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五年前──18
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ねっとりとした視線に頭から足の先までを往復される。
服を着ているはずなのにまるで裸体をのぞかれているような錯覚に陥った。
思わず、ぎゅっと胸の布地を掴んで琉笑夢の視線から体を隠そうとしてしまった。
『全部全部、俺のものにしたいって』
自然と下がった目線に、琉笑夢の下半身がしっかりと反応し盛り上がっている光景が飛び込んできた。
生地越しからもその硬さがわかる。見てはいけないものを見た気がして思わず視線を逸らす。
だが、琉笑夢は春人の逃げを決して許さなかった。
『なに目え逸らしてんだよ、好きな奴の側にいたらこうなんのは当たり前だろ。今更だから』
琉笑夢は、興奮していることは何ら恥でもないとでもいうように堂々としていた。ただまっすぐに春人を見ている。
昔からそうだ。琉笑夢が春人から視線を逸らすことはない。叱られている最中であっても自分だけを視界にいれる春人が嬉しくて仕方がないのとでもいうように、見つめてくる。
いつもいつも春人だけを。
『それなのに何、年上がいいって? 俺みたいな年下より、あんなババアが』
『だ……だから、今のは違うって言ってんじゃんか。それと、人のことそんな風に言うな』
『違わねえじゃん、俺にはあのババアのこと何も言ってくれなかったくせに』
それは、質問をするためだとは言え頻繁に彼女と連絡を取っていることが琉笑夢にバレれば機嫌を損ねると思ったからだ。
それなのにどうして、申し訳ないような、後ろめたいような気持ちになってしまうのだろう。
『春にいにとっての俺ってなに』
答えられなかった。
琉笑夢のことは可愛いとは思っている。慈しみたいとも思っている。噛まれてもベタベタされても嫌ではない。
だがそれは果たして慣れなのか、弟に対する愛情なのか、それとも別の感情からきているものなのかが自分でもわからなかった。
わからぬまま何年も琉笑夢に甘えられ、甘やかし、春人なりに大切に接してきた。何より、『おまえは今日から、オレの弟な』と幼かった琉笑夢に先に告げたのは春人の方なのだ。
『……言わねえの、弟みたいに思ってるって。優しいもんな、春にいは』
『違う、そんなんじゃねえよ』
『何が違えんだよ。じゃあ一回ぐらい俺に犯されてくれる? 背も春にいよりでかくなったことだしさ』
そんなの尚更、答えられるわけがない。
『そしたらそれネタにおまえのこと脅して俺のものにするから。お兄ちゃんみたいに懐いてた野郎に脅されて関係を持たされましたって。俺可愛いし、大人だから春にいの方が逮捕されちゃうね』
『……琉笑夢!』
『そんな子に育てた覚えはありませんって? は、くだんねー』
独り言のように悪態をついた琉笑夢は直ぐにベッドから降り、びくりと肩を震わせた春人の隣を顔色一つ変えずに通り過ぎた。
引き止めることはできなかった。
『どうせ春にいは捕まっても俺のこと庇うんだろうな、可愛い可愛い弟守るために悪いのは自分だって言ってさ。馬鹿じゃねえの、アンタのそういうとこほんと無理』
かちゃりと部屋の扉が開けられる音がしてやっと硬直が解けた。振り向けば、同じく振り向いて春人を見つめていた琉笑夢と目が合った。
『いつまでも兄貴面してんじゃねえよ』
決定的なことを言われて、呼吸すらも止まってしまう。
『……どうやったら春にいは、俺のこと見んだよ』
それが、海外へと飛び立つ前に琉笑夢から投げかけられた最後の言葉──いや、「問いかけ」だった。
服を着ているはずなのにまるで裸体をのぞかれているような錯覚に陥った。
思わず、ぎゅっと胸の布地を掴んで琉笑夢の視線から体を隠そうとしてしまった。
『全部全部、俺のものにしたいって』
自然と下がった目線に、琉笑夢の下半身がしっかりと反応し盛り上がっている光景が飛び込んできた。
生地越しからもその硬さがわかる。見てはいけないものを見た気がして思わず視線を逸らす。
だが、琉笑夢は春人の逃げを決して許さなかった。
『なに目え逸らしてんだよ、好きな奴の側にいたらこうなんのは当たり前だろ。今更だから』
琉笑夢は、興奮していることは何ら恥でもないとでもいうように堂々としていた。ただまっすぐに春人を見ている。
昔からそうだ。琉笑夢が春人から視線を逸らすことはない。叱られている最中であっても自分だけを視界にいれる春人が嬉しくて仕方がないのとでもいうように、見つめてくる。
いつもいつも春人だけを。
『それなのに何、年上がいいって? 俺みたいな年下より、あんなババアが』
『だ……だから、今のは違うって言ってんじゃんか。それと、人のことそんな風に言うな』
『違わねえじゃん、俺にはあのババアのこと何も言ってくれなかったくせに』
それは、質問をするためだとは言え頻繁に彼女と連絡を取っていることが琉笑夢にバレれば機嫌を損ねると思ったからだ。
それなのにどうして、申し訳ないような、後ろめたいような気持ちになってしまうのだろう。
『春にいにとっての俺ってなに』
答えられなかった。
琉笑夢のことは可愛いとは思っている。慈しみたいとも思っている。噛まれてもベタベタされても嫌ではない。
だがそれは果たして慣れなのか、弟に対する愛情なのか、それとも別の感情からきているものなのかが自分でもわからなかった。
わからぬまま何年も琉笑夢に甘えられ、甘やかし、春人なりに大切に接してきた。何より、『おまえは今日から、オレの弟な』と幼かった琉笑夢に先に告げたのは春人の方なのだ。
『……言わねえの、弟みたいに思ってるって。優しいもんな、春にいは』
『違う、そんなんじゃねえよ』
『何が違えんだよ。じゃあ一回ぐらい俺に犯されてくれる? 背も春にいよりでかくなったことだしさ』
そんなの尚更、答えられるわけがない。
『そしたらそれネタにおまえのこと脅して俺のものにするから。お兄ちゃんみたいに懐いてた野郎に脅されて関係を持たされましたって。俺可愛いし、大人だから春にいの方が逮捕されちゃうね』
『……琉笑夢!』
『そんな子に育てた覚えはありませんって? は、くだんねー』
独り言のように悪態をついた琉笑夢は直ぐにベッドから降り、びくりと肩を震わせた春人の隣を顔色一つ変えずに通り過ぎた。
引き止めることはできなかった。
『どうせ春にいは捕まっても俺のこと庇うんだろうな、可愛い可愛い弟守るために悪いのは自分だって言ってさ。馬鹿じゃねえの、アンタのそういうとこほんと無理』
かちゃりと部屋の扉が開けられる音がしてやっと硬直が解けた。振り向けば、同じく振り向いて春人を見つめていた琉笑夢と目が合った。
『いつまでも兄貴面してんじゃねえよ』
決定的なことを言われて、呼吸すらも止まってしまう。
『……どうやったら春にいは、俺のこと見んだよ』
それが、海外へと飛び立つ前に琉笑夢から投げかけられた最後の言葉──いや、「問いかけ」だった。
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