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勇気

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「残念だけど、私にもミゲル王子にも貴女の泣き真似は通用しないわよ。」


私はナタリーに対してそう伝える。
確かに彼女は周りを虜にする才能があるけれど、ミゲル王子は彼女に魅了されない。

何故なら今も、彼は私の手を握っていてくれているから。
私がハンク達に立ち向かう勇気をくれているから。


「嘘よ!
そんなわけない…ミゲルは私のことが好きなの。
私を差し置いてアナが選ばれるわけないでしょ!」


もう泣き真似は効かないと思ったのか、遂にナタリーの本性が出た。
しかし、周りの両親だった人達は彼女の態度の変化に気付かないらしい。
バカなのか?


「どうして、ミゲル王子が貴女を選ぶのよ。
彼と面識もないでしょ?」


「ミゲル…!」


優しく諭した私の声を無視して、今度はミゲルの元に駆け寄るナタリー。
そしてついでに私と繋ぐミゲルの手を無理やり取るようにして握った。
ナタリーの大胆なその行動に私は驚く。
彼女、一体なにをするつもり?


「ミゲル、私はナタリー。
初めましてだけど、私のことを助けて。」


ナタリーお得意の上目遣いをみせる彼女に私は嫌気がさした。
ミゲル王子は…
横目でチラリと彼の顔を伺うと、今までに見たことのない冷酷な目付きでナタリーを見下ろしていた。
私は寒気がする。


「離してください。」


「え…」


ミゲル王子はそう一言言ってナタリーが握る手を振りほどく。
彼女は驚いたように硬直していた。


「君の色仕掛けが通用すると思っているの?
僕には、アナという最愛の婚約者がいるというのに。」


ミゲル王子は当然といった風にそう言いきる。
彼の不意打ちの言葉に、私は赤面するのをおさえられなかった。

恥ずかしい…でも嬉しい。
そんな複雑な感情が入り交じる。


「そんな、嘘よ!
ヒロインの私よりも悪役令嬢を選ぶなんて…ありえない。」


ナタリーは、硬直が解けてすぐそううわ言のように呟いた。
ヒロイン?悪役令嬢?

私には彼女のいう言葉が理解できない。


「君との話は済みました。
これから本題に入らせて頂きます。」


場の空気が落ち着いた頃合いに、ミゲルが改めてそう言った。


「衛兵、罪人をここに。」


そして扉の方へとそう呼び掛けた。


「離せ…!」


衛兵に連れられて入ってきたのは私の元婚約者ハンクだった。
私は彼の姿を捉えると同時に恐怖がよみがえりそうになる。


「大丈夫、僕がいるから。」


そんな私をなだめるようにミゲル王子が私の腰を引いた。
密着する形になり彼の温もりが伝わる。
私は自然と肩の力が抜ける。

深呼吸をはく。
これからこの男に鉄槌を下そう。

私はそんな強い思いで前を見据えた。
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