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雨音
130.
しおりを挟む全部見られてしまったんだ。ディアナに。
一緒に穏やかな時間を過ごしたこの場所で。
ソンリェンの熱い唇が離れる。彼はディアナが立ち去った方向を見つめて薄く笑みを浮かべていた。氷のように冷たい瞳で。
「そんりぇ、ん」
「あ?」
「なんで……」
トイが正気を取り戻したことを知ったソンリェンは、直ぐに酷薄な笑みを消した。首を絞められた時と同じような無表情が現れる。
「酷え、よ」
泣きすぎて渇いたと思っていた涙がぽろりと零れた。未だに身体の奥からは絶え間なく快感は湧きあがってくるが、それ以上に心の痛みが湯水のように溢れて胸が張り裂けそうになった。
「てめえが俺から逃げようとするからだろうが」
吐き捨てられた声に温度はない。
ソンリェンにトイの悲痛な叫びは届かない。
「あの女なんかにやってたまるかよ。馬鹿だなお前は、さっさと俺のもンになっとけばよかったのにな」
壊された日に使われた薬を、飲まされたこと。
トイの大好きなこの場所でディアナの目の前で犯されたこと。
そして何より、見せしめのためだけにソンリェンに犯されたことが辛かった。
「てめえの意思なんざ知るか。心も体も全部お前は俺のもンだろうが」
涙を零すトイなんてどうでもいいのか、ソンリェンは再び覆い被さり首筋に舌を這わせてきた。トイの腹をいやらしく撫でながら。
「……一生閉じ込めてやるよ、手足に枷つけて。もう二度と、外になんか出してやるか」
性感帯を刺激するように身体を弄られ、薬に犯された身体は直ぐに熱くなった。
当たり前のようにソンリェンの愛撫に反応し始める。
「ああ、ついでに足の腱も切っとくか、お前結構すばしっこいからな。知ってるか? 足の腱は一度切って放置しちまえばあとはもう治んねえんだよ……お前、完全に突っ込まれるだけの穴になるな」
するりと足首を撫でられ爪を立てられても、それすらむず痒い痺れへと変わってしまう。
「朝も昼も夜も、犯して犯して、犯し尽くしてやる……空も見えねえ部屋で、死ぬまでな」
未だに残る快楽の嵐は凄まじく、どこもかしこも痺れる。トイの心を置いてけぼりにしたまま。
1年前に壊された時もこうだった。
苦しくて辛くて、もうできなくて嘔吐しても何度もあの液体を飲み下され、意識が飛んで、蹴られ張り飛ばされ突き入れられては目を覚まして、再び遊ばれて絶叫して。
身体じゅうが痒くて痛くて、手も喉も足も背中も膣の中も腹の奥も全部が痛くて、もう悲鳴すら出なくなって。
それでもロイズもエミーもレオもソンリェンも、止めてくれなくて。
「オレ……」
遊びつくしたトイを捨てて部屋から去った4人の背中を見ながら、やっと死ねるのかと思った。あんなに死にたくないと足掻き続けた日々だったのに、行き着いた先の死はトイに安寧をもたらした。
「オレ、まちがった、の……?」
助けてくれたシスターを恨んだ時もあった。
けれども優しさに触れたから、壊れた体を戻すことができるのかもしれないと思っていたのに。
トイを捨てたはずの、ソンリェンが現れて。
「オレ……壊される、の」
この2ヶ月間、ソンリェンはトイを屋敷に閉じ込めていた頃の彼とはどこか違っていた。
無理矢理だった、乱暴だった、痛いことも沢山された。犯されることは耐えがたかった。けれども丁寧な仕草で頭を撫でてくれる時もあった。柔らかく額にキスをしてくれる時もあった。
かわいいなと言いながら、ぎゅっと抱きしめてくれる時もあった。トイの身体を求めることに、ソンリェンは必死さを抱いている様子でもあった。
かつての彼であったら考えられなかった行為の一つ一つはトイを困惑させ、それと同時に期待が膨らんだ。
彼の行動は気まぐれに過ぎないはずだが、もしもそれだけじゃない何か別の感情があるのだとしたら。
もしかしたらいつかトイを、玩具ではなく人間として扱ってくれるのではないかと。
けれどもわかった。トイは、いつまで経ってもソンリェンにとっての玩具に過ぎないのだ。
今、ソンリェンは怒りのままトイを狂わせようとしている。1年前と同じように。
二度目はきっと耐えられない。身体以上にきっと心が持たない。
今度こそトイは、壊されるのだ。
「ソンリェン」
涙はもう零れてはこなかった。
「オレ死ぬの?」
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