嫌いな相手に嫁ぎましたが、納得いかないので早々に離婚を考えてます。

11

「メアリ、こんな遅くまで何してたの？」


セスは私を、怖いくらい険しい表情で見つめる。
火照っていた顔が、一気に青ざめる。



「遠くの友人に会いに…」


わたしは強張る口をなんとか動かし、言葉を発する。


「本当に？」


セスが私をまっすぐ見る。


「はい。」


セスの冷えた瞳を見返しながら、なんとか答える。
しかし、その言葉を聞いたセスの表情が曇る。

答えを、間違えた。

そう咄嗟に思ってすぐ、セスの手が私を捕らえる。


「嘘ついたね、メアリ。」


セスはそう冷たく言い放つ。
そして私を強引にかけ馬車から降ろすと、そのまま寝室のベッドに投げ出す。


「待って、セス…」


セスの表情が険しい。
終わった、何もかも。

セスの体が覆いかぶさる。
そのまま首筋に嚙みつかれ、私は体を震わせる。

セスの怒りをひしひしと感じる。

私の体をセスの手がなぞる。


「セ、ス…」


冷たい瞳とは裏腹に、優しく触れるセスの手。
でもそれが彼の静かな怒りを物語っているようで、恐ろしくなる。
その恐怖に目がぼやける。


「どこでこの匂い、つけてきたの？」


セスの手が、私の頬をつたる涙をすくう。
セスの瞳が私をとらえる。
わたしは今、セスに試されている。

ここで真実を話せば、セスの怒りは静まるだろうか…

頭にそんな考えが浮かぶ。

でも…それはありえない。

真実を話したら、セスは私を…
いや、もう嫌われているか。

セスは最初から、私の嘘を見破った。
そしてわたしが嘘をついた理由も察した。

だから今、この状況になっている。

このまま失望されるくらいなら、彼を突き放したほうがいい。


「不倫をしているあなたに言われたくないです。」


こんな状況で彼を責めるのは卑怯だ。
本当は、清廉潔白の自分で言うべきだ。

夫ではない人と遅くまでいたのは事実。
決して、肉体関係をもつほどのやましいことをしたわけではない…
だけどルイに口づけされたとき、私はときめいてしまった。

セス以外の男に…わたしはそんな浅ましい自分をセスに知られたくない。


「前から頻繁に特定の女性と密会していたことを私が知らないとでも？」


私がそういうよ、セスの表情は焦りに変わる。

それを見た私は妙に冷静になる。

はあ、セスの不倫相手は、この状況を喜ぶでしょう。
今思えば、不倫相手がここ最近セスに会いに来なかったのは私が集めた資料を見たからかも。

セスと離婚したがる私がどこかで別れを切り出すと踏んだうえで、あえて会いに来なかったのかも。
私という邪魔者が自ら消えてくれれば、わざわざこの屋敷に来て牽制する必要もないもの。

ああ、不倫相手の望み通りの展開。

セスとは、もう一緒にいられない。
私は、今度こそしっかりと彼の瞳を見据える。


「あなただって不倫してるんだから、私だっていいでしょ？」