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玩具の人形
136.
しおりを挟む素早く清めた身体を抱き抱えて浴槽から出る。最後にシャワーで傷になっている部分の汚れを流し、タオルケットで身体全体を拭いた。
脱衣所にはソンリェンが求めていたふわりとしたガウンが椅子の上に綺麗に畳まれ置かれていた。子ども用のがあるはずもないので女性用のを用意したのだろう、それでもトイにとっては大きかった。
柔らかなそれでトイの身体を包み、濡れた自身の服を軽く絞っただけの状態で自室へと向かう。汚れた床はあとは使用人たちが掃除する。
自室の前には既にハイデンと医者が立っていた。丁度今来たところなのだろう。ソンリェンの屋敷に仕える、とまではいかないが、何かあった時には重宝している医者だ。金を積ませてあるので口も堅い。
そしてソンリェンと同じく選民思想が強い。ソンリェンの抱えている子どもの細い手足や肌の色から一発で貧民層の子どもだということがわかったのだろう。医者は目に見えて眉を顰めた。
少し前までの自分を見ているようで苛立ったが、腕だけは確かなのでハイデンを扉の前に控えさせて医者を部屋の中へと入らせる。
「で、どうしましたかね、この子どもは」
「この薬を飲ませて今の状態だ、診ろ。そして治せ」
「ふむ……」
手渡した瓶に医者に見せる。横暴なソンリェンに医者は何も言わない、幼い頃からの付き合いなので大して何も思っていないのだろう。
「輸入品ですね。裏で出回ってるのを見かけたことがあります。ということはロイズ様から貰いましたか。あそこのお家はそちらのルートも開拓してますし」
「深入りすんな」
「ここ数年で金持ちの若者の間で流行ってるんですよ、女を廃人にして遊ぶとかで。即効性が強いんでね、使い過ぎて死人も出てますが……何本使いましたかな」
「一本だ。飲ませたのは半分。それ以外は身体に塗った」
「それでしたら一週間もしないうちに治るでしょうな。失禁や脱糞は」
「……失禁はした」
「そうですか、どれ」
大して慌てもしていない医者は、ベッドに寝かせたトイの服を乱雑に剝いた。びくんとトイが身体を縮こませたので「丁寧に扱え」と鋭く睨むと、医者は僅かに目を丸くさせたが肩を竦めてソンリェンの指示に従った。
丁寧な所作で、トイの身体を隅から隅まで診る。
「ぁ……」
トイはここでやっと見知らぬ人間に身体を弄られていることに気が付いたようで、力の入らぬ身体でベッドの上を這いずって逃げようとした。抑えて下さい、と医者に言われるまでもなくベッドの淵に乗り上げトイの身体を抱き寄せ、「診るだけだ」と顔を胸に引き寄せて視界を覆ってやる。
医者がおや、と片眉を上げたが無視した。
トイは直ぐに大人しくなった。というよりも抵抗するだけの力ももう無いのかもしれない。
医者は、トイの身体に散った真新しい噛み痕や首を絞めた痕、未だに背中に色濃く残る虐待の痕には何も言わなかった。そういう男だ。
だが、トイの下半身を診察し始めた時に初めて驚いたような声を上げた。
「これは……珍しい」
「深入りするなと言ったが、聞こえていなかったか」
「感想を述べたまでですよ。昔はサーカスの見世物小屋にいましたなぁ」
なんともえげつない台詞だが、見ての通りトイは両性体だ。だからこそ金で繋がりのある医者を呼ぶしかないのだ。どんなサーカスとやらなのかは詳しく聞かなくともわかる。ろくなものではなかったはずだ。
手袋をつけた医者はやはり表情一つ変えずに、トイの臀部、膣内、陰茎を診察し、身体の傷を消毒し塗り薬をまぶしガーゼを貼った。治療が終わった頃には、トイのそれはまた勃ち上がっていた。
「まずは、軽く栄養失調気味ですね」
トイの身体は細い、細すぎた。それなのに食事をあまり取れない。精神的な心の傷がトイの食欲を減退させているのだ。ソンリェンに犯された後も一人で吐き戻していたのかもしれない。
「あと、意識混濁が始まっています。今夜と明日は発汗と発熱が凄いでしょうが、それを越えてしまばあとは徐々に落ち着いていくかと。この飲み薬を一日3回飲ませてください。女性器の裂傷が酷いのでこれは一日最高5回ほど塗っても大丈夫です、そのつど中に入れるガーゼも替えるように……あっ塗り薬はここに置いておきます。身体の傷も酷いですが、それ以上に飲ませた薬が薬なのでね。完全に抜けきるまで幻聴や幻覚に苛まれてパニックになる時もあるでしょうが、どうしようもないのでなだめるでもなんでもしてください」
淡々と、述べられる事実を噛みしめる。
「ああそれと、廃人にしたくなければ勃起してもなるべく放置で。射精しすぎると余計悪化します。もちろん女性器への刺激も与えないように。薬が抜けきった時が大変ですので。自分で擦らないよう手足も縛っておきますか」
「いい、俺がやる」
医者の手を制する。
「……死なねえだろうな」
「さあ」
ぎろりと睨めば、医者は真っすぐにソンリェンを見返した。自分自身の浅ましい部分を見透かされたようで目を逸らしたくなったがそれはプライドが許さない。
「医者としての見立てでは、死にはしませんね。これぐらいのことでは」
だが、次の言葉でソンリェンはやはり目を逸らしてしまった。腕の中に囲ったトイを見下ろす。
「ただ、この子どもにとってこれがどのくらいのことかは存じ上げません、そういうことです」
医者はどこまでも医者らしかった。多少の事では動じず、事実のみを述べる。
では私はこれで、と席を立った男にいつもより多くチップを渡す。これにも医者は驚いたようで、年期の入った皺交じりの眦をくいと上げてから丁寧な所作で部屋を後にした。
「……トイ」
治療も終わった。あとは休ませるだけだというのに息をつくことが出来ない。
胸の中に抱きしめたトイをベッドに寝かせなければならないというのに、トイを離すことが出来ない。ソンリェンの中でのトイの存在はこんなにも大きいのに、現実のトイはこのまま消えてしまいそうな儚さだった。
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