トイの青空

宝楓カチカ🌹

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勇敢な子豚

31.

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「……は」
 数秒の沈黙の後、ソンリェンが一つ嘲笑を零し、堪えきれなかったのくつくつと喉を震わせ始めた。拒んでしまったことが恐くて、さらに顔を背けてしまう。
 乱暴にぐいっと頭を引き寄せられ、髪をかき分けるように耳朶に唇がぴったりとくっつけられた。ふるふると震えるトイにソンリェンは荒く吐き捨てた。
「避けやがって」
「ご、ごめんな、さ」
「自惚れてんじゃねえ、誰がてめえにキスなんかするかよ」
「ひ……ぁッ……!」
 人形のように抱え込まれ、激情のまま激しく下から突き上げられる。
「ぁっあ、こ、壊れ……こわれ、る……ぅッ……」
「は、壊れろ……死ね」
 心の底から蔑む温度で囁かれ歯が噛み合わなくなる。このまま突き破られて殺されるかもしれない。
 もしトイがこのまま死んだとしても、世界は何も変わらないのだろう。
 悪魔なようなソンリェンも彼らも生き続けるだろうし、天使のように優しい育児院の子供たちも元気に暮らしていく。ふと、育児院で手に取った腕のほつれた人形を思い出した。あれは、トイだった。今頃シスターが、あの人形の腕を縫ってくれているのだろう。
「ぁ、あ゛ぁあ、あ、ぐ」
「泣け」
 自然とソンリェンの肩にしがみついていた。縋りたいわけではないけれど、トイを救えるのは目の前のソンリェンしかいないのだ。
「や、ら、ぁああ、あ、ひんっ」
 男根に狭い窄まりを押し広げられ、柔い奥の肉壁の至る所を突かれる。肉壁を吸い出すようにずるっと引き抜かれ、また入れられて、かき回されて、引き抜かれる。
 延々とそれを繰り返される。重力に逆らうように中を荒らされ、快楽も何もない、ただ痛いだけの時間が過ぎていく。
「泣き叫べよ……てめえなんか」
「んっ、ぐ、んぅ」
「ただの、玩具だろうが」
 ソンリェンの暴言がナイフのように心に傷を残していく。トイは彼の言う通り生きた玩具だった。スラム育ちで友達も家族もいない意味のない存在だ。



 トイ、という名前はトイ自身が自分につけた。ゴミ捨て場でお金になる何かを漁っていた時、捨てられくたびれた人形から目が離せなくなった。
 綺麗に巻かれた金色の髪も汚れ、かつては透き通るように綺麗だったであろう青い瞳も薄く濁り変色していた。売り物にもならなそうなそれは、手足も千切れ服もボロボロで無残な状態だった。
 少年なのか少女を模したものなのかも判別がつかなくなっていたそれは、トイが生きていく上では確実に不必要なものだった。
 けれどもなんとなく気になって、持ち帰ってしまったのだ。
 人形の脚に何か文字が書かれてあった。まだ字が読めなかった頃だったので、通りすがりの女性に読んでもらった。
 いかにも浮浪児の格好をしたトイに女性は顔をしかめたが、流石に哀れに思ったのか描かれた文字を教えてくれた。読み方は「トイ」だった。外国の文字らしい。
 けれどもそれが何を差すものなのかはわからなくて、てっきりこの人形の名前が「トイ」なのだと思った。だから、自分にも同じ名前をつけたのだ。
 トイの目は赤色で、移民の血が色濃く残る廃れた錆のような色だ。だから、今は汚らしいがかつてはとても綺麗な風体だったであろう外国の人形に対する憧れがあった。
 その人形と、ソンリェンの目の色は一緒だった。だから、トイは──



「おい集中しろ」
「ぁッ……」
 ずっずっずっと断続的に内壁を捲られ、どんどんと突き上げが早くなっていく。
 摩擦で結合部が燃えてしまいそうだった。律動に合わせて体の中でソンリェンものが徐々に膨らみ始める。と同時に、ソンリェンに揺さぶられるたびに互いの密着した腹の間で擦られ続けたトイの男芯も、緩く起ち上がり冷たい蜜を零していた。
 きっと接合部分は飛び散るような赤色とトイの体液にまみれ凄いことになっているのだろう。もう痛みの感覚すらも遠くなっていく気がする。トイはもう、意識を繋ぎとめるだけで精一杯だった。
「ぅ゛ッ……!」
 最後に首筋に噛みつかれながら、がんっと身体が跳ね上がるほど奥を抉られ逃げられぬように強くかき抱かれる。
「ふ……やァ」
 ソンリェンの大きな体がぶるりと震え、子宮の中でソンリェンの肉が弾けた。
 じわじわと奥が冷たくなって、重力に従った体液がとろとろと零れていく。何度も小刻みに揺すられて、どくどくと残りの残液も余すことなく注がれる。
 トイも断末魔のような悲鳴を上げたが、それはとてもか細いものでソンリェンの厚い肩に全て吸い込まれてしまった。
「くそ、玩具のくせに熱いんだよ……お前の体」
 けほ、と咳き込みそのままソンリェンにしだれかかる。もう腕も足も動かない。ぬるりと濡れた腹部は、知らず知らずのうちに緩く吐き出してしまったトイの精液だったのか、互いの汗だったのか。
「ぃた、……」
 汚いと引きはがされるかと思ったけど、拒まれることはなかった。それどころかより一層腕の中に閉じ込められて、密着した大きな身体から熱い体温を感じた。
 ソンリェンは普段そこまで体温は高くないのに、とそこまで考えて違うと心の中で首を振る。服越しではあれど、彼の体温をこんなに近くに感じるほど彼の身体に触れたことがなかったのだ。
 どくどくと激しく軋む心音に、ソンリェンも人間であったことを思い出す。同じ人間なのに、トイとは全てが違う。こんな風に惨めに犯されることしか出来ないトイとは。
 最後にもう一度、痛い、と呟いてトイは目を閉じた。どろどろとした感覚に引きずられるように意識を手放す。
 身体も心も、全てが痛かった。疲れ果てていた。

「トイ」

 だから、最後に耳に囁かれた掠れたソンリェンの声も幻聴なのだと思った。


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