1 / 40
出会い──01
しおりを挟む
「春にい、だっこ」
可愛い顔で、可愛い声で。
手を伸ばしてくる子どもを、春人は睨み付けた。
「やだよ……ってぇッ」
すかさず入れられた蹴りが見事に脛にはいり、春人は足を抱えて飛び跳ねた。
「っ、琉笑夢、おまえな!」
語気を荒らげて小さな頭を掴み上げると、まるで羽根のようにふわふわで艶やかな金色の髪を持つ子どもは、とてもとても嬉しそうな笑みを浮かべた。
しかしそれは歳相応のものではない。わかりやすい擬音語を使えば、にこっ、ではなくにたっ、だ。
子どもながらなんとも不吉な笑みだと思う。愛らしい顔が台無しだ。
「やっと、こっちをみた」
まるで天使が零した涙のような透き通った青い瞳と言動があまりにも合っていない。
ただでさえ大きな目をぐっと見開いてこちらを見上げてくる子どもの様子はまさにホラーだった。なまじ愛らしい顔をしているために、さらにそれが際立っている。
春人はこめかみを押さえたくなる衝動をなんとか抑えられるように努力した。
「琉笑夢、あのな……人は蹴るもんじゃないって前から言ってるだろ」
「おれだって本当はけりたくない。でも春にいがおれをみないから仕方なくけってるんだ」
これがまだ6歳の子どもの台詞だと思うと頭が痛い。
病み過ぎだと思うのは春人だけだろうか、自分を見てもらえないから仕方がなく蹴るだなんてとんだ思考回路だ。
琉笑夢の他にこんな発言をしてくる6歳児なんて今まで出会ったことがない。
SNSで流したら荒れそうだな、タイトルはなんだろう。
「諸事情により預かっている近所の子が『構ってくれないから』という理由で暴力を振ってきます」だろうか。
ハッシュタグは#拡散希望 #六歳児 #育児 #教育 #親バカ部 #パパ友と繋がりたい等々かな。いや別にパパじゃないけど。っていうか他人だけど。
もしも小説のタイトルにするなら昨今の流行りにのっとって、
「諸事情により近所の金髪碧眼の美少年(6歳)を預かることになった俺だが懐かれた結果、金髪碧眼の美少年(6歳)がかなり病んでいることが判明した件について」とかかな……いやダメだ絶対流行る気がしない。
そもそも昨今の6歳児は相手を振り向かせるために仕方がなく他人を蹴り飛ばすのだろうか。いやないだろう、おかしいのはコイツだ。
今ここでしっかりと叱ってやらないと、きっと将来はDV野郎かモラハラ野郎まっしぐらだ。社会に出てもうまくやっていけないに違いない。
コイツのためだと春人は心を鬼にして、眩い金色の小さな頭に向かって声を張り上げた。
「おまえな、オレは怒ってるんだぞ、昨日の事ちゃんと謝れ!」
「嫌だ、なんであやまらなきゃいけないんだ」
昨日もこっぴどく叱ったのだが、琉笑夢はしょげるどころか嬉しそうに笑うだけだった。
やっとこっちをみた、と。先程と同じような台詞を口にしながら。
「春にいが、あの女に近づくのがわるい」
「あの女って……」
「それとも、あの女が春にいに近づいたの?」
途端に機嫌が悪くなった子どもは、子どもらしからぬ形相で春人を睨み付けた。
「おまえなぁ……」
深く深く吐いたため息。
今の一瞬で脳内のハッシュタグに「育児ノイローゼ」が増えた。
年上の女の人を6歳の男の子が「あの女」呼ばわりするだろうか、普通。
しかも琉笑夢の言う「あの女」は、琉笑夢の好物がシュークリームであることを知ってわざわざ手土産として買って来てくれた相手なのに。
昨晩、家に遊びに来ていた従姉妹の莉愛とソファに座って話している時に事件は起こった。
面白い動画があるからと言われたので肩を並べて一緒に眺めていただけなのだが、後ろから勢いよく飛んできた硬い何かが肩にぶつかって驚いた。
ごろりと転がったのは、小さなコップ。
しかも最悪な事に中身が入ったままだったので春人は一瞬のうちにオレンジジュースまみれになってしまった。
ぶつけられた肩の痛みやべたべたになってしまった体もさることながら、子ども用のプラスチックのコップであったからよかったものの、これがガラスや陶器などだったら一大事だった。
それに肩ではなくもしも頭にでも当たっていたら。春人は石頭なのでまあ怪我も少ないは思うが、春人ではなく莉愛に当たっていたらと思うとぞっとする。
莉愛は特段気にする様子もなく、目が覚めたらベッドの中に春人がいなかったので探しに来た瞬間に件の事件を起こした琉笑夢の頭を、「春のこと、とっちゃってごめんね」と謝りながら撫でていたのだが、琉笑夢を預かっている身としてはそうもいかない。
可愛い顔で、可愛い声で。
手を伸ばしてくる子どもを、春人は睨み付けた。
「やだよ……ってぇッ」
すかさず入れられた蹴りが見事に脛にはいり、春人は足を抱えて飛び跳ねた。
「っ、琉笑夢、おまえな!」
語気を荒らげて小さな頭を掴み上げると、まるで羽根のようにふわふわで艶やかな金色の髪を持つ子どもは、とてもとても嬉しそうな笑みを浮かべた。
しかしそれは歳相応のものではない。わかりやすい擬音語を使えば、にこっ、ではなくにたっ、だ。
子どもながらなんとも不吉な笑みだと思う。愛らしい顔が台無しだ。
「やっと、こっちをみた」
まるで天使が零した涙のような透き通った青い瞳と言動があまりにも合っていない。
ただでさえ大きな目をぐっと見開いてこちらを見上げてくる子どもの様子はまさにホラーだった。なまじ愛らしい顔をしているために、さらにそれが際立っている。
春人はこめかみを押さえたくなる衝動をなんとか抑えられるように努力した。
「琉笑夢、あのな……人は蹴るもんじゃないって前から言ってるだろ」
「おれだって本当はけりたくない。でも春にいがおれをみないから仕方なくけってるんだ」
これがまだ6歳の子どもの台詞だと思うと頭が痛い。
病み過ぎだと思うのは春人だけだろうか、自分を見てもらえないから仕方がなく蹴るだなんてとんだ思考回路だ。
琉笑夢の他にこんな発言をしてくる6歳児なんて今まで出会ったことがない。
SNSで流したら荒れそうだな、タイトルはなんだろう。
「諸事情により預かっている近所の子が『構ってくれないから』という理由で暴力を振ってきます」だろうか。
ハッシュタグは#拡散希望 #六歳児 #育児 #教育 #親バカ部 #パパ友と繋がりたい等々かな。いや別にパパじゃないけど。っていうか他人だけど。
もしも小説のタイトルにするなら昨今の流行りにのっとって、
「諸事情により近所の金髪碧眼の美少年(6歳)を預かることになった俺だが懐かれた結果、金髪碧眼の美少年(6歳)がかなり病んでいることが判明した件について」とかかな……いやダメだ絶対流行る気がしない。
そもそも昨今の6歳児は相手を振り向かせるために仕方がなく他人を蹴り飛ばすのだろうか。いやないだろう、おかしいのはコイツだ。
今ここでしっかりと叱ってやらないと、きっと将来はDV野郎かモラハラ野郎まっしぐらだ。社会に出てもうまくやっていけないに違いない。
コイツのためだと春人は心を鬼にして、眩い金色の小さな頭に向かって声を張り上げた。
「おまえな、オレは怒ってるんだぞ、昨日の事ちゃんと謝れ!」
「嫌だ、なんであやまらなきゃいけないんだ」
昨日もこっぴどく叱ったのだが、琉笑夢はしょげるどころか嬉しそうに笑うだけだった。
やっとこっちをみた、と。先程と同じような台詞を口にしながら。
「春にいが、あの女に近づくのがわるい」
「あの女って……」
「それとも、あの女が春にいに近づいたの?」
途端に機嫌が悪くなった子どもは、子どもらしからぬ形相で春人を睨み付けた。
「おまえなぁ……」
深く深く吐いたため息。
今の一瞬で脳内のハッシュタグに「育児ノイローゼ」が増えた。
年上の女の人を6歳の男の子が「あの女」呼ばわりするだろうか、普通。
しかも琉笑夢の言う「あの女」は、琉笑夢の好物がシュークリームであることを知ってわざわざ手土産として買って来てくれた相手なのに。
昨晩、家に遊びに来ていた従姉妹の莉愛とソファに座って話している時に事件は起こった。
面白い動画があるからと言われたので肩を並べて一緒に眺めていただけなのだが、後ろから勢いよく飛んできた硬い何かが肩にぶつかって驚いた。
ごろりと転がったのは、小さなコップ。
しかも最悪な事に中身が入ったままだったので春人は一瞬のうちにオレンジジュースまみれになってしまった。
ぶつけられた肩の痛みやべたべたになってしまった体もさることながら、子ども用のプラスチックのコップであったからよかったものの、これがガラスや陶器などだったら一大事だった。
それに肩ではなくもしも頭にでも当たっていたら。春人は石頭なのでまあ怪我も少ないは思うが、春人ではなく莉愛に当たっていたらと思うとぞっとする。
莉愛は特段気にする様子もなく、目が覚めたらベッドの中に春人がいなかったので探しに来た瞬間に件の事件を起こした琉笑夢の頭を、「春のこと、とっちゃってごめんね」と謝りながら撫でていたのだが、琉笑夢を預かっている身としてはそうもいかない。
32
お気に入りに追加
1,220
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい
パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け
★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl


頭の上に現れた数字が平凡な俺で抜いた数って冗談ですよね?
いぶぷろふぇ
BL
ある日突然頭の上に謎の数字が見えるようになったごくごく普通の高校生、佐藤栄司。何やら規則性があるらしい数字だが、その意味は分からないまま。
ところが、数字が頭上にある事にも慣れたある日、クラス替えによって隣の席になった学年一のイケメン白田慶は数字に何やら心当たりがあるようで……?
頭上の数字を発端に、普通のはずの高校生がヤンデレ達の愛に巻き込まれていく!?
「白田君!? っていうか、和真も!? 慎吾まで!? ちょ、やめて! そんな目で見つめてこないで!」
美形ヤンデレ攻め×平凡受け
※この作品は以前ぷらいべったーに載せた作品を改題・改稿したものです
※物語は高校生から始まりますが、主人公が成人する後半まで性描写はありません

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる