「Ωだって隠してあの子と付き合ってんの?」
「うわ健気」
「つかマジで匂いするまでわかんなかったわ」
「擬態上手~」
「ざけん、な。来んな、って、言ってんだろ」

 俺を取り囲む男たちは、じわじわといたぶるように距離を詰めてくる。
 こいつら、愉しんでる。俺が恐怖に怯えていく様に、興奮している。
 手のひらで土を掻いて、握りしめる。

「……おまえら、いつも、こんなことしてんのかよ」

 なるべく時間を稼ぎたい。
 せめて由奈から連絡を受けたみんなが、声を出して探しに来てくれれば。
 懸命に震える声を振り絞り続ける俺を、男たちはせせら笑った。

「そんなびびんなって透愛ちゃん、ちゃんと気持ちよくしてやるから」
「言っとくけどいつもじゃないよ。だって普通の女だったら犯罪になっちゃうじゃん?」

 でも、と一人がにっこりと笑った。

「Ωならいくらヤッても、無罪なんで」
「──ッ……!」

 四方から手が伸びてきて、一気に地面に押し倒される。

「は、なせッ」

 辛うじて残っている気力でじたばたと暴れるも、難なく固定されてしまう。

「足癖悪ぅっ、ちょいこっちの足持って」
「はいよ」
「イキいいな~、俺左足持つわ」
「っめろ、ざけんな……!」

 両足を掴まれ、ぐいっと大きく割り裂かれた。
 腕をバタつかせれば、右手と左腕をそれぞれ地面に押さえつけられる。
 それでもまだ、抵抗は止めない。

「いたっ、いってぇんだよ、やめろよ!」
「お、まだ騒ぐ~?」
「ま、そこそこタッパあるから普段通りにはいかないねぇ」
「この手のタイプ新鮮だな。僕の番さぁ、いつもぷるぷる震えてて従順すぎてつまんないんだよね」
「どの番だよ、おまえ3人ぐらいいんじゃん」
「いーだろ全員可愛がってやってんだからさ。ほら、この前たっくんに貸してあげた子」
「あああれか、俺も食ったけど……確かにチワワみてーだったな」
「あれ、みんなで輪姦まわした子は?」
「それは別の子ー」

 暴れ続ける俺などものともせず、男たちは浴衣を強引に脱がそうとしてくる。
 和気あいあいと、ゲームの内容を語るようノリで。

「この子、具合良かったらどうする? なんか美味そうな予感するわ」
「ゆーちんのマンション連れてこ」
「しばらく監禁してやりまくれば大人しくなるべ」
「薬持ってきた?」
「いや家」
「残念、じゃあ飲ませられないかぁ……紐は?」

 軽い会話の中に含まているおぞましさに、身体中が震えた。
 こんな、こんな……ここまで露骨なαたちには、出会ったことがない。

「こ、んなことまでして、無罪なわけあるかよッ……おれは別にヒートでもなんでもねぇよ……!」

 確かにヒート時におけるΩへの性的暴行は罪に問われない。けれどもそれ以外は別だ。
 今、俺の身体からは相手の性欲を刺激してしまうフェロモンの匂いが漂ってはいるが、これは決して発情の香りではない。
 身を守るためのものだ。だから非常に弱い。相手をラット状態にさせるようなフェロモンじゃない。 
 こいつらもαであるならば、そんなこと感じ取っているはずなのに。

「なぁにいってんの、こんな匂いさせてさぁ」
「むしろ俺ら被害者じゃね?」
「そうそう、おまえの匂いのせいでこんなんなってんの。むしろ逆レだろ、逆レ」
「逆レ! やめろ笑かすな」
「ね、だから俺らの心配は別にしなくてもいいよ?」
「3周目ぐらいすれば、透愛ちゃんの身体も勝手に発情するから」

 3周目って……意味がわかった瞬間、ぞわっと身体中に鳥肌が立った。

「だから俺らは無罪。ね?」
「さすがあっくん、くわしー、プロじゃん」
「Ω輪姦まわしは俺に任せろ」
「いやそれ威張ることじゃねーわ」
「ゲスすぎ」

 げらげらと、男たちが声を上げて笑う。

(こ……こいつらおかしい。正気じゃねぇ、絶対なんかヤバい薬やってんだろ……!)



しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。 βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。 そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。 イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。 3部構成のうち、1部まで公開予定です。 イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。 最新はTwitterに掲載しています。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

勇者パーティーハーレム!…の荷物番の俺の話

バナナ男さん
BL
突然異世界に召喚された普通の平凡アラサーおじさん< 山野 石郎 >改め【 イシ 】 世界を救う勇者とそれを支えし美少女戦士達の勇者パーティーの中・・俺の能力、ゼロ!あるのは訳の分からない< 覗く >という能力だけ。 これは、ちょっとしたおじさんイジメを受けながらもマイペースに旅に同行する荷物番のおじさんと、世界最強の力を持った勇者様のお話。 無気力、性格破綻勇者様 ✕ 平凡荷物番のおじさんのBLです。 不憫受けが書きたくて書いてみたのですが、少々意地悪な場面がありますので、どうかそういった表現が苦手なお方はご注意ください_○/|_ 土下座!

処理中です...