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『diDi』──13
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完全に気が削がれてしまったらしい琉笑夢は、やけに大げさなため息を吐いた。
いつのまにか煙草を吸わない春人の部屋に勝手に備え付けられていた灰皿に煙草がぐりっと押し付けられ、火が消える。
最初からそうすればいいのに。
「わかる? 俺いま、おまえにキスしてんだけど」
「はあ? 何言ってんだそれぐらいわかるわ」
現にだらだらと口の端から二人分の唾涎が垂れてしまっているではないか、しつこくべろべろしやがって。
「ただ、そういうことをする前にちゃんと周りを見ろって言ってんだよ。怪我してからじゃ遅いんだぞ」
「……この鈍感天然野郎が」
濡れた唇を拭いながら注意してやったのに、歯の隙間から唸るように言われて素であ? が出た。
確かに鈴木家の人間は天に然が入っている傾向にある。父親と母親の道子を筆頭に、兄の夏人ものほほんとしているのだ。
だからこそ春人だけはしっかりしなければと、幼い頃はよく自身を律したものだ。
春人よりも大人びていた莉愛は大学卒業とともに年上の彼氏と結婚し、いまでは2児の母だ。同じ大学だった頭のいい莉愛は首席で卒業し、妊娠したお腹で堂々と卒業証書を受け取っていた。
膨らんだ腹と艶やかな袴を着た見た目も派手な莉愛と、びしっと決めたがどう見ても袴に着られているようにしか見えない春人が二人並んで撮った卒業写真を母親はいたく気に入り、今でも実家の居間に飾られている。
莉愛が子どもを連れて遊びに来た時には「いや、これじゃあたしの旦那春じゃん」なんてげらげら笑いながら、第二子がいる腹を柔らかく叩いていた。
ちなみに兄の夏人は半年前にめでたく結婚し婿養子に入り鈴木姓から田中姓へと華麗なる変貌を遂げ、来年の春には子どもも生まれる予定だ。
きっと田中家にも、鈴木家の血が色濃く受け継がれていくに違いない。
「いーやおまえは完全に鈴木家の人間だ」
何も言っていないというのに心の中を読まれてひえっとなる。
「おまえ……こわ」
「怖いのはおまえだ。ほらもっかい見ろ。目開いてよく見ろ、おら」
再び押し付けられた画面に辟易する。だから何度見せられてもわからないというのに。
ヒントがほしくてちらりと琉笑夢をうかがえば、心底呆れたような瞳が春人を見下ろしていた。
「フォロワー数。これでわからなかったら裏垢作っておまえの寝顔晒すから」
「ええ……何が目的だよ」
琉笑夢はいつも最後の一言が余計だ。
だが、言ってやりたいことは山ほどあったがせっかく与えられたヒントを無碍にしてこれ以上不機嫌になった琉笑夢に襲われるのも困る。
いいねの数を数えた時のように、今度はフォロワー数を確認してみる。いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん……と数えてやっぱり目が痛くなって、ひゃくまん……ごひゃくまんまでしっかり指さしで数えて頭が痛くなった。
ごひゃくまん飛んで23人……あ、今の瞬間でもう3人増えた。
「お前、人気者だなー」
「で?」
「え、えーっと……」
「わかる? 500万人超えた」
「あ……ああそっか! そういうことか、よかったな夢が叶って」
痺れを切らした琉笑夢にほぼ答えを言われたようなものだが、それを褒めてほしかったのかと理解してさっそく笑う。
フォロワー数500万人超えを目指していたなんて知らなかった。あの琉笑夢がここまで有名になるとはなかなか感慨深いものがある。それに、これで裏垢での晒し行為は免れた。
しかし、せっかく褒めてあげたというのに琉笑夢の機嫌は優れない。それどころか下がっていく。
何が足りないのだろう。
うんと手を伸ばして、長い腕で自分を壁際まで追い詰め覆い被さるように囲い込んでくる青年の頭をよしよしと撫でてやる。
それでも残念なことに琉笑夢の機嫌はよくならず、それどころかさらに彼を纏う温度がしっかり下がってしまった。
もうここまで来たら、さすがの春人でもお手上げだ。
「いや、マジで何を求められてるのかわからん、ごめん」
「ああそう時間切れ、犯す」
「ちょっ──うお!」
ぐいっと首根っこを掴まれて、そのまま隣室までずるずると引きずられてシングルのベッドに放り投げられた。
いつのまにか煙草を吸わない春人の部屋に勝手に備え付けられていた灰皿に煙草がぐりっと押し付けられ、火が消える。
最初からそうすればいいのに。
「わかる? 俺いま、おまえにキスしてんだけど」
「はあ? 何言ってんだそれぐらいわかるわ」
現にだらだらと口の端から二人分の唾涎が垂れてしまっているではないか、しつこくべろべろしやがって。
「ただ、そういうことをする前にちゃんと周りを見ろって言ってんだよ。怪我してからじゃ遅いんだぞ」
「……この鈍感天然野郎が」
濡れた唇を拭いながら注意してやったのに、歯の隙間から唸るように言われて素であ? が出た。
確かに鈴木家の人間は天に然が入っている傾向にある。父親と母親の道子を筆頭に、兄の夏人ものほほんとしているのだ。
だからこそ春人だけはしっかりしなければと、幼い頃はよく自身を律したものだ。
春人よりも大人びていた莉愛は大学卒業とともに年上の彼氏と結婚し、いまでは2児の母だ。同じ大学だった頭のいい莉愛は首席で卒業し、妊娠したお腹で堂々と卒業証書を受け取っていた。
膨らんだ腹と艶やかな袴を着た見た目も派手な莉愛と、びしっと決めたがどう見ても袴に着られているようにしか見えない春人が二人並んで撮った卒業写真を母親はいたく気に入り、今でも実家の居間に飾られている。
莉愛が子どもを連れて遊びに来た時には「いや、これじゃあたしの旦那春じゃん」なんてげらげら笑いながら、第二子がいる腹を柔らかく叩いていた。
ちなみに兄の夏人は半年前にめでたく結婚し婿養子に入り鈴木姓から田中姓へと華麗なる変貌を遂げ、来年の春には子どもも生まれる予定だ。
きっと田中家にも、鈴木家の血が色濃く受け継がれていくに違いない。
「いーやおまえは完全に鈴木家の人間だ」
何も言っていないというのに心の中を読まれてひえっとなる。
「おまえ……こわ」
「怖いのはおまえだ。ほらもっかい見ろ。目開いてよく見ろ、おら」
再び押し付けられた画面に辟易する。だから何度見せられてもわからないというのに。
ヒントがほしくてちらりと琉笑夢をうかがえば、心底呆れたような瞳が春人を見下ろしていた。
「フォロワー数。これでわからなかったら裏垢作っておまえの寝顔晒すから」
「ええ……何が目的だよ」
琉笑夢はいつも最後の一言が余計だ。
だが、言ってやりたいことは山ほどあったがせっかく与えられたヒントを無碍にしてこれ以上不機嫌になった琉笑夢に襲われるのも困る。
いいねの数を数えた時のように、今度はフォロワー数を確認してみる。いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん……と数えてやっぱり目が痛くなって、ひゃくまん……ごひゃくまんまでしっかり指さしで数えて頭が痛くなった。
ごひゃくまん飛んで23人……あ、今の瞬間でもう3人増えた。
「お前、人気者だなー」
「で?」
「え、えーっと……」
「わかる? 500万人超えた」
「あ……ああそっか! そういうことか、よかったな夢が叶って」
痺れを切らした琉笑夢にほぼ答えを言われたようなものだが、それを褒めてほしかったのかと理解してさっそく笑う。
フォロワー数500万人超えを目指していたなんて知らなかった。あの琉笑夢がここまで有名になるとはなかなか感慨深いものがある。それに、これで裏垢での晒し行為は免れた。
しかし、せっかく褒めてあげたというのに琉笑夢の機嫌は優れない。それどころか下がっていく。
何が足りないのだろう。
うんと手を伸ばして、長い腕で自分を壁際まで追い詰め覆い被さるように囲い込んでくる青年の頭をよしよしと撫でてやる。
それでも残念なことに琉笑夢の機嫌はよくならず、それどころかさらに彼を纏う温度がしっかり下がってしまった。
もうここまで来たら、さすがの春人でもお手上げだ。
「いや、マジで何を求められてるのかわからん、ごめん」
「ああそう時間切れ、犯す」
「ちょっ──うお!」
ぐいっと首根っこを掴まれて、そのまま隣室までずるずると引きずられてシングルのベッドに放り投げられた。
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