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過去
94.
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だが、明日の休日トイはソンリェンたちに壊される。
別に何とも思わないし、止めようとも思わない。ロイズが死ぬまで壊そうと提案したのならそうなるだろうし、自分も混ざるだろう。
死なないまでも遊びつくしてどこかに捨てるのであれば、壊れた子どもを欲しがる好色な金持ちがいれば交渉の道具として譲るのも一つの道だろう。
どちらにせよ、トイは文字を覚えたようだが使う道はもう来ない。この1年と数ヶ月の間の子どもなりの学びは全くの無意味だったというわけだ。
アホらしい独り相撲をよくもまあ続けてきたものだ。
ぽとりと、固まった煙草の灰を灰皿に落とす。
「くだんねえな」
レオがだろう? と肩を寄せてきたが全く聞いていなかった。くだらないと思ったのはトイに対してだ。壊されるだけの運命だったと言うのに無駄な時間過ごしたなと。
窓の外は夜だった。が、月の光は差し込んで来ない。
雲行きがあやしい、明日は雨になるかも知れないと思った。
この時、なぜ一度目のトイの逃亡劇にここまで腹が立ったのか。
初めて輪姦した時、トイの真っ赤な瞳に身体の奥が疼いたのか。
怪我だらけのトイに、気色悪いと思いつつ触れることを止めなかったのか。
牢の中から自分だけを求めるトイの姿に興奮したのか。
トイのほっとした表情から目が離せなかったのか。
今、文字を覚えたトイのことを考えたのか。
これらの理由に気がついていればよかったのかも知れない。基本的に女性の体にしか性欲を覚えないソンリェンが、トイが声変わりしようとも飽きなかったのはどうでもよかったからなのではなく。
そんなもの気にもならなかったからなのだと気づいたのは、トイをなんの躊躇もなく壊して捨てた後になってからだった。
****
トイは壊れた。無残な姿で。
最後にトイを壊した日のことを、ソンリェンはよく覚えていた。予想した通り雨の日だった。
覚えていたというよりも思い出したと言うべきだろうか。
それとも事が過ぎ去ってから、あの時壊したトイの無残な肢体を思い出すたびに自分の行った行為の一つ一つが脳裏に蘇っては夢見が悪くなる、と言った方が正しいのだろうか。
どれであったとしても、救いようがないことには変わりはない。
トイが泣く。トイが、ほっとする。トイが吐く。トイが痛がる。トイが喘ぐ。トイが絶叫する。トイが痙攣する。トイが許してと泣く。トイの呼吸が、短くなる。トイが動かなくなる。トイの夕暮れ色の瞳が、星の見えない夜になる。
──トイが泣く。トイが。
「……くそ」
今日はいつにもまして夢見が悪かった。最悪の目覚めだった。寝汗をたっぷりとかいていた。起き上がり前髪をくしゃりと搔き上げれば額まで湿っていた。
静かに息を吸って、辺りを見回す。大きな窓から差し込む緩い光に目を細める。朝だった。
学院を途中で辞め、学生時代を過ごしたあの屋敷を出て生まれ育った屋敷に戻って父親から事業を引き継ぐ準備を初めて、もう4ヶ月目だ。
日々は目まぐるしく移ろう。急激にこれまで以上の知識を詰め込んでいるので覚えることも多くある。こうして休んでいる時間も惜しいくらいだ。現に今とて仕事部屋のデスクの上で目が覚めた。どうやら今夜はここで寝てしまったようだった。無理な体勢で長時間睡眠を取っていたため、背中の痛みが酷い。
「失礼します、ソンリェン様」
丁度いいタイミングで扉を叩いてきた使用人に入るように促す。朝食にはまだ早い。取り敢えず寝覚めのコーヒーでも持ってきてくれたのかと予想するが外れた。だが外れてよかった。
「なんだ」
「子どもの居場所を見つけました」
「──あ?」
それはコーヒーよりも、望んでいた情報だった。
そして聞き間違いだと思った。思わず書類片手に硬直してしまうほどに動揺した。
使用人のいう子どもというのは一人しかいない。ソンリェンが探せと指示を出していた対象だ。だがあまりにも唐突過ぎて現実味がなかった。
だから、取り敢えず一番重要なことだけを確認した。
「生きてんのか」
「はい」
あまりにも簡単な返答だったがソンリェンにとってはとてつもなく大きな一言だった。
どっと、体から力が抜けた。
書類をデスクに戻して、額に組んだ手を押し付けて暫く目を閉じる。
写真を渡しているので間違いはないはずだ。ここまで月日が経ってしまったので、遺体が埋葬されている場所を見つけましたと報告を受けるばかりだと思っていたのに。
生きていた。トイが、生きている。
殺してなかった。
「なん……で、生きてんだ」
あの状態で。額に押し付けた手は震えていた。
別に何とも思わないし、止めようとも思わない。ロイズが死ぬまで壊そうと提案したのならそうなるだろうし、自分も混ざるだろう。
死なないまでも遊びつくしてどこかに捨てるのであれば、壊れた子どもを欲しがる好色な金持ちがいれば交渉の道具として譲るのも一つの道だろう。
どちらにせよ、トイは文字を覚えたようだが使う道はもう来ない。この1年と数ヶ月の間の子どもなりの学びは全くの無意味だったというわけだ。
アホらしい独り相撲をよくもまあ続けてきたものだ。
ぽとりと、固まった煙草の灰を灰皿に落とす。
「くだんねえな」
レオがだろう? と肩を寄せてきたが全く聞いていなかった。くだらないと思ったのはトイに対してだ。壊されるだけの運命だったと言うのに無駄な時間過ごしたなと。
窓の外は夜だった。が、月の光は差し込んで来ない。
雲行きがあやしい、明日は雨になるかも知れないと思った。
この時、なぜ一度目のトイの逃亡劇にここまで腹が立ったのか。
初めて輪姦した時、トイの真っ赤な瞳に身体の奥が疼いたのか。
怪我だらけのトイに、気色悪いと思いつつ触れることを止めなかったのか。
牢の中から自分だけを求めるトイの姿に興奮したのか。
トイのほっとした表情から目が離せなかったのか。
今、文字を覚えたトイのことを考えたのか。
これらの理由に気がついていればよかったのかも知れない。基本的に女性の体にしか性欲を覚えないソンリェンが、トイが声変わりしようとも飽きなかったのはどうでもよかったからなのではなく。
そんなもの気にもならなかったからなのだと気づいたのは、トイをなんの躊躇もなく壊して捨てた後になってからだった。
****
トイは壊れた。無残な姿で。
最後にトイを壊した日のことを、ソンリェンはよく覚えていた。予想した通り雨の日だった。
覚えていたというよりも思い出したと言うべきだろうか。
それとも事が過ぎ去ってから、あの時壊したトイの無残な肢体を思い出すたびに自分の行った行為の一つ一つが脳裏に蘇っては夢見が悪くなる、と言った方が正しいのだろうか。
どれであったとしても、救いようがないことには変わりはない。
トイが泣く。トイが、ほっとする。トイが吐く。トイが痛がる。トイが喘ぐ。トイが絶叫する。トイが痙攣する。トイが許してと泣く。トイの呼吸が、短くなる。トイが動かなくなる。トイの夕暮れ色の瞳が、星の見えない夜になる。
──トイが泣く。トイが。
「……くそ」
今日はいつにもまして夢見が悪かった。最悪の目覚めだった。寝汗をたっぷりとかいていた。起き上がり前髪をくしゃりと搔き上げれば額まで湿っていた。
静かに息を吸って、辺りを見回す。大きな窓から差し込む緩い光に目を細める。朝だった。
学院を途中で辞め、学生時代を過ごしたあの屋敷を出て生まれ育った屋敷に戻って父親から事業を引き継ぐ準備を初めて、もう4ヶ月目だ。
日々は目まぐるしく移ろう。急激にこれまで以上の知識を詰め込んでいるので覚えることも多くある。こうして休んでいる時間も惜しいくらいだ。現に今とて仕事部屋のデスクの上で目が覚めた。どうやら今夜はここで寝てしまったようだった。無理な体勢で長時間睡眠を取っていたため、背中の痛みが酷い。
「失礼します、ソンリェン様」
丁度いいタイミングで扉を叩いてきた使用人に入るように促す。朝食にはまだ早い。取り敢えず寝覚めのコーヒーでも持ってきてくれたのかと予想するが外れた。だが外れてよかった。
「なんだ」
「子どもの居場所を見つけました」
「──あ?」
それはコーヒーよりも、望んでいた情報だった。
そして聞き間違いだと思った。思わず書類片手に硬直してしまうほどに動揺した。
使用人のいう子どもというのは一人しかいない。ソンリェンが探せと指示を出していた対象だ。だがあまりにも唐突過ぎて現実味がなかった。
だから、取り敢えず一番重要なことだけを確認した。
「生きてんのか」
「はい」
あまりにも簡単な返答だったがソンリェンにとってはとてつもなく大きな一言だった。
どっと、体から力が抜けた。
書類をデスクに戻して、額に組んだ手を押し付けて暫く目を閉じる。
写真を渡しているので間違いはないはずだ。ここまで月日が経ってしまったので、遺体が埋葬されている場所を見つけましたと報告を受けるばかりだと思っていたのに。
生きていた。トイが、生きている。
殺してなかった。
「なん……で、生きてんだ」
あの状態で。額に押し付けた手は震えていた。
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