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五年前──14
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躊躇なく覆い被さって来た大きな体と鋭い熱を孕んだ瞳、そしてずぼっと寝間着の隙間に突っ込まれた滑らかな手を慌てて押しのけようとする。
身長のわりに腰は細いと思っていたが、意外と肩幅があるな、なんて感心している場合じゃない。
「おい、こら! 琉笑夢……ってめぇ」
「っせえな、黙れ」
「おまっ、その態度はなんだ」
ばっちりキレた琉笑夢にこんな風に乱暴にベッドに縫い留められたのはこれで二度目だ。というか一度襲われかけた。
解禁となった就職説明会やらゼミの発表やら卒論やらバイトやらサークルでの最後の合宿やらで予定が詰まりに詰まり、忙しさのあまりなかなか琉笑夢にかまってやれる時間が取れず、顔を合わせるのも数か月ぶりだったあの日、初めて唇を奪われそのまま組み敷かれたのだ。
まだ実家暮らしだったのだが、道子は単身赴任の父親の所に遊びに行っていていなかった。
「マジで、やめろって! い、痛えってばっ──ぁッ」
両手首を片手で押さえ付けられ、あの時と同じように服を捲り上げられて胸の先に噛みつかれて仰け反る。
「ひゃっ……」
あれから5年経ったがあの頃と違うのは、4センチほどだった身長差が一気に18センチ(正確には18.3センチ)にまで開いたことだ。
もともと春人も細身でガタイがいい方ではないので、それと相まって体格差も広がってしまった。細いくせに引き締まった筋肉を持つ琉笑夢に今じゃ簡単にねじ伏せられてしまう。
「琉笑夢……ルゥ! ひぁ、この……」
ちゅ、と吸われ、べろりと胸を舐められる。その唇が鎖骨、首に向かい、首筋へ。
本格的に脱がされそうになり大声を張り上げても琉笑夢は止めようとしない。
完全に寝る体勢に入っていたので上下のスウェットだが、下すらもパンツごとずり降ろされて縮こまり萎えた男性器が琉笑夢の眼前に晒される。
羞恥のあまり体が硬直した。
手が剥き出しの下腹部にするりと這わされて、今まで以上に声を張り上げた。
「またかよ、いい加減にしろよ嫌いになるぞ!」
ぴたりと琉笑夢の手が止まり、力が緩んだ。
今の発言はちょっとずるかったかもしれない、琉笑夢にとっての禁じ手だ。
けれども、なぜ琉笑夢の機嫌が下がる一方なのかがわからない限りは一方的に組み敷かれるわけにはいかない。
今がチャンスだと手を素早く引っこ抜きわたわたと琉笑夢の下から這い出ようとしたのだが、春人の首筋から顔を上げた琉笑夢と目が合った途端、一気に怒りや抵抗心が萎んでしまった。
「な……んつー顔してんだよ、琉笑夢」
「ずりぃ」
伏せられた長い金色の上睫毛が下睫毛と重なり、照明の明りに照らされてキラキラと光っている。
気分屋の琉笑夢は普段は毛並みが艶やかな大型の猫のようなのに、こうして時々、春人には金色の頭からぺたんと垂れた犬の耳、いや狼の耳がしっかりと見えてしまうのだ。
「春にいは、ずるい」
ああもう、なんでこんな時ばかり昔の呼び方で呼んでくるかな。わざとだろうか、例えそうであっても春人はこの顔と声に弱かった。
子どもの頃に比べたら彫りも深く顎もシャープになり精悍な顔付きにもなったわけだし、変声期もとっくの昔に迎えている声は春人よりも低くて張りがある。
もう彼は子どもなんかじゃない。それはわかっているのが、こうしていじけるように胸に鼻を押し付けられると先ほどの所業にも目をつぶってしまいそうになる。
例えパンツから性器も露出した間抜けな格好にさせられてしまっていたとしてもだ。
ほら、もうこの手だって一発ぐらいは頭を殴ってやろうと思っていたのに、目の前にある金色の頭を優しく撫でてやりたくてうろうろと彷徨ってしまっている。
ぐっと堪えて、ぽんと琉笑夢の肩を叩いて圧し掛かっている体をどかそうとする。
「と、とにかく降りろって。そしたら怒んねえし、話も聞いてやっから……な?」
「へえ、で、なに。今俺がやろうとしたことも許してくれるって?」
吐き捨てるような笑い方に棘が混じっていた。その棘は春人に向けられており、同時に琉笑夢自身にも向けられているようにも感じられた。
「琉笑、夢?」
「──は、そういうとこだっての。いつもいつも子どもの癇癪だと思って。許す? 天然も大概にしろよ、んなの別に求めてねえから」
ここまで掠れている琉笑夢の声を聞いたのは久しぶりだ。
拘束は解けたが春人は動けない。琉笑夢も何も言わない。
二人の間に暫しの沈黙が下りる。
「あの、さ」
「げーのーじん」
「……は?」
「で、モデルで、俳優で、歌手で、SNSでも人気があってフォロワー500万人くらいで、一般人なんかじゃ到底手が届かなさそうな感じの人間」
唐突に変わった話題に、一瞬ついていけなかった。
身長のわりに腰は細いと思っていたが、意外と肩幅があるな、なんて感心している場合じゃない。
「おい、こら! 琉笑夢……ってめぇ」
「っせえな、黙れ」
「おまっ、その態度はなんだ」
ばっちりキレた琉笑夢にこんな風に乱暴にベッドに縫い留められたのはこれで二度目だ。というか一度襲われかけた。
解禁となった就職説明会やらゼミの発表やら卒論やらバイトやらサークルでの最後の合宿やらで予定が詰まりに詰まり、忙しさのあまりなかなか琉笑夢にかまってやれる時間が取れず、顔を合わせるのも数か月ぶりだったあの日、初めて唇を奪われそのまま組み敷かれたのだ。
まだ実家暮らしだったのだが、道子は単身赴任の父親の所に遊びに行っていていなかった。
「マジで、やめろって! い、痛えってばっ──ぁッ」
両手首を片手で押さえ付けられ、あの時と同じように服を捲り上げられて胸の先に噛みつかれて仰け反る。
「ひゃっ……」
あれから5年経ったがあの頃と違うのは、4センチほどだった身長差が一気に18センチ(正確には18.3センチ)にまで開いたことだ。
もともと春人も細身でガタイがいい方ではないので、それと相まって体格差も広がってしまった。細いくせに引き締まった筋肉を持つ琉笑夢に今じゃ簡単にねじ伏せられてしまう。
「琉笑夢……ルゥ! ひぁ、この……」
ちゅ、と吸われ、べろりと胸を舐められる。その唇が鎖骨、首に向かい、首筋へ。
本格的に脱がされそうになり大声を張り上げても琉笑夢は止めようとしない。
完全に寝る体勢に入っていたので上下のスウェットだが、下すらもパンツごとずり降ろされて縮こまり萎えた男性器が琉笑夢の眼前に晒される。
羞恥のあまり体が硬直した。
手が剥き出しの下腹部にするりと這わされて、今まで以上に声を張り上げた。
「またかよ、いい加減にしろよ嫌いになるぞ!」
ぴたりと琉笑夢の手が止まり、力が緩んだ。
今の発言はちょっとずるかったかもしれない、琉笑夢にとっての禁じ手だ。
けれども、なぜ琉笑夢の機嫌が下がる一方なのかがわからない限りは一方的に組み敷かれるわけにはいかない。
今がチャンスだと手を素早く引っこ抜きわたわたと琉笑夢の下から這い出ようとしたのだが、春人の首筋から顔を上げた琉笑夢と目が合った途端、一気に怒りや抵抗心が萎んでしまった。
「な……んつー顔してんだよ、琉笑夢」
「ずりぃ」
伏せられた長い金色の上睫毛が下睫毛と重なり、照明の明りに照らされてキラキラと光っている。
気分屋の琉笑夢は普段は毛並みが艶やかな大型の猫のようなのに、こうして時々、春人には金色の頭からぺたんと垂れた犬の耳、いや狼の耳がしっかりと見えてしまうのだ。
「春にいは、ずるい」
ああもう、なんでこんな時ばかり昔の呼び方で呼んでくるかな。わざとだろうか、例えそうであっても春人はこの顔と声に弱かった。
子どもの頃に比べたら彫りも深く顎もシャープになり精悍な顔付きにもなったわけだし、変声期もとっくの昔に迎えている声は春人よりも低くて張りがある。
もう彼は子どもなんかじゃない。それはわかっているのが、こうしていじけるように胸に鼻を押し付けられると先ほどの所業にも目をつぶってしまいそうになる。
例えパンツから性器も露出した間抜けな格好にさせられてしまっていたとしてもだ。
ほら、もうこの手だって一発ぐらいは頭を殴ってやろうと思っていたのに、目の前にある金色の頭を優しく撫でてやりたくてうろうろと彷徨ってしまっている。
ぐっと堪えて、ぽんと琉笑夢の肩を叩いて圧し掛かっている体をどかそうとする。
「と、とにかく降りろって。そしたら怒んねえし、話も聞いてやっから……な?」
「へえ、で、なに。今俺がやろうとしたことも許してくれるって?」
吐き捨てるような笑い方に棘が混じっていた。その棘は春人に向けられており、同時に琉笑夢自身にも向けられているようにも感じられた。
「琉笑、夢?」
「──は、そういうとこだっての。いつもいつも子どもの癇癪だと思って。許す? 天然も大概にしろよ、んなの別に求めてねえから」
ここまで掠れている琉笑夢の声を聞いたのは久しぶりだ。
拘束は解けたが春人は動けない。琉笑夢も何も言わない。
二人の間に暫しの沈黙が下りる。
「あの、さ」
「げーのーじん」
「……は?」
「で、モデルで、俳優で、歌手で、SNSでも人気があってフォロワー500万人くらいで、一般人なんかじゃ到底手が届かなさそうな感じの人間」
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