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絶望
しおりを挟む自信過剰にも程がある。
まだ私が元婚約者を好きだとでも思ってるの?
そもそも、最初から彼を好きだったことさえない。
「お断りします。」
「…そうか。」
私が断ると、しばらく沈黙するハンク。
「手荒な真似はしたくなかったのだが、しょうがないな。」
諦めたかと思ったら、彼はおもむろに手を叩いた。
「は…?」
すると私の周りを数人の護衛が取り囲む。
一体なんの真似?
「ホテルまで連れていけ。」
そんな声とともに私の視界は暗転した。
──────────
目を覚ますと、私はベッドの上に横たわっていた。
起き上がろうとするも、すぐに無理だと気付いた。
手首が縛られていたのだ。
「やっと起きたか。」
私はその声にバッと辺りを見回す。
薄暗い部屋の影になる辺りに、ハンクが座っていた。
「どうしてこんな真似をするの?」
私を拘束して何をするつもりなのか…分からないわけではない。
だが、私の考えすぎだと思いたかった。
まさか、ハンクがそんな手酷い真似…彼にだってそれくらいの良心はあると信じたかった。
「君が僕の子供を産んでくれないなら、無理やり産ませるまでだ。
国王となった僕に逆らおうなんて愚かにもほどがあるぞ?
お前はただ、僕の子供を孕めばいいんだよ。」
しかし、私の願いは虚しく砕け散った。
「なんて卑劣な人…」
私は悔しくて堪らなかった。
今までハンクに対して怒りを感じなかったわけではない。
ただ、もうそういう人だと割りきっていたから冷静になれていただけ。
しかしそれも、ハンクという人間に良心がある前提だった。
まさか、こんなにクズな男だとは…初めて見た彼の一面に私は恐怖を覚える。
「卑劣で結構、君にどう思われようと関係ない。」
恐怖で身がすくむ私に近付きながらハンクはそう言い捨てた。
「ナタリーは、貴方が私を抱くことを許しているの?」
私は藁にもすがる思いで言った。
「ナタリーは寛容だから許してくれたよ。
君が産んだ子供はナタリーの子になるし、彼女の体裁も守れる。
それに、君達は彼女だから血筋的にもなんら問題はない。」
絶望、まさにそんな状況だった。
誰か…
「誰か…!
助けて…!」
私は今更ながらに外に向かって助けを求める。
「君に助けなんかこないよ。
だって君に助けてくれる人なんかいないだろ?」
ハンクにそう言われて私はハッとする。
私を助けてくれる人?
ミゲル王子…!
そうよ彼なら…
あれ?
でも待って、私の居場所が分かるかしら?
私でさえここがどこかも分からないのに…
「もしかして、君が誑かしてる王子を待とうとしてるのか?」
ハンクのその言葉に私は気付いた。
たまたまミゲル王子が会いに来なかったのではなく、そもそも彼の用事を作ったのがハンクだとしたら?
全て、仕組んでいたんだわ。
それなら…もうダメだわ。
誰も助けにきてくれない。
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