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春日──31
しおりを挟む本当に琉笑夢は初めてだったのだろうか。
慣れた手つきといいささやかれた甘い言葉の数々といい春人の性感帯を巧みに暴いてくる指先といい、かなり経験値が高そうだったのだが。
ああでも、熱に浮かされた状態で琉笑夢にぎゅっとしがみ付き引き寄せ、「ルゥ、だいすき」と耳元でささやいてみた時の反応は確かに素人っぽかった。
まだ完全に起ち上がってもいなかったのに、腹の中で琉笑夢の陰茎が一気に膨れ上がってそのまま弾けたのだ。
なんともあっけない終わりには琉笑夢自身も驚いたらしく、は? と呆けていた琉笑夢の顔はちょっと見物で、吹き出してしまった。
そして機嫌を損ねた琉笑夢に容赦なく犯され、笑わなければよかったと後悔した頃には時すでに遅く、快楽を強制的に叩き込まれ体中噛み痕だらけにされて息も絶え絶えだった。
そんなこんなで、琉笑夢にも多少のぎこちなさは確かにあった。
けほ、と小さく咳をする。
喉が痛かった。そういえば体を重ねている最中、結構色々なことを叫んでしまった気がする。
どんなことを言ったっけ──と己の痴態を思い出しかけ、そしてばっちりと思い出してしまってうぅと唸りながら目の前の胸に額を擦りつけた。
もう無理、許して、気持ちいい、奥弄んな、とんとんすんな、いっちゃう、もっとぐちゃぐちゃにして、壊れちゃう、死んじゃうなんてAV顔負けの台詞をまさか自分が口にすることになろうとは。
恥ずかしさのあまり顔が火照る。穴があったら入りたい。
確かに痛い思いもしつらい思いもしたが、春人だって終盤はだいぶノリノリだった。琉笑夢の腰に足を絡め、自ら腰を振って善がってしまうぐらいには
琉笑夢の望む通りに乱され喘がされ、めちゃくちゃにされてしまった。
それなのに、春人をぎゅうっと抱きしめ目をつぶっている男は春人と違ってとても穏やかな顔をしている。
くっそー、人の気も知らずに幸せそうな顔で寝やがって。
しかもコイツ心なしか肌の艶もよくなってないか? 特に目の下の隈が薄くなってる気がする。ずるい、こっちは体中べたべたな上に噛み痕とキスマークだらけでシーツに肌が擦れるだけでじんじん痛むのに。
ううん、と唸った琉笑夢が髪に顔を埋めて来た。自然と拘束が強まり体が軋む。
何かに縋り付いていないと安心して眠ることができないのは昔からだ。
小さい頃は琉笑夢も腕が短かったため、朝目覚めた時に彼が抱きしめていたのは春人の腕だった。
しかしこれでは寝返りも打てない。
一瞬、本当は起きているのではないかと疑いもしたが、ちらりと顔を見る限りその可能性は低いだろう。
琉笑夢はすうすうと規則正しい寝息をたて、薄く開いた唇は緩み眉尻も下がっていた。何度も見ているからわかる、これは完璧に寝入っている顔だ。
互いに眠りにつくのが朝方だったため、一度でかなりの睡眠を取るタイプの琉笑夢は当分目覚めないだろう。
昨夜の情事を思い出せば思い出すほど、恨み言はつらつらと出てくる。
しかし、ここ暫く仕事が忙しくろくに寝ることができていなかったであろう琉笑夢を起こすのは忍びない。
なるべく刺激しないよう気を付けながら、上へ上へとずり上がる。だが琉笑夢の腕が春人を逃さぬよう腰に回って来たので、抜け出ることができない。
今度顔を埋められたのは鎖骨辺りだ。そっと引き抜くことができた片方の腕を琉笑夢の後ろ頭に回し、抱え込むように抱きしめてやる。
琉笑夢はしばらくもぞもぞ動いていたが、落ち着かせるために何度か髪を撫でてやれば、やっと定位置を見つけられたのか首筋に鼻をすりすりと擦り付けてきた。
図体ばかりでかくなったが、ふわふわとした金色の毛並みと春人の体で暖を取ろうとする姿は子犬のようだ。
変わらない幼子のような仕草に、ふ、と穏やかな吐息が漏れる。
「おまえってほんと、昔から変わんねえな……」
琉笑夢に抱かれてみて、多少おぼろげだった気持ちが今ははっきりとした。
琉笑夢の無防備な寝顔にじんわりと心の中に広がって来たのは、自分を求めてやまないこの男が死ぬほど愛おしいという気持ちと、優越感だった。
こんな緩み切った顔、春人以外の誰にも見せてはいないのだろう。
これからも春人以外には見せないでほしいと、思う。
ふと、視界の隅でベッドサイドに置かれた琉笑夢のスマートフォンが点滅した。
通知だろうか、別に何でもいいかと視線を直ぐに腕の中の青年に戻そうとしたのだが、一瞬だけ見えたロック画面に視線が固まってしまった。
「……は?」
目を疑ったが画面は変わらない。
それはどこからどうみても春人の顔写真だった。しかも、たぶん寝顔だ。
画面が暗くなり写真が消える。琉笑夢を起こさぬようにわずかに上体を起こしてそっと腕を伸ばし、かちりとボタンを押してみる。
ロックが掛かっているので開くことはできないが、やはり設定されていた画像は春人の寝顔写真だった。
しかも口が半開きになっている上に、涎が垂れてだいぶ間抜けな顔をしている。
これは明らかに。
(コ、コイツ……盗撮しやがって)
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