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7年前
02.
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*
「あれ、姫宮?」
担任に雑用を押し付けられた放課後、教室で帰り支度を整えている姫宮と遭遇した。
「一人でいるの珍しいな、どうしたんだ?」
「うん、ちょっと忘れ物しちゃって。君こそどうしたの?」
「あー、中センセーにこれ押しつけられてさ。おまえが一番ボール破裂させてんだから手伝え! ってキレられて……でもこれでさーいご! あー疲れたぁ」
両手いっぱいのボールを抱えた俺に、姫宮がくすりと笑った。
「ふふっ、確かに橘くん、昨日も一個つぶしてたよね?」
「なんだよっ、おまえまでそんなことゆーのかァ? わざとじゃねーもん!」
「あはは、わかってるよ。あのボール古いモノだったし、橘くんのせいじゃないと思うよ。あ、それ入れるの手伝おうか?」
「え? あ、うん、さんきゅう……」
「えへへ、どういたしまして。2人でやった方が早いもんね!」
友達に、おまえはボール破壊マシンに改名しろ! と言われるくらいにはヤンチャな自覚があったので、こうも親切にされると落ち着かない。
友達には名前で呼ばれるのに、苗字をくん付けでかしこまって呼ばれるのもそわそわする。
それに今一瞬、姫宮が俺の名札をチラリと見て、名前を確認したのも見逃さなかった。
「なぁ、姫宮」
「なぁに?」
「俺さァ、ずっとおまえに聞きたいことあったんだけど、聞いてもいい?」
「うん、いいよ! 僕でよければなんでも聞いて?」
姫宮が笑うと、大輪の花がぱぁっと咲く。彼のニコニコ笑顔は一瞬たりとも崩れない。
まるでそれ以外の表情を浮かべたら、死んでしまうとばかりに。
「おまえってさ、なんで楽しくもねぇのにずっと笑ってんの?」
「──え?」
2人の間に流れた、数秒の静寂。
姫宮が、ぱちぱちと瞬きをしてこてんっと首を傾げた。
「どういう、こと? 僕いっつも楽しいよ?」
「一緒にいるあいつらのことだって、別に好きじゃねぇんだろ?」
他意はなかった。ただ純粋に、疑問だった。
「ええっ、どうしてそんなこと言うの? 皆のこと、僕本当に大好きだよ?」
「じゃあなんでそんなウソの顔してんだよ」
「嘘の顔って?」
「うーん、なんて言やいいのかな……あ、そうだ、歪な顔だ!」
「──いびつ?」
「うん。あ、ほらその顔、やっぱり歪じゃん! 考えてることと本当の顔がぜんっぜん合ってないっつーか……変だよ。なんで?」
姫宮の笑顔がウソであることには気付いたのに、その笑みにぴしりと亀裂が走ったことには、気付かなかった。
笑顔を凍らせていた姫宮が、急に動いた。
「うわっ」
スチールのカゴから、膨れ上がるようにボールが飛び出してきた。色とりどりのそれに襲われて前が見えなくなり、ぐわっと迫ってきた白い手を避けることも出来ず。
あっと思った時には突き飛ばされ、ドスンッと尻を床に打ち付けていた。
「い、ッぅ、ってえぇ!」
「うるさい」
ぽかん。この時の俺は、かなり間抜けな顔をしていたんだと思う。
「ひめみや?」
「うるさい、黙れ」
一瞬、目の前にいるのが誰かわからなくて、ぱちぱちと瞬きをした。
「たかがβ如きが……調子に乗るなよ」
表情のない姫宮は俺を一瞥すると、さっと髪を翻して教室から出て行ってしまった。
教室の隅まで飛んでいった沢山のボール。
力いっぱい蹴り倒され、歪んでしまったカゴ。
じんじんと尻に響く痛みのあまり、涙目の自分。
「橘、おまえ何やってんだぁ!?」
教室の惨状にブチ切れた担任が入ってくるまで、俺はその場にへたり込んだままだった。
「あれ、姫宮?」
担任に雑用を押し付けられた放課後、教室で帰り支度を整えている姫宮と遭遇した。
「一人でいるの珍しいな、どうしたんだ?」
「うん、ちょっと忘れ物しちゃって。君こそどうしたの?」
「あー、中センセーにこれ押しつけられてさ。おまえが一番ボール破裂させてんだから手伝え! ってキレられて……でもこれでさーいご! あー疲れたぁ」
両手いっぱいのボールを抱えた俺に、姫宮がくすりと笑った。
「ふふっ、確かに橘くん、昨日も一個つぶしてたよね?」
「なんだよっ、おまえまでそんなことゆーのかァ? わざとじゃねーもん!」
「あはは、わかってるよ。あのボール古いモノだったし、橘くんのせいじゃないと思うよ。あ、それ入れるの手伝おうか?」
「え? あ、うん、さんきゅう……」
「えへへ、どういたしまして。2人でやった方が早いもんね!」
友達に、おまえはボール破壊マシンに改名しろ! と言われるくらいにはヤンチャな自覚があったので、こうも親切にされると落ち着かない。
友達には名前で呼ばれるのに、苗字をくん付けでかしこまって呼ばれるのもそわそわする。
それに今一瞬、姫宮が俺の名札をチラリと見て、名前を確認したのも見逃さなかった。
「なぁ、姫宮」
「なぁに?」
「俺さァ、ずっとおまえに聞きたいことあったんだけど、聞いてもいい?」
「うん、いいよ! 僕でよければなんでも聞いて?」
姫宮が笑うと、大輪の花がぱぁっと咲く。彼のニコニコ笑顔は一瞬たりとも崩れない。
まるでそれ以外の表情を浮かべたら、死んでしまうとばかりに。
「おまえってさ、なんで楽しくもねぇのにずっと笑ってんの?」
「──え?」
2人の間に流れた、数秒の静寂。
姫宮が、ぱちぱちと瞬きをしてこてんっと首を傾げた。
「どういう、こと? 僕いっつも楽しいよ?」
「一緒にいるあいつらのことだって、別に好きじゃねぇんだろ?」
他意はなかった。ただ純粋に、疑問だった。
「ええっ、どうしてそんなこと言うの? 皆のこと、僕本当に大好きだよ?」
「じゃあなんでそんなウソの顔してんだよ」
「嘘の顔って?」
「うーん、なんて言やいいのかな……あ、そうだ、歪な顔だ!」
「──いびつ?」
「うん。あ、ほらその顔、やっぱり歪じゃん! 考えてることと本当の顔がぜんっぜん合ってないっつーか……変だよ。なんで?」
姫宮の笑顔がウソであることには気付いたのに、その笑みにぴしりと亀裂が走ったことには、気付かなかった。
笑顔を凍らせていた姫宮が、急に動いた。
「うわっ」
スチールのカゴから、膨れ上がるようにボールが飛び出してきた。色とりどりのそれに襲われて前が見えなくなり、ぐわっと迫ってきた白い手を避けることも出来ず。
あっと思った時には突き飛ばされ、ドスンッと尻を床に打ち付けていた。
「い、ッぅ、ってえぇ!」
「うるさい」
ぽかん。この時の俺は、かなり間抜けな顔をしていたんだと思う。
「ひめみや?」
「うるさい、黙れ」
一瞬、目の前にいるのが誰かわからなくて、ぱちぱちと瞬きをした。
「たかがβ如きが……調子に乗るなよ」
表情のない姫宮は俺を一瞥すると、さっと髪を翻して教室から出て行ってしまった。
教室の隅まで飛んでいった沢山のボール。
力いっぱい蹴り倒され、歪んでしまったカゴ。
じんじんと尻に響く痛みのあまり、涙目の自分。
「橘、おまえ何やってんだぁ!?」
教室の惨状にブチ切れた担任が入ってくるまで、俺はその場にへたり込んだままだった。
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