100 / 202
前兆
100.
しおりを挟むソンリェンはそもそも人と接触することが好きではない。
愛人関係の女たちとだって、そこまでベタベタ触れ合うこともしない。終わった後は相手の気持ちなどお構いなしに同じベッドで眠ることもせずさっさと帰るのだ。
他愛もない会話をしながら朝まで共に寝るのが至福なのだとレオが教えてやっても、何が楽しいのかと言わんばかりに不愉快そうに眉根を顰めていた。
長年友好関係を持続させていたレオたちだって、むやみやたらとソンリェンに触れることはできない。ましてや数いる女性の一人なんてソンリェンにとっては性欲を発散するための対象にしか過ぎないはずだ。
彼ほど、恋愛や可愛らしい恋心という言葉が似合わない男はいない。ああして、まるで恋人に対するような行動を取ること自体あり得ないのだ。
そう、今までの彼であれば。
「あー……、やっぱ女だったっぽいな」
「女って、この前言ってたソンリェンの本命、とかいう話のこと?」
「いやだって。どう考えてもそうじゃねえ?」
そうであればここ最近ソンリェンの態度がおかしかった理由も頷ける。そしてレオたちと関わらないようにしていた理由も。
今までの彼ではあり得ないことを、今まさにレオたちの目の前でしているのだから。
「お、見えなくなる。追っかけてみようぜ」
「で、でもさぁ……もしかして、ソンリェンの父親の手前さ、丁寧に扱わないといけない女とかの場合もあるんじゃないの? ほら、前にジャニスとかいたじゃぁん」
人の波を避けつつ、歩いてく二人を追う。
エミーの呼び方が女の子から女というそれに変わったことで、彼の動揺と機嫌の悪さを伺い知る。
たとえ丁寧に扱うべき相手であってもソンリェンは今のような態度は誰に対しても取らないだろう。ましてや自分から手を握りしめ、並んで歩こうとするなどあり得ない。
ジャニスとかいう女性に対しても、父親の手前それなりにエスコートこそすれ腕を組むなんてことはしなかった。そして最後は面倒くさくなって放置さえしていた。
エミーも頭のどこかでは何かがおかしいことはわかっているのだろうが、認めたくないのだろう。
誰にも関心がなかったソンリェンが。道端で誰が野垂れ死のうが鼻で笑いもせず無視をするであろうソンリェンが。自分勝手極まりなかったソンリェンが。
自分たちとは違う、『普通』の人間になってしまうことが。
ふいに、前を歩いていた二人が向き合った。何やら口論をしているようにも見える。少女が弾かれたようにソンリェンの手を振り払った。
「あ」
「うへー」
案の定かっと苛立ちを顔に滲ませたソンリェンは、怒りの形相のまま青ざめ後ずさった少女の腕を力づくで掴み上げ、路地裏へ引きずり込んで行った。
エミーをちらりと見下ろせば、突然の事態に驚きつつも口元を綻ばせている。
今のソンリェンの顔を見ればこれからソンリェンから与えられる仕打ちにあの少女がどんな末路を迎えるのかなんて、考えるだけ無駄だ。この辺りでソンリェンの家に逆らえるものは、エミーとロイズの家ぐらいだ。ちなみにレオは逆らえない。
ソンリェンは苛立ちを隠すような男ではない。その上、男であれ女であれ相手に腹が立てば直ぐに怒りをぶつけるような男だ。格式が高い相手に対してであればそうもいかないだろうが、どう見たってあの少女はソンリェンよりも財を持っているような相手には見えない。
遠いためよく見えないが服装も貧民層の人間らしくみすぼらしいことだけはわかる。そこにソンリェンの高級そうなストールが巻かれているものだからアンバランスさが極まっているくらいだ。
二人が消えていった路地裏を見つけ、こそこそと進んで行く。
よりにもよってあのソンリェンの腕を振り払うという暴挙を仕出かした子どもだ、予想が正しければ今頃ソンリェンは少女を容赦なく蹴り飛ばすか殴りつけるかをしているはず、だったのだが。
聞こえてきたのは殴打の陰惨な音ではなく、鼻にかかるような甘ったるい声だった。
11
お気に入りに追加
668
あなたにおすすめの小説
社長の奴隷
星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)
大親友に監禁される話
だいたい石田
BL
孝之が大親友の正人の家にお泊りにいくことになった。
目覚めるとそこは大型犬用の檻だった。
R描写はありません。
トイレでないところで小用をするシーンがあります。
※この作品はピクシブにて別名義にて投稿した小説を手直ししたものです。
性的イジメ
ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。
作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。
全二話 毎週日曜日正午にUPされます。
ずっと女の子になりたかった 男の娘の私
ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。
ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。
そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる