トイの青空

宝楓カチカ🌹

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前兆

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 ソンリェンはそもそも人と接触することが好きではない。

 愛人関係の女たちとだって、そこまでベタベタ触れ合うこともしない。終わった後は相手の気持ちなどお構いなしに同じベッドで眠ることもせずさっさと帰るのだ。
 他愛もない会話をしながら朝まで共に寝るのが至福なのだとレオが教えてやっても、何が楽しいのかと言わんばかりに不愉快そうに眉根を顰めていた。
 長年友好関係を持続させていたレオたちだって、むやみやたらとソンリェンに触れることはできない。ましてや数いる女性の一人なんてソンリェンにとっては性欲を発散するための対象にしか過ぎないはずだ。
 彼ほど、恋愛や可愛らしい恋心という言葉が似合わない男はいない。ああして、まるで恋人に対するような行動を取ること自体あり得ないのだ。
 そう、今までの彼であれば。
「あー……、やっぱ女だったっぽいな」
「女って、この前言ってたソンリェンの本命、とかいう話のこと?」
「いやだって。どう考えてもそうじゃねえ?」
 そうであればここ最近ソンリェンの態度がおかしかった理由も頷ける。そしてレオたちと関わらないようにしていた理由も。
 今までの彼ではあり得ないことを、今まさにレオたちの目の前でしているのだから。
「お、見えなくなる。追っかけてみようぜ」
「で、でもさぁ……もしかして、ソンリェンの父親の手前さ、丁寧に扱わないといけない女とかの場合もあるんじゃないの? ほら、前にジャニスとかいたじゃぁん」
 人の波を避けつつ、歩いてく二人を追う。
 エミーの呼び方が女の子から女というそれに変わったことで、彼の動揺と機嫌の悪さを伺い知る。
 たとえ丁寧に扱うべき相手であってもソンリェンは今のような態度は誰に対しても取らないだろう。ましてや自分から手を握りしめ、並んで歩こうとするなどあり得ない。
 ジャニスとかいう女性に対しても、父親の手前それなりにエスコートこそすれ腕を組むなんてことはしなかった。そして最後は面倒くさくなって放置さえしていた。
 エミーも頭のどこかでは何かがおかしいことはわかっているのだろうが、認めたくないのだろう。

 誰にも関心がなかったソンリェンが。道端で誰が野垂れ死のうが鼻で笑いもせず無視をするであろうソンリェンが。自分勝手極まりなかったソンリェンが。
 自分たちとは違う、『普通』の人間になってしまうことが。

 ふいに、前を歩いていた二人が向き合った。何やら口論をしているようにも見える。少女が弾かれたようにソンリェンの手を振り払った。
「あ」
「うへー」
 案の定かっと苛立ちを顔に滲ませたソンリェンは、怒りの形相のまま青ざめ後ずさった少女の腕を力づくで掴み上げ、路地裏へ引きずり込んで行った。
 エミーをちらりと見下ろせば、突然の事態に驚きつつも口元を綻ばせている。
 今のソンリェンの顔を見ればこれからソンリェンから与えられる仕打ちにあの少女がどんな末路を迎えるのかなんて、考えるだけ無駄だ。この辺りでソンリェンの家に逆らえるものは、エミーとロイズの家ぐらいだ。ちなみにレオは逆らえない。
 ソンリェンは苛立ちを隠すような男ではない。その上、男であれ女であれ相手に腹が立てば直ぐに怒りをぶつけるような男だ。格式が高い相手に対してであればそうもいかないだろうが、どう見たってあの少女はソンリェンよりも財を持っているような相手には見えない。
 遠いためよく見えないが服装も貧民層の人間らしくみすぼらしいことだけはわかる。そこにソンリェンの高級そうなストールが巻かれているものだからアンバランスさが極まっているくらいだ。
 二人が消えていった路地裏を見つけ、こそこそと進んで行く。
 よりにもよってあのソンリェンの腕を振り払うという暴挙を仕出かした子どもだ、予想が正しければ今頃ソンリェンは少女を容赦なく蹴り飛ばすか殴りつけるかをしているはず、だったのだが。

 聞こえてきたのは殴打の陰惨な音ではなく、鼻にかかるような甘ったるい声だった。

 
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