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初心者マーク──24
しおりを挟む「それって、どういう意味」
ごくりと琉笑夢の喉が上下した。
「なんだよ、言わなくともわかるだろ」
「わかるかよ、ちゃんと言え。なあ、どういう意味」
ずいっと端正な顔が近付いて来た。
それこそ数えられないほど至近距離から見下ろし、そして見上げてきた顔だったが、何度見ても綺麗だなぁと思う。
鼻筋も高く全体的に西洋風な顔立ちなのに、どこかエキゾチックな耽美さが滲み出ているのは日本人の血も入っているからだろうか。
髪色と同じ色の眉は、瞳の形を沿うように目頭から細く伸び目尻にかけて凛々しくなっていく。
意思の強そうな瞳は、微妙に色や形が異なるいくつもの青いガラスの破片が繊細に重ねられ、埋め込まれているかのような色合いだ。
もともとが彫の深い顔立ちなので眼球がわずかに窪んで長い睫毛の影が入り、瞳の輝きや大きさが際立っている。
春人は目が大きく童顔に見られがちだが、それは輪郭が丸みを帯びていてどうしても幼く見えてしまうからだ。
そもそも琉笑夢も目は大きいのだが、成長とともに頬の丸みが消え輪郭がすっと細まりくっきりとしたことに加えて、常にだるそうにまぶたが下げられ目も垂れ気味なのでさほど大きくは見えない。
ただ、独特なアーモンド型をしている瞳の2割ほどをまぶたが覆っているせいで、深い二重と盛り上がった涙袋の印象が強く、一度視界に飛び込んでくればいつまででも眺めてしまいそうな目の造りになっていた。
琉笑夢のことを神だと崇めるファンの気持ちも、わからなくはない。
まさに西洋人形さながら、恐ろしいほどに完璧な造形過ぎるのだ。
異国の巧みの手によって造られた精巧な人形であると言われても、違和感がないほどに。
しかし、例え顔が美しかったとしても琉笑夢は人間だ、長所もあれば短所もある。
現に春人をしっかりと視界に捉えるため、普段以上にぐわっと広げられている目の眼力は凄まじいもので、飲み込まれてしまいそうだった。
近づけば近づくほどくるりとカーブしている長い睫毛がこちらの目にも突き刺さりそうになり、ちょっと引いてしまう。
「まてまて、だから顔怖えって」
「聞いてんだよ答えろよ、どういう意味」
「……どういう意味って、言われてもさ」
それは改めて言わなければならないのだろうか、ずっと兄としての態度を崩さぬようにしてきたので、しっかりと言葉にすることにかなりの気恥ずかしさを覚えるのだが。
「言って春にい、お願い」
幼い口調に、ぐっと喉まで言葉が出かかる。
「謝るから、首、絞めたこと……謝るから」
「は?」
「ごめん、酷いことして。だから言え、言ってよ」
琉笑夢が謝るだなんてまさに青天の霹靂だ、ぽかんと開いた口が塞がらない。
切羽詰まっている様子だ、それほどまでに言ってほしいということなのだろう。
「あー……その、だから」
普段はあまり動くことのない眉尻や口の端が震えている。
そんな風に必死の形相をされてしまったら。お願いを無視することなんてやっぱりできない。
「──好きだよ、琉笑夢が」
実家の玄関で出会ったあの日から。
風呂場で初めてこの体を抱きとめたあの瞬間から。
春人だけをまっすぐ見つめてくる琉笑夢には、絶対に敵わないのだ。
「それ、は……弟として?」
「違うっつーの、男としてだよ。おまえがオレのことを想ってくれてるのと、たぶん……同じ気持ち」
諦めて、熱を帯びていく頬を自覚しながら正直に告げる。
「だからずっと、おまえと一緒にいた──ん、ぅッ」
唇に噛みつかれ、続く言葉を遮られた。
それは今までで一番性急なものだった。覆い被さってきた体に羽交い絞めにされ、水音を立てながら唇をこじ開けられぬるりと舌が入り込んでくる。
「んッ……は、ちょ、まっ」
「春……はる、春」
どんどんと熱が高まり激しくなってくる口付けの合間、昔と違って逞しい腕にぎゅうっと抱きしめられれば体も痛む。みしみしと骨が砕けてしまいそうな音が内部から聞こえてきてぶるりと震えた。
「っ……痛え、骨痛えって、ルゥ、つぶれ……むぅ、ん」
だが琉笑夢は強く抱き締めることを止めない。
春人の声が聞こえていないのか、それとも余裕がないのか。
つい閉じかけてしまいそうになる唇を食まれ、割り割かれ、執拗に舌を絡めとられる。
辛うじて拘束を逃れた右手で琉笑夢の背を軽く叩いてみても離れない。
口内を弄ってくる舌も、どんどんと深いところまで侵入してくる。
「ん、ん……ぅ、ぁ、ん……」
きつく抱きすくめられて体が痛いし、好き勝手に口内をまさぐられて息が苦しい。
けれども吐息すらも奪うほどの勢いで、角度を変えて何度も重ねられる唇の貪欲さにじんわりと心が温かくなってくるのも事実だった。
触れ合った服越しの肌を通して、琉笑夢が今どれほど春人を求めているかが伝わってくる。
「る、え」
「春……はる、好き、春人……」
息継の合間、ほんの数ミリ唇が離れる度に名前を呼ばれる。
うっすらとまぶたを上げれば、目の輪郭を捉えられないほど深い青色が間近にあった。長い睫毛がぱさりとかかる。
春人の一挙一動を一瞬たりとも見逃さないとでもいうように熱を孕んだ瞳に、ぞくりと背筋が震えた。
「んぅ、ふぁ……」
もう舐める場所もないくらい口内をじっくりと堪能されてから、舌がゆっくりと引き抜かれた。絡み合った二人分の唾液が唇の端から垂れ、顎を伝う冷たさが火照った肌に染みる。
やっとまともに息が吸えた。ぜいぜいと呼吸が乱れる。
それなのに、必死で息を整えようとしている最中にまた押し付けられそうになる濡れた唇に、慌てて待ったをかける。
「ッ~~、タンマ、苦し……」
「……、煩え、待てるかよ」
「っ、も……おまえ、んん……」
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