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逃げ出す
しおりを挟む「…」
「…」
目の前にいる寡黙な夫と、無言の朝食。
なんてつまらないのかしら。
この国で一番名門と言われるアンダー公爵家に嫁いできたアリスは、いつものように心のなかで嘆いた。
名門公爵家の跡継ぎシーク子息から求婚された時、私の実家エイマー伯爵家はてんやわんやだった。
「どこで出会ったの?」など子息との馴れ初めを両親に聞かれるも、全く見に覚えがなかった。
そもそも面識自体がないはずなのだ。
私は周囲におだてられるままに結婚をした。
結婚後に聞こうと思ったが、シーク子息はかなり寡黙な人だった。
そんなことを気軽に話すのも気が引けて、結局なにも聞けなかった。
だから今でもなぜ私が妻に選ばれたのか謎のままだ。
嫁いですぐに、シーク子息は公爵を継いだ。
義父母は離れの屋敷に隠居していった。
なので私は、夫が執務中に義父母が住む離れに出向いて2人と親交を深めようとしていた。
しかしすぐに無理だと悟った。
私が紅茶を出しても無視、挨拶しても無視、まるで伯爵家の出の私とは会話なんかできません、と言われてるようだった。
そんな空気に耐えることなどできるはずもなく、次第に私が離れに出向く回数も減っていった。
その事について夫から咎められることもなかったので、それからは義父母との関係も疎遠になってしまった。
義父母とも交流しないなんて妻失格だと自分を責めるも、離れに行く気にはなれなかった。
そしてその悩みを夫に相談することもできぬまま数ヶ月が過ぎた。
「…」
「…」
いつもと変わらず無言の朝食時間を過ごす。
数ヶ月がたち、寡黙な夫との夫婦関係はあまり良好とは言えなくなっていた。
最初の頃はそこそこ夜の営みもあった。
しかし最近はめっきりなくなってしまった。
寝室は共にしているが、このままずっとご無沙汰ならそれも必要なくなるだろうなと思っていた。
正直言って、この生活に嫌気がさしていた。
義父母との関係も上手くいかない、ましてや夫との夜の営みさえない妻…
この家に私がいる必要性ってあるのか?
そんな疑問がここ最近、私の頭を駆け巡る。
もうこの生活に耐えられそうになかった。
実家に帰りたいとホームシックになっているこの機会を逃せば、一生つまらない人生を過ごすかもしれない。
今なら間に合う。
それに疎遠の義父母からしても早く出ていってほしいだろうし、夫だってこの結婚に失敗したと後悔しているかもしれない。
そう思ったらこの家にいることがとてもバカらしく思えた。
だから私は、衝動のままに離縁状を机に置き、嫁ぎ先から逃げ出した。
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