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初めての友達
52.
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興奮しすぎてバカみたいに声を張り上げてしまった。これは絶対に怒鳴られる。
首を竦め、顔を隠すように大きな袋をぎゅっと抱きしめ視線を彷徨わせた。ソンリェンは未だに口を半開きにしてトイを凝視しているが、その瞳が忌々し気に細められ『いきなり大声で喚くな、うるせえんだよ』とテーブルに頭を叩きつけられるのは直ぐだと、思っていたのだが。
「……お前」
予想外に、ソンリェンの第一声は罵声ではなかった。
「お前、それ好きなのか」
「え? あ……」
それ、というのはトイが手にしているふわがしのことだろう。どう答えるべきかと言い淀む。ソンリェンは未だに寝ぼけているのか、どこか呆けたような表情のままトイから視線を逸らさない。
普段滅多に見られないその顔があまりにも珍しくて、トイは緊張していたことも忘れた。
「ええ、と。好き、っていうか」
丁度、友達になったディアナが食べたいと言っていたものだから。
だが間違っていたらとんだ大恥だ。
「これ、ふわがし、だよな」
「そうだ」
トイを見つめながら頷く姿も、どこか神妙だった。
「あ……食べてみたいなって、思ってた、から、その……うれしくて……ありが、とう……」
目の前にいるソンリェンの一挙一動が珍しすぎてつい素直にお礼を口にしてしまっていた。もちろん、最後の方は尻すぼみだったけれども。
ソンリェンの瞳が、ゆっくりと見開かれた。待っていたのは沈黙だった。微動だにしないソンリェンに穴が開くほど見つめられてトイは袋をきゅっと握りしめた。
ソンリェンの様子は明らかに変だ。嫌な気分にさせてしまったのかもしれない。
トイは言わなきゃよかったと直ぐに後悔した。ソンリェンがこれをトイのために買ってきたという保証もないのに。それにソンリェンには挨拶どころか、こんな感謝の言葉などを述べたこともない。訝しがられるのも当然だ。
「ご、ごめんなさい……なんでも、ない」
何とも言えない空気に耐え切れなくなったトイは、そろりと後ずさり手にしていた袋をテーブルに戻そうとしたのだが。
唐突に動いたソンリェンに腕を捕らえられ、引き寄せられる。
ぐいと唇に当てられたものに目を剥いた。
「え……んむ」
ソンリェンがふわがしを小さく引きちぎり、トイの唇に押し付けてきたのだ。じっと見つめてくる瞳はやはり逸らされない。食え、ということだろうか。
吐いてしまったらどうしようと戦々恐々としながら、はむ、と柔らかなそれを口にして驚いた。唇をくすぐってくるのは優しい甘味。さらに口の中に招き入れてみると、あっと言う間にほどけて消えてしまった。しかししっかりとしたまろやかな甘さだけは舌に残った。
なんだこれはと衝撃的な触感にぽかんとソンリェンを見るとさらにそれを押し込まれた。慌てて二口目を食む。また消えてなくなった。
ざらざらと舌に残る感触は砂糖だからだろうか。美味しい、と脳が判断する前に残りのそれも自分から食べてしまう。柔らかなそれはあっと言う間にトイの口の中で全て溶けてしまった。なんだか頭の中もふわふわする。こんなお菓子は初めて食べた。ディアナが大好きと言っていた意味がわかる。
もっと食べたくて口の中に差し込まれた固い異物に舌を這わせる。それがソンリェンの指だと気づいたのは彼の指についた甘みを全て舐め終えてからだった。
「あ、まぁい……」
ほう、と恍惚としたため息をつく。もったいなくて舌についた砂糖もぺろりと舐めとる。ソンリェンの前だというのに食べ物の味がぼやけないし、食べても気持ち悪くならなかった。
がたんと椅子が壁にぶつかるくらいの勢いで、ソンリェンが弾かれたように立ち上がった。
驚いて顔をあげる。
トイを凝視しながら迫ってくる様はどこか鬼気迫るものがあった。時々見え隠れしていた、飢えた獣のような瞳だ。
「あ……あの、そんりぇ……ん、ぅ……っ」
言い終える前に、ぐいと頭の後ろを鷲掴まれ真上から強く唇を重ねられた。
首を竦め、顔を隠すように大きな袋をぎゅっと抱きしめ視線を彷徨わせた。ソンリェンは未だに口を半開きにしてトイを凝視しているが、その瞳が忌々し気に細められ『いきなり大声で喚くな、うるせえんだよ』とテーブルに頭を叩きつけられるのは直ぐだと、思っていたのだが。
「……お前」
予想外に、ソンリェンの第一声は罵声ではなかった。
「お前、それ好きなのか」
「え? あ……」
それ、というのはトイが手にしているふわがしのことだろう。どう答えるべきかと言い淀む。ソンリェンは未だに寝ぼけているのか、どこか呆けたような表情のままトイから視線を逸らさない。
普段滅多に見られないその顔があまりにも珍しくて、トイは緊張していたことも忘れた。
「ええ、と。好き、っていうか」
丁度、友達になったディアナが食べたいと言っていたものだから。
だが間違っていたらとんだ大恥だ。
「これ、ふわがし、だよな」
「そうだ」
トイを見つめながら頷く姿も、どこか神妙だった。
「あ……食べてみたいなって、思ってた、から、その……うれしくて……ありが、とう……」
目の前にいるソンリェンの一挙一動が珍しすぎてつい素直にお礼を口にしてしまっていた。もちろん、最後の方は尻すぼみだったけれども。
ソンリェンの瞳が、ゆっくりと見開かれた。待っていたのは沈黙だった。微動だにしないソンリェンに穴が開くほど見つめられてトイは袋をきゅっと握りしめた。
ソンリェンの様子は明らかに変だ。嫌な気分にさせてしまったのかもしれない。
トイは言わなきゃよかったと直ぐに後悔した。ソンリェンがこれをトイのために買ってきたという保証もないのに。それにソンリェンには挨拶どころか、こんな感謝の言葉などを述べたこともない。訝しがられるのも当然だ。
「ご、ごめんなさい……なんでも、ない」
何とも言えない空気に耐え切れなくなったトイは、そろりと後ずさり手にしていた袋をテーブルに戻そうとしたのだが。
唐突に動いたソンリェンに腕を捕らえられ、引き寄せられる。
ぐいと唇に当てられたものに目を剥いた。
「え……んむ」
ソンリェンがふわがしを小さく引きちぎり、トイの唇に押し付けてきたのだ。じっと見つめてくる瞳はやはり逸らされない。食え、ということだろうか。
吐いてしまったらどうしようと戦々恐々としながら、はむ、と柔らかなそれを口にして驚いた。唇をくすぐってくるのは優しい甘味。さらに口の中に招き入れてみると、あっと言う間にほどけて消えてしまった。しかししっかりとしたまろやかな甘さだけは舌に残った。
なんだこれはと衝撃的な触感にぽかんとソンリェンを見るとさらにそれを押し込まれた。慌てて二口目を食む。また消えてなくなった。
ざらざらと舌に残る感触は砂糖だからだろうか。美味しい、と脳が判断する前に残りのそれも自分から食べてしまう。柔らかなそれはあっと言う間にトイの口の中で全て溶けてしまった。なんだか頭の中もふわふわする。こんなお菓子は初めて食べた。ディアナが大好きと言っていた意味がわかる。
もっと食べたくて口の中に差し込まれた固い異物に舌を這わせる。それがソンリェンの指だと気づいたのは彼の指についた甘みを全て舐め終えてからだった。
「あ、まぁい……」
ほう、と恍惚としたため息をつく。もったいなくて舌についた砂糖もぺろりと舐めとる。ソンリェンの前だというのに食べ物の味がぼやけないし、食べても気持ち悪くならなかった。
がたんと椅子が壁にぶつかるくらいの勢いで、ソンリェンが弾かれたように立ち上がった。
驚いて顔をあげる。
トイを凝視しながら迫ってくる様はどこか鬼気迫るものがあった。時々見え隠れしていた、飢えた獣のような瞳だ。
「あ……あの、そんりぇ……ん、ぅ……っ」
言い終える前に、ぐいと頭の後ろを鷲掴まれ真上から強く唇を重ねられた。
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