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勝負

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「追放されたことなど気にしません。」


ミゲル王子が気にしなくても、周りがそうとは限らない。


「私が気にしてしまいます。」


「僕は貴方と添い遂げたいのです。
どうか結婚してくれませんか。」


「お断りします。
私には荷が重いですわ。
貴女の妻になれば、色々な制約でがんじがらめになってしまいます。
私には合いません。
私は自由がほしいのです。」


私は一向に引かない王子に、きっぱりと本心を伝える。


「分かりました…」


そんな意志が伝わったのか、王子は諦めたようにそう言った。


「それでは、私はこれで…」


用が済んだ私は、ささっとお辞儀をしてその場を後にした。


────────


数日後


私は再び市場へとやって来た。

編み物用の糸と何か可愛い小物でもあれば、ぜひ購入したい。


「アナ嬢、僕もお供します。」


市場を回っていると、声をかけられる。


「ミゲル王子…?」


なんとそこには数日前に振ったはずのミゲル王子が立っていた。



「どうして私の居場所が分かったんですか?」


「それは…まぁ、王子ですし。
調べればなんとでも…」


なんと横暴な。
私のプライバシーはないの?


「お断りしましたよね。」


「はい、撃沈しました。
でもよく考えてみたんです。
貴女は僕のことを知らない。
ならまだチャンスはあるな、と。」


この人…図太いわね。
自信過剰とでもいうべきか。
いや、でも確かに自信がつくくらいの美丈夫だし…

私は、そんな王子の態度に変に納得してしまう。


「そんなこと言われても…私の意志は変わらないと思います。」


「それじゃあどちらが折れるか勝負ですね。」


勝負?
私が勝つに決まってるわ。


「僕は貴女を諦めませんから。」


王子はそう言って私に腕をさしだす。


「エスコートしますよ、アナ嬢。」


「エスコートは必要ないです。
それと私はもう伯爵令嬢ではありませんので、嬢と呼ぶのは止めてください。」


「それでは、アナと呼んでもいいですか?」 


なんだか嬉しそうにそう言った王子。
他に呼び名はないし…


「どうぞ、構いませんわ。」


「ありがとうございます、アナ。」


王子は上機嫌にそう言って私と並んで歩く。
私は自分の歩幅に王子が合わせているのに気付き、さすがだと感心してしまう。
元婚約者にこんな対応をされたことはなかったので、どこか気恥ずかしくなる。

しかしそれを隠すように私は澄ました表情を作る。


「私の買い物に付き合うだけなら、つまらないと思いますよ。」


「構いません、アナと一緒ならどこでも楽しいと思いますから。」


「そうですか。」


もうなにも反応しないようにしよう。
ここで頬を赤らめれば王子の思うつぼだ。

すぐに諦めてくれるはず…もう少しの辛抱だわ。
私はそう自分を励ました。
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