ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。

宝楓カチカ🌹

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将来の約束──06

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 顔の筋肉を動かすことが苦手なのか確かに表情の乏しい子どもではあるが、春人からしてみれば機嫌が悪くなると眉間の皺が増えてむっとするし酷い時には何も喋らなくなるし、こうして暴れて駄々もこねる。
 春人のこととなると非常にわかりやすいのだ、いわゆるお兄ちゃん子というやつなのかもしれない。
 そういえば春人も幼い頃はお母さんと結婚するとよく言っていたらしい、微塵も覚えていないが。

「春にい、煩いっ」
「いて」

 今だってそうだ、またかぷりと噛まれる。
 天使のような美少年が可愛く怒っている。こういうところは子どもなんだよなあなんてしみじみとする。

「春にいがやだっていっても、ぜったいぜったいけっこんする」
「ええ……オレの意思は無視かよ」

 が、それはちょっとどうかと思う。

「だって春にいは、おれのダーリンだから」
「ダーリンって」

 顔をしかめる。
 ダーリンというのは死語というやつなのではないだろうかと思いはしたが、琉笑夢の母親が、琉笑夢の父親をダーリンと言っていたらしいことを思い出す。
 酔うと元旦那のことをそう呼び、顔が瓜二つらしい琉笑夢に当たり散らしていたらしい。
 結婚、ダーリン。そんなの子どものふざけた戯言だと流しておけばいいのだろうが如何せん相手はこの琉笑夢だ。
 幼いながらに恐ろしいほどの執着心を見せる子ども。
 ほんの少しだけ、背中に薄ら寒いものが走る。

「あのな、春にい」
「……ん?」 
「逃げたら、だめだからな」

 そっと耳元でささやかれた子ども特有の甘く柔らかな声色には、まっすぐな無邪気ささえも滲んでいた。
 恐ろしいことなど何もないはずなのに春人は固まってしまった。

「もし春にいが、おれから逃げたら」

 琉笑夢が、ゆっくりと春人の首筋から顔を上げた。
 幸か不幸か首から顔が離れる瞬間、噛み付かれた部分にぺろりと舌を這わされたのが見えてしまって、思わず琉笑夢を落としそうになってしまったが、耐える。
 どこかに座りたくとも体が硬直し、足裏が床に縫い付けられてしまっていて動けない。冷や汗がぶわりと額に滲み、つうと頬を伝い顎から落ちた。

「……に」

 なぜ自分はここまで怯えてしまっているのか、相手はまだ6歳の子どもだぞ。
 しかも獰猛で残酷極まりない熊でも百獣の王であるライオンでもなければ、そもそも春人よりも屈強な成人男性でもなんでもない。
 愛らしく天使のような顔をしている、華奢で細くて小さくて力が弱い普通の子どもだ。
 コイツは人間、春人と同じただの人間、あれ、そういえば人間の定義ってなんだっけ、確か何かの授業で習った気がする。
 そうだ、人間はヒト科ヒト属に属しているんだった。
 つまりコイツはヒト科ヒト属に属するヒト、ただの人だ。

 しかしそんな風に脳内でしっかりしろ自分と言い聞かせれば言い聞かせるほど。

「逃げ、たら?」

 どうなるんだ、罰金とか? はは……なんて渇いた笑みを浮かべて3度ほど下がってしまったであろう部屋の温度を上げようとしたのだが、途中で声が途切れてしまった。
 ひやりと、首に冷たいものが当たったからだ。
 見なくともわかるほど慣れてしまった琉笑夢の手のひらだった。琉笑夢は子どものくせにわりと体温が低めだ。体はいわゆる子ども体温ではあるのだが、手や足といった末端がひんやりとしている。
 だから夜は乾燥機やら湯たんぽやらで布団をふかふかと温かくしてから、しがみ付いてくる琉笑夢を冷やさないようにぎゅっと抱き締めて寝てあげていたのだが。

「る……」

 琉笑夢を抱えているため、その紅葉のような丸い手から逃れることができない。目を逸らすことはおろか、瞬きすることも忘れた数秒だった。
 至近距離にある琉笑夢のくりくりとした瞳がゆっくりと細められる。
 そして首に添えられた小さな手のひらに、ほんのわずかな力が加えられて。



 きゅっと、絞められた。



 ──ぞっと、一気に粟立つ肌。ひえっと飛び上がりかけた。
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