二人羽織 妖狐と退治屋の恋

桔山 海

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二十八話 勝ち取った七日という信頼

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「忍くんだけ町に居てもらっても、天狗の襲撃される可能性はあるのか?」

 町長の問いに忍は「わかりません」と呟くしかできなかった。天狗が組織として、どんな意向で動いているのか分からない以上、私もそれは断言できなかった。

「もう一つ忍くんに聞いておこう。天狗が町を攻撃してきた時に勝てるか?」

「現状で勝てない天狗が一人だけいます」

 私も憑依が使えるようになったことで、白峰以外の天狗なら憑依を使って撃退できる。

 町長は忍の返答を聞いて腕を組んで思考を巡らせて深いため息を吐いた。

「話を聞く限り、葛さんは人間にとって無害だが敵対関係にある天狗が、この町に危険を及ぼすように思える。皆の認識はどうだろうか?」

 頷き同意する者が多かった。妖狐の正体を現した瞬間こそ、恐怖を感じた者が多かったが、あれからずっと妖狐の姿のままでいるからなのか、町民の皆が慣れたような印象だ。

「町を預かる者としては、忍くんだけで充分に町は守ることはできる。だから、天狗などという余計な敵を作らずに穏便に暮らすべきだと言わざるを得ない」

 私は「ここだ」という確信があって、町長の方へ体を向けた。

「では、天狗と和解して敵対関係を解消できたら、町に居ても良いということですね?」

「少なくとも和解できたなら、居てもらう方が良いと私は思うが……天狗は親の仇なのだろう? そんな天狗のことを君は許せるのか?」

「人間に紛れて暮らすことで、いろいろとわかることがあったのです。世の中には理不尽を飲み込むことでしか進まない出来事があるのです」

 私は自然と父と忍の言葉を引用していて思わず、忍と視線が合った。

「君の覚悟は充分理解した。皆の意見はどうだ? 天狗と和解できたなら町にいることを許してもいいだろうか?」

 全員とはいかなかったが議決権を持つ者の多くが賛成を表明した。

 私は良い流れのまま畳みかけるように皆の前へ出た。

「提案があります。私にあと七日だけ、佐倉町に居させて下さい。それまでに、天狗との敵対関係を解消してまいります。期限内に解決できなければ私は町を出ていきます」

 私に残されている刻限は今日と七日である。その期間、忍といることができればいい。

 それに確信した。

 天狗との因縁を解消することこそが、私が運命を覆す唯一の道である。

「では、決を採る。七日の猶予を与え、天狗との敵対関係を解消できなければ町からの追放とする。皆の者、これで良い者は挙手を」

 全員の手が挙がり私はひとまず安心した。忍もどこか安堵した様子だった。

 私としてはいつ忍が「葛が追放なら俺も出て行く」と言ってしまわないか心配だった。忍は、大切なもののためなら他の全てを容赦なく切り捨てられる、強く見える弱さを持つ人だ。

「助けはいらなかったねぇ。忍さんと葛さんの二人で勝ち取った、七日という信頼じゃ。天狗相手にも信頼を示せるとよいのだがなぁ」

 伊世は愛宕が去っていった方向を見つめながら呟くように言った。

 会議が終わり、皆は散り散りに去っていった。去る町民には思い思いの視線を私は向けられた。疑念、不信、好奇心、期待、様々な感情を伴った視線は仕方のないものだ。七日の猶予が得られただけでも奇跡と呼べる出来事のはずだ。

(でも、七日だけになんてさせない。私は和解をして帰ってくる……)

「町長さん。私と忍は天狗と対話をするために強くならなくてはいけません。忍の持つ刀は妖怪を倒せば倒すほど持ち主を強化する妖刀です。明日からは、私も外に出て最高効率で周囲の妖怪を狩りつくして期限のぎりぎりまで、忍の身体能力を強化して天狗との対話へ出向きます」

「わかった。何かあった時のために鏑矢を準備しておくから、その音が聞こえたら戻ってきてほしい。天狗の拠点に赴き、対話をする数日の留守の間は代わりの退治屋を私が準備しておく。君たちは退治に専念してくれ」

 意外な反応だった。本来ならば、代わりの退治屋を用意するのは私と忍が用意するのが筋というものだと思っていた。気付けば、町長の視線は穏やかなものになっており、鋭い眼光は鳴りを潜めていた。

 いつの間にか隣にいた忍は町長に一礼をしていた。

「ありがとうございます。町長、拾ってくれた恩に報いて天狗と和解してきます」

「強くなったな、忍くん……町に来た時とは大違いだ。葛さんのおかげだな。君なら絶対に生きて帰ってこれる」

 町長は満足そうに微笑むと忍の肩を叩いて、去っていった。私を見る忍の目は力が満ちているような精悍さになっていた。

「あの人は俺の二人目の父親みたいな人なんだ。だから……必ず、この町に帰ってくる。葛と一緒にだ」

 私は大きく頷くと、忍と二人で隣を歩き長屋に向かった。隠し事がなくなり、私の歩は軽くなったような気がしていた。

 しかし、町内の一旦の合意は得られたとしても、いつ外の人間に見られるかわからないことを考慮して、私は耳と尻尾を隠して人間の姿になっておいた。
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