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墓場まで──40
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「ハメ撮り晒されたくねえだろ、俺だって躾直したくねえから──わかった?」
全力疾走を終えたばかりのように心臓の鼓動がバクバクと速くなる。破裂しそうだ。
「なあ、言ったよな俺」
「な……ん、て」
「こんなもんじゃねえからな、って」
確かに、寝ている春人の顔をオカズにしてシコられて胸にぶっかけられたことなんて可愛いものに思えて来た。
体を動かせないでいる春人の目の前で、弓なりに反った琉笑夢の瞳から白目の部分が消える。
侵食した青が白を食らい、水面に映る青く輝く綺麗な三日月のような形になった。
「逃げんなよ? 春にい。ずっと離れないって言ったもんな。もし俺から逃げようとしたら」
きめ細かな肌をした美貌の青年は、それはそれは嬉しそうな笑みを浮かべて、一言。
殺す、と続くかと思われていた唇が紡いだのは別の言葉だった。
「壊す」
擬音語はにこっ、ではなくにたっ、だ。
吊り上げられた唇の隙間からのぞいたのは綺麗に並んだ真っ白い歯。もちろんその笑みは、やはりと言うべきか昔から少しも変わっていなくて。
殺すなんて物騒な言葉は使うな、という春人の言いつけをしっかりと守っているようなのだが、どうしてだろう。
殺すよりもその一言の方が、より一層おぞましく聞こえてしまうのは。
「春、だい好き──春は?」
首の噛み痕に、口づけるようにささやかれる。
ぴたりと密着しているはずなのに、汗だって吹き出しているはずなのに、どんどんと体が冷えていく。
落ち着け、こいつは獰猛で残酷極まりない熊でも百獣の王であるライオンでもない。コイツは人間、春人と同じただの人間、ヒト科ヒト属に属するヒト、ただの人だ。
確かに春人よりも背はでかくなったし力も強いが、この世界には法律というものがある。この国の国民である以上、法律には逆らってはいけない。
盗撮やらなにやらでいくつかは破ってしまっているようだが、まさか本当に監禁やら目潰しやら喉潰しやら、脚の腱や腕を切るとか舌を抜くとかはしないはずだ。
しないと、思いたい。思いたいけど。
「オ……」
春人は本日何度目かになるかわからない悪寒に身を竦ませながら、強張る唇を震わせた。
今から口にする言葉は嘘ではない。嘘ではないの、だけれども。
「オレも、好きだよ……」
いや、だからホラーかって。これはほんとに、怖い。
やはり琉笑夢は病んでる、確実に病んでる。琉笑夢は春人限定のヤンデレだ。
しかもヤンデレ科ヤンデレ属に属する立派なヤンデレだ。
春人の返答に、琉笑夢が満足げに頷く。
「春、これからはずうっと傍にいような……墓にも、一緒に入ろうな。死ぬまで一緒だ……死んでも──」
なんとも恐ろしい台詞を寝息とともに吐き出して、今度こそ琉笑夢はすうっと眠りの世界に引きずり込まれていった。
もちろん、無防備かつ幸せそうな顔だ。そしてその腕はガッチリと春人の体を囲んだまま。
これでは琉笑夢が起きるまでトイレにもいけない。
墓場までということはつまり、春人が死んだ時は琉笑夢が後を追い。
琉笑夢が死ぬ時は、春人も連れて逝かれるのだろうか──やりかねん。
もしも放置していたら怨霊となって末代まで祟られそうだ。
これがかの有名な「diDi」だなんて信じられない。
週刊誌に琉笑夢の行動がすっぱ抜かれでもしたら確実に全てが終わるだろう。
モデル・タレントの「diDi」、一般男性に狂気のストーカー行為、脅迫、DV、私物の窃盗、盗撮などの犯罪行為は日常茶飯事か……だなんて一面にでかでかと書かれた日には卒倒してしまいそうだ。笑えない。
事務所を通して事実関係を確認するまでもなく全て事実なのだから尚更えぐい。
琉笑夢の春人に対する異常な行動の数々は、決して世に出してはいけない。SNSで助けを求めるのもダメだ、絶対大炎上する。
真実は墓場まで持っていこうと、春人は深く心に誓った。
「オレはやまった、かな……?」
けれども春人が琉笑夢に惚れなければ、それはそれでどうなっていたかわからない。
もしも琉笑夢以外の相手を春人が選んでいたら──いやダメだ、考えないようにしよう。考えてもいいことはなさそうだ。
どっちにしろ、琉笑夢から逃れられる術など初めからなかった気がする。
諸々あったが、懐いてくれていた子どもに迫られて結局はこうして恋人、いや夫婦という関係に落ち着いた。
どこにでもある三文小説だと思っていたのに。
正に現実は小説よりも奇なり、だ。
もしもこれを小説か何かにするのであれば、タイトルは、
「諸事情により近所の金髪碧眼の美少年(6歳)を預かることになったオレだが懐かれた結果、金髪碧眼の美少年(6歳)がヤンデレ科ヤンデレ属に属する立派なヤンデレだったことが判明した件について」
だろうか。いやあれから13年も経っているのだから、ここはやっぱりシンプルにいこう。
題して、
──ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。
全力疾走を終えたばかりのように心臓の鼓動がバクバクと速くなる。破裂しそうだ。
「なあ、言ったよな俺」
「な……ん、て」
「こんなもんじゃねえからな、って」
確かに、寝ている春人の顔をオカズにしてシコられて胸にぶっかけられたことなんて可愛いものに思えて来た。
体を動かせないでいる春人の目の前で、弓なりに反った琉笑夢の瞳から白目の部分が消える。
侵食した青が白を食らい、水面に映る青く輝く綺麗な三日月のような形になった。
「逃げんなよ? 春にい。ずっと離れないって言ったもんな。もし俺から逃げようとしたら」
きめ細かな肌をした美貌の青年は、それはそれは嬉しそうな笑みを浮かべて、一言。
殺す、と続くかと思われていた唇が紡いだのは別の言葉だった。
「壊す」
擬音語はにこっ、ではなくにたっ、だ。
吊り上げられた唇の隙間からのぞいたのは綺麗に並んだ真っ白い歯。もちろんその笑みは、やはりと言うべきか昔から少しも変わっていなくて。
殺すなんて物騒な言葉は使うな、という春人の言いつけをしっかりと守っているようなのだが、どうしてだろう。
殺すよりもその一言の方が、より一層おぞましく聞こえてしまうのは。
「春、だい好き──春は?」
首の噛み痕に、口づけるようにささやかれる。
ぴたりと密着しているはずなのに、汗だって吹き出しているはずなのに、どんどんと体が冷えていく。
落ち着け、こいつは獰猛で残酷極まりない熊でも百獣の王であるライオンでもない。コイツは人間、春人と同じただの人間、ヒト科ヒト属に属するヒト、ただの人だ。
確かに春人よりも背はでかくなったし力も強いが、この世界には法律というものがある。この国の国民である以上、法律には逆らってはいけない。
盗撮やらなにやらでいくつかは破ってしまっているようだが、まさか本当に監禁やら目潰しやら喉潰しやら、脚の腱や腕を切るとか舌を抜くとかはしないはずだ。
しないと、思いたい。思いたいけど。
「オ……」
春人は本日何度目かになるかわからない悪寒に身を竦ませながら、強張る唇を震わせた。
今から口にする言葉は嘘ではない。嘘ではないの、だけれども。
「オレも、好きだよ……」
いや、だからホラーかって。これはほんとに、怖い。
やはり琉笑夢は病んでる、確実に病んでる。琉笑夢は春人限定のヤンデレだ。
しかもヤンデレ科ヤンデレ属に属する立派なヤンデレだ。
春人の返答に、琉笑夢が満足げに頷く。
「春、これからはずうっと傍にいような……墓にも、一緒に入ろうな。死ぬまで一緒だ……死んでも──」
なんとも恐ろしい台詞を寝息とともに吐き出して、今度こそ琉笑夢はすうっと眠りの世界に引きずり込まれていった。
もちろん、無防備かつ幸せそうな顔だ。そしてその腕はガッチリと春人の体を囲んだまま。
これでは琉笑夢が起きるまでトイレにもいけない。
墓場までということはつまり、春人が死んだ時は琉笑夢が後を追い。
琉笑夢が死ぬ時は、春人も連れて逝かれるのだろうか──やりかねん。
もしも放置していたら怨霊となって末代まで祟られそうだ。
これがかの有名な「diDi」だなんて信じられない。
週刊誌に琉笑夢の行動がすっぱ抜かれでもしたら確実に全てが終わるだろう。
モデル・タレントの「diDi」、一般男性に狂気のストーカー行為、脅迫、DV、私物の窃盗、盗撮などの犯罪行為は日常茶飯事か……だなんて一面にでかでかと書かれた日には卒倒してしまいそうだ。笑えない。
事務所を通して事実関係を確認するまでもなく全て事実なのだから尚更えぐい。
琉笑夢の春人に対する異常な行動の数々は、決して世に出してはいけない。SNSで助けを求めるのもダメだ、絶対大炎上する。
真実は墓場まで持っていこうと、春人は深く心に誓った。
「オレはやまった、かな……?」
けれども春人が琉笑夢に惚れなければ、それはそれでどうなっていたかわからない。
もしも琉笑夢以外の相手を春人が選んでいたら──いやダメだ、考えないようにしよう。考えてもいいことはなさそうだ。
どっちにしろ、琉笑夢から逃れられる術など初めからなかった気がする。
諸々あったが、懐いてくれていた子どもに迫られて結局はこうして恋人、いや夫婦という関係に落ち着いた。
どこにでもある三文小説だと思っていたのに。
正に現実は小説よりも奇なり、だ。
もしもこれを小説か何かにするのであれば、タイトルは、
「諸事情により近所の金髪碧眼の美少年(6歳)を預かることになったオレだが懐かれた結果、金髪碧眼の美少年(6歳)がヤンデレ科ヤンデレ属に属する立派なヤンデレだったことが判明した件について」
だろうか。いやあれから13年も経っているのだから、ここはやっぱりシンプルにいこう。
題して、
──ヤンデレ気味の金髪碧眼ハーフの美少年に懐かれた結果、立派なヤンデレ美青年へと成長した彼に迫られ食べられたが早まったかもしれない件について。
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今回も最高に面白かったです!!
大好きな作品なので読み返しちゃいました〜!
いつも素晴らしい作品をありがとうございます\(//∇//)\
haruさんこんばんは、宝楓カチカです。
こちらこそ、嬉しいご感想ありがとうございます~!✨
ヤンデレ極めた攻めとちょっと抜けてる受けのわちゃわちゃ話ですが、大好きといって頂けて有難いです💕
読み返しても頂けたなんて……!
今回の琉笑夢も病みに病んでおりますが、ぜひ最後までお付き合い頂ければ幸いです~!
まだまだ世界情勢も厳しい状況が続いている世の中ですが、haruさんもどうぞご自愛くださいませ✨
初めまして。「トイの青空」を拝見してからすっかりハマってしまい今までの作品全て読ませて頂きました(^-^ゞ
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応援ありがとうございます!体調に気を付けて、これからも精進してまいりたいと思います✨
まだまだ世界情勢も厳しい状況が続いている世の中ですが、おかゆさんもどうぞご自愛くださいませ✨
おー!お久しぶりの2人ですね👏👏👏
大賞ポチッとしときました😘
わー鴨南蛮そばさん!
お久しぶりです、こんにちは!速攻でコメント頂けて嬉しさのあまり飛び上がりました✨
しかも大賞ポチってくださったなんて……!😭
うおぉ有難うございます、相変わらず病んでる琉笑夢だとは思いますが、楽しんでいただければ幸せです~💕