49 / 57
目
しおりを挟む
何も見えない。いや、見たくない。この音だけが耳を支配する。壇上に立つ僕に向けられてるであろう音。それは煩わしいモノだ。ずっと欲しかった音のたずだった。
いつからだろうか。こんなにも煩くなったのは。
_____________
______
_
幼い僕は人の目をよく見た。何をして欲しいのか?何をしたら喜ばれるのか?何をしたら、何をしたら。
ずっとその目だけを見ている。その目に従って生活した。その度に目の数は増えることも知っているのに。
「君は凄いね。よく周りを見ている」
「よく気が付いたね。君になら安心して任せられる」
「君なら出来るよね」
僕は応えた。その目に怯えながらも応える。何者でも無い僕は、誰かの目だけを見て応えた。
それは僕の人生の中で大きく力を増した唯一のモノだから。それしか僕には無いから出来得る限りの事をする。
ある日、僕は力を抜いた。ほんの少しだけ疲れたからだ。ちょっとサボって楽をした。たったそれだけだ。
「どうして出来なかったんだ」
「期待していたのにガッカリだ」
「まぁ、君なら次は失敗しないよね」
その目は僕を突き刺す様に見る。ただ凶器のように見つめる。言葉ではなく目で僕を刺殺した。目で杭を打つ様にただ言葉を添えるだけで。
「すみません。分かりました。大丈夫です」
僕は目を逸らして、応える。手で刃を握りしめて、奥歯を噛み締めて、目尻を潰して応えた。
最初に僕は嘘を覚えた。嘘は便利である。騙された人は幸せそうに接してくれる。
「あの人は良い人だ」っと触れ回る。
次に僕は自分を殺す事を覚えた。嘘をより本物に近付ける為である。相手は僕を殺した事にも気付かずに嬉しそうに目の前で接した。
「彼は優しい人だ」っと触れ回る。
そんな僕は壇上に立つ程の成功を得た。誰もが僕を見る。誰もが嬉しそうに僕を見る。司会は僕の紹介を意気揚々とした。
「さぁ、皆さん。彼に盛大な拍手を」
1人2人と両手を広げて、その手を合わせて音を鳴らす。たった数十秒も経たない内にその音は全員が鳴らした。その音は僕を蜂の巣にする弾丸でしか無い。
何も知らない彼らにとって、それは美しい音なのだろう。僕は賞賛の証であるモノを落とした。
床に落ちた瞬間、鈍音が響く。弾丸は止まる。立て掛けられたマイクを僕は手に持っていた。
「皆さんすみません。慣れない壇上で、手が震えて大切なトロフィーを落としてしまいました。この場を借りてお詫びしたい。そして、改めて…ありがとうございます」
言い終えた僕は、トロフィーを拾い上げて笑う。会場は再び、弾丸を装弾して連射する。
次の日、僕自身を使って鈍い音を響かせた。その瞬間は鮮明に覚えている。
誰の目も無い。涼しい風が僕を包む。優しく目を瞑った。身体は暖かいモノに包まれた後に冷たくなったあの日を僕は覚えている。
もう目を開けれないことが幸せに満ちている。
瞼の裏側すらも真っ暗になった。
いつからだろうか。こんなにも煩くなったのは。
_____________
______
_
幼い僕は人の目をよく見た。何をして欲しいのか?何をしたら喜ばれるのか?何をしたら、何をしたら。
ずっとその目だけを見ている。その目に従って生活した。その度に目の数は増えることも知っているのに。
「君は凄いね。よく周りを見ている」
「よく気が付いたね。君になら安心して任せられる」
「君なら出来るよね」
僕は応えた。その目に怯えながらも応える。何者でも無い僕は、誰かの目だけを見て応えた。
それは僕の人生の中で大きく力を増した唯一のモノだから。それしか僕には無いから出来得る限りの事をする。
ある日、僕は力を抜いた。ほんの少しだけ疲れたからだ。ちょっとサボって楽をした。たったそれだけだ。
「どうして出来なかったんだ」
「期待していたのにガッカリだ」
「まぁ、君なら次は失敗しないよね」
その目は僕を突き刺す様に見る。ただ凶器のように見つめる。言葉ではなく目で僕を刺殺した。目で杭を打つ様にただ言葉を添えるだけで。
「すみません。分かりました。大丈夫です」
僕は目を逸らして、応える。手で刃を握りしめて、奥歯を噛み締めて、目尻を潰して応えた。
最初に僕は嘘を覚えた。嘘は便利である。騙された人は幸せそうに接してくれる。
「あの人は良い人だ」っと触れ回る。
次に僕は自分を殺す事を覚えた。嘘をより本物に近付ける為である。相手は僕を殺した事にも気付かずに嬉しそうに目の前で接した。
「彼は優しい人だ」っと触れ回る。
そんな僕は壇上に立つ程の成功を得た。誰もが僕を見る。誰もが嬉しそうに僕を見る。司会は僕の紹介を意気揚々とした。
「さぁ、皆さん。彼に盛大な拍手を」
1人2人と両手を広げて、その手を合わせて音を鳴らす。たった数十秒も経たない内にその音は全員が鳴らした。その音は僕を蜂の巣にする弾丸でしか無い。
何も知らない彼らにとって、それは美しい音なのだろう。僕は賞賛の証であるモノを落とした。
床に落ちた瞬間、鈍音が響く。弾丸は止まる。立て掛けられたマイクを僕は手に持っていた。
「皆さんすみません。慣れない壇上で、手が震えて大切なトロフィーを落としてしまいました。この場を借りてお詫びしたい。そして、改めて…ありがとうございます」
言い終えた僕は、トロフィーを拾い上げて笑う。会場は再び、弾丸を装弾して連射する。
次の日、僕自身を使って鈍い音を響かせた。その瞬間は鮮明に覚えている。
誰の目も無い。涼しい風が僕を包む。優しく目を瞑った。身体は暖かいモノに包まれた後に冷たくなったあの日を僕は覚えている。
もう目を開けれないことが幸せに満ちている。
瞼の裏側すらも真っ暗になった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
“5分”で読めるお仕置きストーリー
ロアケーキ
大衆娯楽
休憩時間に、家事の合間に、そんな“スキマ時間”で読めるお話をイメージしました🌟
基本的に、それぞれが“1話完結”です。
甘いものから厳し目のものまで投稿する予定なので、時間潰しによろしければ🎂
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
【ショートショート】雨のおはなし
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。
声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる