短き者達

雨彩 色時

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寂しい背中

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「よぉ、元気にしてるか?」

 俺の目の前に来て彼はそう言う。彼は俺の親友だ。もう何回来たか覚えてはない。
 彼は俺の返事を待たず、花を花瓶にやり、束ねた線香に火を付けて合掌した。

 彼は何を思い合掌しているのだろう。
 今の俺には分からないだろう。

 合掌をし終えると彼は俺を丁寧に洗う。仕事の愚痴や他愛ない話をしながらゆっくりと洗ってくれた。

 俺はもう彼に愚痴も言えないし、彼と過去の笑い話も出来ないし、返事すら出来ない。
 なぜなら、俺は。つらいこの世から俺は逃げた。
 悔いは当たり前のように沢山あった。
 しかし、俺は全てから目を逸らしたのだ。

 彼のように向き合いきれなかった。
 彼はそんな俺を最初は責めていた。


「な…何でだよ!? どうして!? …そんなのズルいじゃねぇかよっ!! う"っ…」

 怒鳴るように責めていた。何も言わない俺を泣きながら責めていた。
 あの時、俺はどんな顔をしていたのだろう。

 今となっては落ち着いて、こうして年に数回来てくれている。
 彼は洗い終えると煙草を取り出した。
 俺が吸う銘柄だ。彼は吸わないのにこの時は一本だけ無理をして吸っている。
 彼は咳き込んだ。


「やっぱり、おいしくないな……。ホラッお前も吸えよ。」

 そう言って彼は一本取り出し、火をつけて俺の目の前に置く。煙草はゆっくりと短くなってゆく。


「ホラッ酒も呑もう。」

 そう言って彼は二つの缶を取り出した。
 彼は蓋を開けて喉を鳴らし、もう一つを俺に呑ませてくれた。前はよく二人で呑みながら夢を語ったものだ。


「じゃあな、また来るわ。」

 俺は寂しそうな彼の背をいつ見ても慣れない。
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