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橘 透愛
05.
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「あいつ、お金持ちのα様ご用達の聖稜高校出身だろ? しかも進学校でもトップだったって話じゃん。あーあ、なに食ったらあんな顔になるんだよ。俺、同じ男でいいのかな」
「泣くな瀬戸」
「うぅ、綾瀬ぇ」
「寄んな瀬戸」
「おまえキャラブレすぎ。基本塩なの? それともデレなの?」
「いるんだなぁ、非の打ち所がない完璧人間って。あそこまで別格だと嫉妬の気持ちもわかないなぁ」
「あ、帝東大も受かってたって、上位で」
「マジ? なんでそっち蹴ってこんな三流大学通ってんだろ。滑り止めにしてもおかしいよなー医学部以外弱いし」
「んー……これは噂なんだけど、家を継ぐことが決まってるから本来なら大学に行く必要がなくて、たまたま実家に近かったのがここだったみたいな話を、聞いたことが……」
「なにそれ、御曹司による庶民の物見遊山?」
頬杖をついた綾瀬の言い分もわかる。
この大学は偏差値もそこまで高くないので、ここに通っている人間のほとんどがβだ。風間も綾瀬も瀬戸も、女子たちも。αは姫宮を含め数人しかいない。
ましてやΩなんて。
ここにいる全員、すぐそばにΩがいたとしても気付きもしないだろう。
番を持たないΩのトレードマークでもある、首輪でも嵌めていない限り。
「でもさ、姫宮の彼女ってどんな子なんだろ。あんなに可愛い子たちに囲まれたらより取り見取りじゃんな」
「そういや、全然噂になんないなぁ……そもそもいるのか?」
「いないわけないだろ! あ、もしかして」
ニヤっと笑った瀬戸が、声を低くした。
「Ωだったりしてー?」
「あはは、運命の番かぁ?」
「姫宮家の御曹司がΩと? 洒落になんね」
くっだらないとばかりに、綾瀬が首を鳴らした。
「……そうそう、どーせαの美女とかなんじゃねぇの?」
平静を装いつつ会話に混ざる。参考書をめくる手が、微かに震えてしまった。
「まぁ誰であったとしても、姫宮に選ばれるなんて幸せだろうなぁ。生涯安泰だ」
「人生勝ち組待ったなし?」
「はーあ、それに比べて俺らはよ」
「それはお前だけ」
楽しいはずの友人たちの掛け合いに、どんどん目線が下がっていく。行き場のない感情が重く圧し掛かり、自然と首の後ろの皮膚が突っ張った。
「……ん?」
ふと、風間が顔を上げて鼻を鳴らし、うーん? と首を傾げた。
「どした、風間さん」
「なんか、甘い匂いするなって」
「甘い匂い? 俺はしないけど」
「うん、そっち──橘の方からかな?」
内心、ひやりとする。
でも大丈夫だ、脳内で何度もシミュレーションしてきたんだから。
バレたかと、いたずらが成功した子どものようにニヤリと笑ってみせる。
「あー、やっぱわかるか? 実は新しい香水使ってみてさぁ。いつものに重ねづけしてんの」
「へえ、爽やか系のおまえにしては意外だなぁ」
「だろー?」
おっとりした風間の視線をしっかりと受け取り、表情筋を無理矢理動かし、「あはは」と笑みを深めた。
「兄貴の香水、内緒でパクったんだけどさぁ……気に入ったからしばらく使ってみようと思って。いーだろ?」
「へえ、俺兄貴の勝手に使ったらブン殴られっけど」
「あ、うん、綾瀬のにーちゃんの気持ちわかるわ俺」
なんて言えば、ぱこんと綾瀬に頭を叩かれた。隣の隣から器用なことだ。
「そんなに違うか? 別にいつもと変わんねえと思うんだけど……」
「瀬戸は鼻つまりすぎ」
「チビすぎ」
「誰がチビだ、この金髪!」
「チビっつったの俺じゃねーし綾瀬だし! 冤罪だ冤罪」
「こーら綾瀬、どんなに思っててもそんなこと言うもんじゃないぞ」
「だーから風間さん、それ言ってる、言ってるって!」
「思ってるだけより口に出した方がよくない? なにごとも」
「うん綾瀬スマホ貸せ? 中庭に沈めてくるから」
「瀬戸は牛乳に浸ってこい」
「そうだ、間を取って今度みんなで乳頭温泉行くか!」
キラキラとした顔で天然ボケをぶちかまし続ける風間に、綾瀬が真顔のままジュースをぶふぉっと吹き出し、瀬戸が「みんなしてさぁ!」と四肢をぐでっと投げ出した。綾瀬が零したジュースは風間が拭いている。
いつも通りの掛け合いに、長めの襟足で隠した首の後ろを擦りながら、吐息だけで笑う。
ネックレスが、ちゃりと爪にまとわりついた。
実は風間以外の二人に指摘された通り、つけているのはいつもと同じ香水のみだった。それでもわかる人にはわかるのだろう。昨日から体調が怪しくて、多めにつけてはきたけどたぶん足りなかった。
薄々そうじゃないかとは思ってはいたが、風間はやはりそっち寄りらしい。
もっと気を付けて、隠し通さないと。
友人たちとの何気ない日々が、心から大切なのだから。
結局、勉強には集中できなくて。
ぼうっとしたまま見当違いの部分を読み込みまくった結果、小テストはやらかした。
「泣くな瀬戸」
「うぅ、綾瀬ぇ」
「寄んな瀬戸」
「おまえキャラブレすぎ。基本塩なの? それともデレなの?」
「いるんだなぁ、非の打ち所がない完璧人間って。あそこまで別格だと嫉妬の気持ちもわかないなぁ」
「あ、帝東大も受かってたって、上位で」
「マジ? なんでそっち蹴ってこんな三流大学通ってんだろ。滑り止めにしてもおかしいよなー医学部以外弱いし」
「んー……これは噂なんだけど、家を継ぐことが決まってるから本来なら大学に行く必要がなくて、たまたま実家に近かったのがここだったみたいな話を、聞いたことが……」
「なにそれ、御曹司による庶民の物見遊山?」
頬杖をついた綾瀬の言い分もわかる。
この大学は偏差値もそこまで高くないので、ここに通っている人間のほとんどがβだ。風間も綾瀬も瀬戸も、女子たちも。αは姫宮を含め数人しかいない。
ましてやΩなんて。
ここにいる全員、すぐそばにΩがいたとしても気付きもしないだろう。
番を持たないΩのトレードマークでもある、首輪でも嵌めていない限り。
「でもさ、姫宮の彼女ってどんな子なんだろ。あんなに可愛い子たちに囲まれたらより取り見取りじゃんな」
「そういや、全然噂になんないなぁ……そもそもいるのか?」
「いないわけないだろ! あ、もしかして」
ニヤっと笑った瀬戸が、声を低くした。
「Ωだったりしてー?」
「あはは、運命の番かぁ?」
「姫宮家の御曹司がΩと? 洒落になんね」
くっだらないとばかりに、綾瀬が首を鳴らした。
「……そうそう、どーせαの美女とかなんじゃねぇの?」
平静を装いつつ会話に混ざる。参考書をめくる手が、微かに震えてしまった。
「まぁ誰であったとしても、姫宮に選ばれるなんて幸せだろうなぁ。生涯安泰だ」
「人生勝ち組待ったなし?」
「はーあ、それに比べて俺らはよ」
「それはお前だけ」
楽しいはずの友人たちの掛け合いに、どんどん目線が下がっていく。行き場のない感情が重く圧し掛かり、自然と首の後ろの皮膚が突っ張った。
「……ん?」
ふと、風間が顔を上げて鼻を鳴らし、うーん? と首を傾げた。
「どした、風間さん」
「なんか、甘い匂いするなって」
「甘い匂い? 俺はしないけど」
「うん、そっち──橘の方からかな?」
内心、ひやりとする。
でも大丈夫だ、脳内で何度もシミュレーションしてきたんだから。
バレたかと、いたずらが成功した子どものようにニヤリと笑ってみせる。
「あー、やっぱわかるか? 実は新しい香水使ってみてさぁ。いつものに重ねづけしてんの」
「へえ、爽やか系のおまえにしては意外だなぁ」
「だろー?」
おっとりした風間の視線をしっかりと受け取り、表情筋を無理矢理動かし、「あはは」と笑みを深めた。
「兄貴の香水、内緒でパクったんだけどさぁ……気に入ったからしばらく使ってみようと思って。いーだろ?」
「へえ、俺兄貴の勝手に使ったらブン殴られっけど」
「あ、うん、綾瀬のにーちゃんの気持ちわかるわ俺」
なんて言えば、ぱこんと綾瀬に頭を叩かれた。隣の隣から器用なことだ。
「そんなに違うか? 別にいつもと変わんねえと思うんだけど……」
「瀬戸は鼻つまりすぎ」
「チビすぎ」
「誰がチビだ、この金髪!」
「チビっつったの俺じゃねーし綾瀬だし! 冤罪だ冤罪」
「こーら綾瀬、どんなに思っててもそんなこと言うもんじゃないぞ」
「だーから風間さん、それ言ってる、言ってるって!」
「思ってるだけより口に出した方がよくない? なにごとも」
「うん綾瀬スマホ貸せ? 中庭に沈めてくるから」
「瀬戸は牛乳に浸ってこい」
「そうだ、間を取って今度みんなで乳頭温泉行くか!」
キラキラとした顔で天然ボケをぶちかまし続ける風間に、綾瀬が真顔のままジュースをぶふぉっと吹き出し、瀬戸が「みんなしてさぁ!」と四肢をぐでっと投げ出した。綾瀬が零したジュースは風間が拭いている。
いつも通りの掛け合いに、長めの襟足で隠した首の後ろを擦りながら、吐息だけで笑う。
ネックレスが、ちゃりと爪にまとわりついた。
実は風間以外の二人に指摘された通り、つけているのはいつもと同じ香水のみだった。それでもわかる人にはわかるのだろう。昨日から体調が怪しくて、多めにつけてはきたけどたぶん足りなかった。
薄々そうじゃないかとは思ってはいたが、風間はやはりそっち寄りらしい。
もっと気を付けて、隠し通さないと。
友人たちとの何気ない日々が、心から大切なのだから。
結局、勉強には集中できなくて。
ぼうっとしたまま見当違いの部分を読み込みまくった結果、小テストはやらかした。
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