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雨音
124.
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それは本当に突然だった。ソンリェンの顔までも蝋のようにどろりと溶け始める。いや違う、溶けたのはトイだった。視界が崩れていく。
混乱するトイに、ソンリェンがほほ笑んだような気がした。
「……なに……そん、り」
次の瞬間にはふらりと頭が揺れて、そのままぽすんとソンリェンの肩に沈み込んでしまった。なんだこれは、身体から力が抜けていく。先ほどまではまだ動かせていたのに腕に力が入らない。感覚はあるのにまるで肩から錘をぶらさげているみたいだった。
両足に力を入れてみれば、今度は太ももが壊れた玩具のようにがくがくと震えだした。
「え……ぇ」
震えはさらに大きくなり、徐々に身体じゅうが酷い痒みに襲われ始めた。痒くて肌を掻きたくとも、手も足もまともに動かすことができなくてさらに痒みが増していく。
冷や汗が身体じゅうのあちこちからどっと噴き出て、下半身が火で炙られたように熱くなる。
痺れにも苛まれた。指先も足先も、そして舌先が一番ぴりぴりする。息を吸うことすら舌への刺激になって、呼気と共に痒みと痺れが肺一杯に落ちてきて体内に広がっていく感覚だった。
首を絞められているわけでもないのに息が乱れていく。視界がちかちかと光る。
なんだこれは、普通じゃない。
「そ、んり……からだ、おかし、い」
身体の芯が狂いそうになるぐらいに熱く、痛くなってきてトイは半狂乱になった。
助けてと目で訴えても、ソンリェンは何もしてはくれない。相変わらず冷めた目でトイを見下すばかりだ。
「へ、変……へん……なに、これ……っ」
「なんだ、覚えてねえのか」
動揺するトイとは正反対に、ソンリェンはいたって冷静なままだ。ソンリェンの言葉に霞がかった思考が蘇ってきて、あ、と声が漏れた。茫然とソンリェンを見る。あの苦い味は。
彼の口元が歪み、綺麗な三日月型に変わった。静かに深まった笑みに確信に変わる。
ひゅわ、と、声になり損ねた空気が喉奥から空しく溢れた。
「そ……」
「思い出したみてえだな」
「い、や……嫌だ、」
「もう飲んじまっただろうが」
するりと額にかかった髪をよけられて至近距離から顔を覗き込まれる。
それが、1年前の彼と重なって余計に苦しくなった。だらだらと涙が零れてくるのは薬のせいではない。悲しいからだ。
4人がかりで壊された日に何度も飲まされた液体を、他でもないソンリェンに再び飲まされたことがショックだった。
「なんで、なん……でぇ」
「なんで、ねえ」
抱え込むように肩を抱かれ、額をこつりと合わされる。
「俺のもンじゃねえっつったな、お前」
するりと唇に這わされた指は、優しさとは程遠い。
「じゃあ壊すしかねえだろ……?」
昏いソンリェンの瞳から、視線を外すこともできない。
外せば最後、喉元から食らい尽くされそうだった。
「玩具以下にしてやるよ」
それは、トイにとって死刑宣告だった。
苛烈な炎が彼の瞳の奥でくすぶっている。ソンリェンは本気だ。本気でトイを壊す気だ。
あの日のように、トイをめちゃくちゃにする気だ。
「ハイデン、ここで降ろせ」
「ソンリェン様、ですが」
「降ろせ、と言っている。聞こえなかったのか」
使用人の名前はハイデンと言うらしいが、そんなことはどうでもいい。
「た……たす」
助けてほしくて前の席に腕を伸ばそうとしたが難なく捕らえられ、さらに抱え込まれる。身体に力が入らないから抵抗できない。
「戻ってくるまでここにいろ」
使用人が僅かに躊躇してから、諦めたように車を止めた。
膝裏に腕を差し込まれ身体が浮いた。そのままソンリェンに抱え上げられ車外に出される。夕日の赤が目に痛い。
近くに雑木林があった。ここはどこだろうか、見たことのない場所だ。
歩き始めたソンリェンの振動さえも体に響く。ざわざわとした感覚にトイはソンリェンの腕の中で身体を丸めるしかなかった。
林の中の、薄っすらとした小道をソンリェンは進んで行った。
時々揺れるのは道が舗装されていないからだろうか、周囲を確認する余裕などなかった。だからそれなりに長い時間をかけてそこに辿り着くまで、トイはソンリェンがどこで何をしようとしてるのかもわからなかった。
混乱するトイに、ソンリェンがほほ笑んだような気がした。
「……なに……そん、り」
次の瞬間にはふらりと頭が揺れて、そのままぽすんとソンリェンの肩に沈み込んでしまった。なんだこれは、身体から力が抜けていく。先ほどまではまだ動かせていたのに腕に力が入らない。感覚はあるのにまるで肩から錘をぶらさげているみたいだった。
両足に力を入れてみれば、今度は太ももが壊れた玩具のようにがくがくと震えだした。
「え……ぇ」
震えはさらに大きくなり、徐々に身体じゅうが酷い痒みに襲われ始めた。痒くて肌を掻きたくとも、手も足もまともに動かすことができなくてさらに痒みが増していく。
冷や汗が身体じゅうのあちこちからどっと噴き出て、下半身が火で炙られたように熱くなる。
痺れにも苛まれた。指先も足先も、そして舌先が一番ぴりぴりする。息を吸うことすら舌への刺激になって、呼気と共に痒みと痺れが肺一杯に落ちてきて体内に広がっていく感覚だった。
首を絞められているわけでもないのに息が乱れていく。視界がちかちかと光る。
なんだこれは、普通じゃない。
「そ、んり……からだ、おかし、い」
身体の芯が狂いそうになるぐらいに熱く、痛くなってきてトイは半狂乱になった。
助けてと目で訴えても、ソンリェンは何もしてはくれない。相変わらず冷めた目でトイを見下すばかりだ。
「へ、変……へん……なに、これ……っ」
「なんだ、覚えてねえのか」
動揺するトイとは正反対に、ソンリェンはいたって冷静なままだ。ソンリェンの言葉に霞がかった思考が蘇ってきて、あ、と声が漏れた。茫然とソンリェンを見る。あの苦い味は。
彼の口元が歪み、綺麗な三日月型に変わった。静かに深まった笑みに確信に変わる。
ひゅわ、と、声になり損ねた空気が喉奥から空しく溢れた。
「そ……」
「思い出したみてえだな」
「い、や……嫌だ、」
「もう飲んじまっただろうが」
するりと額にかかった髪をよけられて至近距離から顔を覗き込まれる。
それが、1年前の彼と重なって余計に苦しくなった。だらだらと涙が零れてくるのは薬のせいではない。悲しいからだ。
4人がかりで壊された日に何度も飲まされた液体を、他でもないソンリェンに再び飲まされたことがショックだった。
「なんで、なん……でぇ」
「なんで、ねえ」
抱え込むように肩を抱かれ、額をこつりと合わされる。
「俺のもンじゃねえっつったな、お前」
するりと唇に這わされた指は、優しさとは程遠い。
「じゃあ壊すしかねえだろ……?」
昏いソンリェンの瞳から、視線を外すこともできない。
外せば最後、喉元から食らい尽くされそうだった。
「玩具以下にしてやるよ」
それは、トイにとって死刑宣告だった。
苛烈な炎が彼の瞳の奥でくすぶっている。ソンリェンは本気だ。本気でトイを壊す気だ。
あの日のように、トイをめちゃくちゃにする気だ。
「ハイデン、ここで降ろせ」
「ソンリェン様、ですが」
「降ろせ、と言っている。聞こえなかったのか」
使用人の名前はハイデンと言うらしいが、そんなことはどうでもいい。
「た……たす」
助けてほしくて前の席に腕を伸ばそうとしたが難なく捕らえられ、さらに抱え込まれる。身体に力が入らないから抵抗できない。
「戻ってくるまでここにいろ」
使用人が僅かに躊躇してから、諦めたように車を止めた。
膝裏に腕を差し込まれ身体が浮いた。そのままソンリェンに抱え上げられ車外に出される。夕日の赤が目に痛い。
近くに雑木林があった。ここはどこだろうか、見たことのない場所だ。
歩き始めたソンリェンの振動さえも体に響く。ざわざわとした感覚にトイはソンリェンの腕の中で身体を丸めるしかなかった。
林の中の、薄っすらとした小道をソンリェンは進んで行った。
時々揺れるのは道が舗装されていないからだろうか、周囲を確認する余裕などなかった。だからそれなりに長い時間をかけてそこに辿り着くまで、トイはソンリェンがどこで何をしようとしてるのかもわからなかった。
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